地球物理学(読み)ちきゅうぶつりがく(英語表記)geophysics

翻訳|geophysics

精選版 日本国語大辞典 「地球物理学」の意味・読み・例文・類語

ちきゅう‐ぶつりがく チキウ‥【地球物理学】

〘名〙 地球の全体としての形や構造、あるいは熱や磁気、地震、火山などの現象を、物理学の手法を用いて研究する科学。主な分野として、地震学、地球熱学地球電磁気学、海洋学、超高層物理学などがある。
比較言語学に於ける統計的研究法の可能性に就て(1928)〈寺田寅彦〉「地球物理学上の近年の問題となって居る陸塊の水平移動に関する学説」

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デジタル大辞泉 「地球物理学」の意味・読み・例文・類語

ちきゅう‐ぶつりがく〔チキウ‐〕【地球物理学】

物理学の手法を用いて地球全体や、その各部分を研究する学問。測地学・地震学・地球電磁気学・海洋学・気象学などを含む。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「地球物理学」の意味・わかりやすい解説

地球物理学
ちきゅうぶつりがく
geophysics

地球上や地球内部、さらに太陽系の各惑星やその間に広がる空間などを対象とし、おもに物理学手法で研究する学問の分野。地質学、地理学、地球化学などとともに地球科学を構成する。

[河野 長]

歴史と発展

古代エジプト文明の時代には、毎年のナイル川の氾濫(はんらん)によって肥沃(ひよく)な土砂が運ばれてきたことが、農業の発展の基礎となっていたが、氾濫によってわからなくなった土地の境界を決め直す必要から測量技術が発達した。また紀元前3世紀に、エジプト北部のアレクサンドリアに住んでいた自然科学エラトステネスは、アレクサンドリアとナイル川中流のシエネ(現在のアスワン)との間の距離と、両地点での夏至の日の太陽の高度から、地球の周長を1割以下の誤差で正しく推定している。これらは、地球物理学の一分野である測地学の誕生と考えることができる。暦をつくる必要から古代エジプトやメソポタミアでの天体観測に始まった天文学と並んで、測地学はすべての自然科学のなかでもっとも古い歴史をもつ学問である。

 16世紀から17世紀にかけて近代科学が発展を遂げた時代には、地球に関する問題が物理学の重要な課題であった。イギリスのW・ギルバートは、磁石(ロードストーン)を球状に整形し、その上で磁針の指す方向の分布を測ったところ、地球上での地磁気の分布とよく似ていることを発見した。これは実験物理学を創始したともいえる。

 I・ニュートンが力学をつくりあげる際には、ケプラーやコペルニクス以来の惑星の運動の観測が重要な基礎となったが、ニュートンはまた、自転があるために地球は球形からずれて、赤道付近が張り出した回転楕円(だえん)体になっていることを予言している。この予言は、約1世紀後にフランスのアカデミーが、北極圏内のラップランドと赤道近くの南アメリカ・エクアドルに派遣した探検隊による緯度1度の長さの測量によって証明された。こうした、物理学の対象の重要な問題としての地球の諸現象という関係は、ほぼ19世紀終わりごろまで続いた。ドイツのガウスによる地球磁場の解析は電磁気学の大きな発展といえるし、イギリスのG・ストークスが行った流体力学の研究では海水の運動の解明が重要目標であった。

 20世紀に入って、物理学の主要な対象がよりミクロな世界へ移っていったのに伴い、地球物理学が物理学から分離した。初めは地震波の伝搬を解析して地球内部構造を求めたり、地球の自転の変動を弾性論によって説明しようとするなど数理科学的色彩が強かったが、観測手段が急速に進歩するにつれて、大量のデータから情報を抽出する実証的な科学へと変化してきた。とくに1950年代からの海洋観測の進展と、1960年代からの人工衛星宇宙探査機の登場は、地球科学にとって未知の分野であった海底や宇宙空間に観測を広げた点で画期的であった。海洋観測からは海洋底拡大説、さらにそれが発展したプレートテクトニクスが誕生し、細分化、専門化の道をたどっていた地球科学をふたたび統合するきっかけを与えた。また宇宙探査は、それまで地球周辺に限られていた地球物理学の対象を月や惑星やその間の空間に広げた。

[河野 長]

地球物理学の各分野

地球物理学は大きく分けて、(1)固体地球を対象とするもの、(2)大気や海洋など流体部分を対象とするもの、(3)大気の上に広がる磁気圏や惑星間空間を対象とするもの、に分類される。

