地震による地球内部の急激な運動のために発生した振動は,弾性波として地球内部を伝わる。この波動を地震波と呼ぶ。地震波の発生源は震源と呼ばれる。震源よりある程度離れた地点では,最初に〈がたがた〉と小さく上下方向に揺れたのち,〈ゆさゆさ〉と水平方向に大きく揺れ,その後〈ゆらゆら〉と小さくなりながら振動が続く。最初の〈がたがた〉がP波,次の〈ゆさゆさ〉がS波,これに続くのが表面波である(図1)。P波は縦波で,波の伝わる方向に振動し,伸び縮み(体積変化)を伝える。S波は横波で,波の伝わる方向と垂直に振動し,ねじれを伝える。縦波の伝わる速度の方が横波より速いので,P波が先に到着するのである。S波のうち,地表面に平行に振動する成分をSH波,他をSV波と呼ぶ。P波,S波ともに震源から四方八方へ三次元的に伝わり,実体波と呼ばれる。これに対し,表面波は,地球表面に沿って二次元的に伝わる。P波が到着してからS波が到着するまでの振動を初期微動と呼ぶ。電光を見てから雷鳴を聞くまでの時間が短いほど雷までの距離が近いのと同様に,初期微動継続時間が短いほど震源は近い。海底で起きた地震を海岸に近い点で観測すると,地震記録上でP波やS波に続いて継続時間の長い顕著な相が見られることがある。これは海水中を音波として伝わった波であり,P波やS波に続く第3の波としてT相と名づけられている。地震記録上では,表面波に続いて振幅の小さな尾部がある。これは地殻や上部マントルの構造が不均質なために生ずる散乱波であり,コーダと呼ばれる。
実体波も表面波も,地球という有限な物体内の振動であるから,地震波はすべて地球の自由振動にほかならない(地球自由振動)。巨大地震が発生すると,周期の長い,地球全体としての振動も励起される。長周期(100秒程度)で高倍率(1000倍程度)の地震計の場合,巨大地震発生後数日間は地震波が継続して記録される。地球の自由振動で,最も長い周期は,伸び縮み振動で54分,ねじれ振動で44分である。
表面波にはレーリー波とラブ波とがあり,前者は波の進む方向を含む鉛直面内で振動し,後者は水平面内で波の進む方向と垂直に振動する。P波,SV波,レーリー波は地球の伸び縮み振動に,SH波,ラブ波は地球のねじれ振動に対応している。表面波の伝わる速度は,その波長程度の深さまでの地球の地震波速度構造によって決まる。マントル内では通常,深部ほど速度が速いので,波長が長く,周期の長い表面波ほど,伝わる速度が速い。すなわち,表面波はその周期によって伝わる速度が異なる。このような波の性質は分散と呼ばれる。表面波のうちマントルの構造に大きく依存するものの周期は,おおよそ100秒~10分である。これは節の数が10~100の地球振動に対応している。周期40~300秒のラブ波はほぼ同時に観測点に到着し,大きな振幅をもつ孤立波として地震計に記録されることが多く,G波と呼ばれる。
実体波は,地球表面で反射し,地球内部の地震波速度の不連続面で反射あるいは屈折する。この際にP波の一部はSV波に,SV波の一部はP波に変わる。この現象は変換質または変質(コンバージョン)と呼ばれる。震源を出た地震波が観測点に到達するまでの経路には,反射,屈折,変質などによりさまざまな場合がある。特定の経路をたどった実体波には固有の名前がつけられている。例えば震源から上方へ出たP波が地球表面で反射し,その後通常のP波として観測点に到達した場合はpP波と呼ばれる。同様に震源から上方に出たS波が地球表面で反射し,P波に変換されて観測点に到達した場合はsP波と呼ばれる。P波と,pP波やsP波との到着時刻の差は,震源の深さの決定に用いられる。地球内部の最も顕著な地震波速度の不連続面はマントル・核境界面である。S波速度はマントル下部で7.3km/sであるが,外核では0,すなわちS波は伝わらない。このためS波は特に強くマントル・核境界面で反射される。深い地震が近くで起きた場合には,この境界面で反射されたS波,すなわちScS波が顕著に認められる。同様にこの境界面で反射されるP波はPcP波と呼ばれる。このほか,外核内のP波をK,内核内のP波,S波をそれぞれI,Jという記号で表す。
震源で地震が発生してから特定の位相の地震波(P波,S波,ScS波など)が到着するまでの時間を走時といい,走時を震央(震源の真上の地表上の点)からの距離の関数として曲線で表したものを走時曲線と呼ぶ。震央からの距離としては,地球の中心から,震央と観測点を見込む角度を用いることが多い。これは角距離と呼ばれる。
