地球内部から地表に向かって放出される熱量のこと。単に熱流量ともいう。溶岩の流出など物質の移動によるものではなく、熱伝導による熱の流れをさし、地温勾配(こうばい)とその場の岩石などの熱伝導率の積で求められる。陸上における地温勾配の測定は、地表付近の温度の乱れを避けるために、深井戸などを使った大掛りなものとなる。これに対して、深海底では水温が年間を通じてほとんど一定なので、長さ数メートルの温度計のついた槍(やり)を堆積(たいせき)層に突き刺すことで容易に地温勾配が測定できる。このため、世界的にみると、陸上より深海部での測定のほうが数が多い。地殻熱流量の平均値は、1平方メートル当り1000分の1ワットという単位で70程度であるが、かなり地域差がある。高い熱流量の地域としては中央海嶺(かいれい)が代表的なものであり、日本海などいわゆる縁辺海でも高い熱流量が観測されることが多い。反対に、熱流量の低いのは海溝付近などである。地殻熱流量は、地球熱学におけるもっとも基本的な観測値の一つであり、地球内部の熱的状態やプレートテクトニクスの研究に欠かせないものである。
[吉井敏尅]
地球内部から地球外に向かって流出する熱量。よく知られているように地球内部は温度が高い。それは地球創成時に蓄えられた熱,放射性物質による発熱などのためであり,それはたえず地殻を通って地球外に放出されている。地殻内での鉛直方向の温度こう配(地中に入るにしたがって温度の上昇する割合。地温こう配という)と地殻の熱伝導率を実測し,その両方の測定値を掛け合わせると地殻熱流量が求められる。単位は単位時間に単位面積を通過する熱量であって,10⁻6cal/cm2・sが用いられ,熱流量単位(HFU)と呼ばれる。全世界で約1万点の実測値があり,陸地での平均値は約1.5HFU,海洋での平均値は熱水作用による放熱量も含めて約2.2HFU,全世界の平均値は約1.9HFUと推定されている。熱流量の単位としては,最近ではSI単位系のmW/m2(1HFU=41.87mW/m2)もよく用いられる。地殻熱流量は,火山帯,海嶺地域などで高く,楯状地とか海嶺から遠い海洋地域などで低い。すなわち,熱流量は新しい地殻をもつ地域で高く,古い地域で低くなっている。熱は各種の地学現象,とくに造山作用などのエネルギー源であると考えられるので,その流出量の分布状態を詳しく調べることは重要である。
執筆者:上田 誠也
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(斎藤靖二 神奈川県立生命の星・地球博物館館長 / 2007年)
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