 (1)は狭い意味での地球物理学とよぶこともある。このなかには、地球の形・大きさ・重力の分布を調べる測地学、地震の発生の機構や地震波の地球内部での伝搬の仕方、さらに地球内部構造の解明を目的とする地震学、地球深部での高温高圧下における物質の性質やマントル対流の機構などを研究する地球内部物理学、地球のもつ磁場の性質や、地球内部での電磁感応現象を対象とする地球電磁気学、地球内部でのマグマの生成や火山の噴火などに焦点を当てる火山学などがある。もちろん、これらの分け方は便宜的なものであり、同じ固体地球を対象とする以上、相互に密接に関連している。また火山学は地球物理学と地質学の境界領域でもある。さらに、月や惑星の形成史や構造などを扱う惑星科学が発展してきているが、これも固体地球物理学の関連分野になっている。

 (2)の流体圏を対象とするもののなかには、大気中での風や降水などの現象を調べる気象学(または大気物理学)、海洋における水の循環や移動が対象となる海洋学(または海洋物理学)、湖沼や河川など陸上の水について研究する陸水学、雪や氷さらには氷河や大規模な氷床の生成維持機構を対象とした雪氷圏物理学などがある。

 (3)は、大気圏より上層の、とくに電離した気体が重要となる高度(電離層など、高度約50キロメートル以上)を対象とする学問で、もともと地球電磁気学の一分野として出発したが、今日では超高層物理学とよばれる独立の大きな分野に発展した。この分野はまた宇宙空間物理学とか太陽地球系物理学とよばれることもあり、電離度の高い気体(プラズマ)が広がる地球磁気圏から惑星間空間、さらには惑星磁気圏など、太陽系の広い空間を研究対象としており、近年の発展は著しい。

 地球物理学の各分野が基礎としているのは、力学、熱力学、電磁気学、弾性論、流体力学など、おもに19世紀までに完成をみた古典物理学が主であり、量子力学や素粒子物理学など、現在の物理学の最先端の分野に関係することは少ない。しかし、100万気圧、3000℃といった高温高圧の極限条件下での物性など、地球物理学が学界をリードしている部門もある。また基礎方程式は知られていても、サイズや時間などが人間のスケールと違いすぎて実験室では検証できない現象などは、実際の地球の研究にまたなければならない。この意味で、地球は自然科学の巨大な実験場であるともいえよう。

[河野 長]

『坪井忠二編『地球物理学』(1966・岩波書店)』『上田誠也、水谷仁編『地球』(1978・岩波書店)』『力武常次著『地球物理学』(1978・学会出版センター)』

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改訂新版 世界大百科事典 「地球物理学」の意味・わかりやすい解説

地球物理学 (ちきゅうぶつりがく)
geophysics

地球を物理学的方法によって研究する地球科学の一分野。固体としての地球(岩石圏)を取り扱う測地学,地震学,火山学,地磁気学などと,地球表面あるいは近傍の水圏および気圏を取り扱う海洋学,気象学,陸水学,超高層物理学などの2大分野に大別される。測地学は地球の形,大きさ,内部構造などを測地観測の結果をもとに議論し,また地殻の変動を議論する。地震学は地震計測によって地震活動を検出し,その結果を用いて地球上各地域の地震活動度を解明する。また地球内部での地震波伝搬を解析して地球内部構造を解明する。火山現象は地質学,地球化学の方法によっても研究されるが,火山の構造,成因,噴火とそのメカニズムを測地学的・地震学的方法によって調べるのが地球物理学の一分野としての火山物理学である。地磁気学は地球磁場の観測結果を解析し地球内部の電磁気的諸性質を明らかにする。海水の成分や運動を扱い海洋の大循環を(最近は海洋底の運動に関する研究も)議論する分野が,海洋学の一分野である海洋物理学である。気象学は大気の成分,状態,運動を解析し,大気の大循環を論じ,気候とその変動を解明する。陸水学は河川,湖沼,地下水など内陸部の水圏を研究の対象とし,その形態,変化,水収支などを議論する。超高層物理学は成層圏,電離圏などでの電磁気的諸現象を研究する。地球電磁気学は上述の地磁気学と超高層物理学の一部を含む。