震源から斜め下方へ出た地震波は,マントル中の地震波速度が深いほど速いため,地球の中心から遠ざかる方へ屈折され,地表に達する。このため,震央から角距離で100度程度までは連続してP波の到着が認められる。しかし,これ以遠ではP波の到着が認めにくくなる。これはP波が外核内の遅い速度によって,地球中心部の方へ屈折されるためである。震央距離104度から142度の範囲は,P波の到着しない,核の影の地帯shadow zoneと呼ばれる。しかしこの範囲には,マントル・核境界の回折波や,外核・内核を通ったPKIKP波などの微弱な波が認められる。
地震波は伝わるにつれて波面が拡大するので,その振幅は減少する。これを幾何学的減衰と呼ぶ。実体波の振幅は震源からの距離に,表面波の振幅は震央からの距離の平方根に,それぞれ反比例して減衰する。このほかに,地球物質の非弾性的性質により,地震波は滅衰する。この減衰は,減衰しにくさを表す無次元数Q(Q値)で表される。振動数ωで振動する物体の最大ひずみエネルギーをE,1周期で失われるエネルギーを⊿Eとすると,1/Q=⊿E/(2πE)によってQは定義される。例えば,振動数ωをもつ地球の自由振動は,時間tとともにexp(-ωt/(2Q))に比例して減衰する。
執筆者:島崎 邦彦
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地震の発生により引き起こされた力学的擾乱(じょうらん)を伝える波で、弾性波とみなされる。地震波は実体波と表面波からなる。
実体波は媒質内部を三次元的に伝わる波で、P波とS波の2種類がある。P波の伝わる速度はS波の伝わる速度より大きく、その割合はポアソン比によって変わる。地殻や上部マントルを構成する岩石のポアソン比は0.25くらいと考えられているが、このとき速度の比は1.73くらいである。実体波は地球内部の不連続面で反射・屈折を繰り返しつつ伝わっていく。
実体波の伝わり方を観測することにより、地球内部でのP波やS波の速度分布を推定することができる。三次元的な速度分布の推定には、実体波トモグラフィーという手法が、広く使われている。これは、震源から放射された地震波が多数の観測点に到達する時間をデータとして用いて、地震波が通過した地球内部の各点での地震波速度を求める手法である。
表面波は大別するとレイリー波とラブ波の2種類があり、浅い震源をもつ地震の場合、効果的に発生する。表面波は地表に沿って二次元的に伝わっていく波なので、実体波に比べて波動エネルギーの減衰の割合は小さい。表面波を使って地球内部の速度分布を推定することもできる。この場合、表面波トモグラフィーという手法が使われ、主として地球浅部の地震波速度構造の推定に用いられる。
いずれのトモグラフィーの手法とも、多数の観測点でのデータが利用できるようになったことと、高速大容量コンピュータの出現により可能になった。
震央から比較的離れた所で地震動を感じるとき、初めことことと小さく揺れ、次にがたがたと大きく揺れ、その後ゆらゆらとゆっくり揺れるのに気がつくことがある。これがそれぞれP波、S波、表面波に相当する。震央の近くでは、表面波は実体波のなかに混ざっているので識別は困難であり、一般にS波の振幅がいちばん大きい。遠方にいくにしたがい、表面波は減衰が少ないので最大動になってくる。
[山下輝夫]
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(阿部勝征 東京大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…地震は地球を構成している岩石の一部分に急激な運動が起こり,それに伴って地震波が発生する現象である。地震波は地球の内部あるいは表面を伝わる弾性波動で,P波(縦波),S波(横波),および表面波があり,この順で伝わる速度が大きい。…
※「地震波」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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