 地球物理学のうち,もっとも歴史の古いのは測地学である。前3世紀中ごろ,ギリシアのエラトステネスは球形の地球の半径を4万5000km(正しい値より約10%過大)と算出した。I.ニュートンやC.ホイヘンスは地球楕円体説を唱え,その扁平率を推定した。19世紀の末,測地学は理論的にも計測的にも早くも精密科学としての形態をととのえた。地磁気学も1600年のW.ギルバートの《磁石について》あたりから経験科学の姿をとりはじめ,19世紀の半ばには碩学C.F.ガウスによって地磁気ポテンシャルの一般理論が展開され,理論的科学としても確立した。地震学は明治の初め(19世紀末),日本で外国人科学者による地震計観測が始められて初めて近代科学となった。ヨーロッパでは20世紀に入りモホロビチッチAndrija Mohorovičićが地殻の深さとして約35kmの不連続面を発見し(1909),B.グーテンベルクが地表より2900kmのところにマントルと核の境界があることを確立し(1913),地殻,マントル,核という地球内部の成層構造の発見に地震学が大きく貢献した。1847年にベスビアス火山観測所が設けられるなどのことがあったが,火山の地球物理学的観測は20世紀に入ってからのことである(浅間山火山観測所,ハワイ火山観測所の創立はそれぞれ1911年,1912年)。

 気象学では17~18世紀に温度計,気圧計,湿度計など気象観測に欠かせない計器が創案・改良されたあと,19世紀半ばの1855年にU.J.J.ルベリエが台風警報事業を創始,20世紀に入ってからは地上40km以上の成層圏の発見があり,関心は対流圏外にも拡大した。またリチャードソンLewis Fry Richardsonなどは早くも天気の数値予報の夢をえがいた。海洋の探検は古くから行われていたが,海洋観測が近代的計器によって行われ,その成果によって海流理論が確立したのは1905年のV.W.エクマンの海流理論など20世紀に入ってからである。第2次大戦後は広大な海洋での海底地形の研究も著しく進んだ。超高層物理学は1902年にA.E.ケネリー,O.ヘビサイドがそれぞれ独立に電離層の存在を提唱,1925年E.V.アップルトンがその存在を確認したあたりから始まる新しい科学であり,太陽風と地球磁気の関係の解明など宇宙科学とも関係の深い分野である。

 地球物理学ではその学問の性格上,古くから国際協力が行われてきた。万国測地学協会の成立は1886年,万国地震学協会の創立は1903年,国際火山学協会の設立は1919年である。気象学の分野でも古くから国際気象台長会議で国際連絡が行われていた。これらを背景に,測地学,地震学,気象学,地球電磁気学,海洋学,火山学の六つの分科をもつ国際測地学・地球物理学連合が成立したのは1919年である。地球物理学各分野にまたがる国際的協同観測の歴史も古く,第1回極年は1882-83年のことであり,50年後の第2回極年(1932-33)を経て,第3回からは名称を改め25年後に国際地球観測年(IGY。1956-57)として,気象,地磁気,電離層,太陽活動,海洋,地震,重力,人工衛星などの諸観測が実施された。これに続いて国際地球内部開発計画(1962-70)が行われ,この間に地球科学の変革といわれるプレートテクトニクスの理論が生まれ,国際地球内部ダイナミクス計画(1972-79)ではこの仮説が検証され,国際リソスフェア開発計画(1981-90)へと発展し国際協同研究が推進された。このほか,各分野の協同観測としては,地球大気開発計画,国際インド洋観測,国際黒潮協同観測,国際深海掘削計画,国際水文学十年計画,国際静穏太陽年観測,国際活動太陽年観測などがあり,それぞれ大きな成果をあげた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「地球物理学」の意味・わかりやすい解説

地球物理学
ちきゅうぶつりがく
geophysics

地球上および内部の自然現象を,物理学的手段を用いて研究する自然科学。広義には,宇宙空間,惑星,月,太陽などを対象とする宇宙物理学をも含む。研究対象によって多くの学問分野に分けられる。地球内部や表面を対象とするものには,地震学,火山学,地球内部物理学,固体地球物理学,地球力学,測地学などがあり,海洋を対象とするものには海洋物理学があり,大気圏,磁気圏を対象とするものには気象学,地球電磁気学,超高層大気物理学がある。またほかの天体を対象とするものには,惑星物理学,月物理学,太陽物理学,宇宙空間物理学などがある。

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百科事典マイペディア 「地球物理学」の意味・わかりやすい解説

地球物理学【ちきゅうぶつりがく】

地球上およびその内部で起こる物理現象のうち,地球そのものの存在と関係の深い領域を研究する科学。測地学,地震学,地球電磁気学,火山学,海洋学,気象学,陸水学などに分けられる。対象の性質上,国際的協同研究が多く行われている。→国際地球観測年
→関連項目地震学

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岩石学辞典 「地球物理学」の解説

地球物理学

物理学的方法による地球の研究に関する科学をいい,重力調査,地磁気,地震学などを含む.

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