目を覚ました状態で絶対安静を保っているとき(基礎代謝状態)の代謝をいい、そのときに個体が消費するエネルギー量(熱量)を基礎代謝量という。基礎エネルギー消費basal energy expenditure(BEE)と同義である。体は、正常な機能と身体的活動を維持するため、また、成長および障害を受けた組織の修復のためにエネルギーを必要としている。エネルギーは食物中のタンパク質、脂肪、炭水化物およびアルコールの酸化によって供給されている。1グラムのタンパク質と炭水化物から4キロカロリー、脂肪から9キロカロリー、そしてアルコールから7キロカロリーが供給される。健康な大人では、エネルギー消費は主として三つの因子(1)BEE、(2)食事の熱効果thermic effect of food(TEF)、(3)肉体的活動physical activityで決定される。
基礎代謝量を測定するときの条件としては、少なくとも食後12時間経過していること、十分な睡眠がとれていること、起床後、精神的にも肉体的にも強い負荷がかかっていないこと、測定前30分間は横臥(おうが)していること、測定時の室温が15~25℃であること、が必要である。
生体の代謝とは、個体の全細胞におけるすべての化学反応、すなわち物質代謝とエネルギー代謝をさし、代謝量とは一定時間内に全化学反応によって遊離される総熱量をいうが、基礎代謝量は通常、呼吸による酸素消費量と二酸化炭素排出量から計算される。
基礎代謝量〔kcal〕=3.941×酸素消費量〔L〕
+1.106×二酸化炭素排出量〔L〕
成人1日の基礎代謝量は、日本人1200~1400キロカロリー、白人1500~2000キロカロリーである。この基礎代謝量には、心筋や呼吸筋をはじめ、消化管や血管の平滑筋などの力学的仕事のほか、肝臓、膵臓(すいぞう)、甲状腺(せん)、唾液(だえき)腺、下垂体、腎臓(じんぞう)、副腎などの分泌のために使われるエネルギーも含まれている。また、基礎代謝量は体表面積に比例するので、体表面積1平方メートル当り1時間当りの熱量で示される。一般にヒトのような恒温動物では、単位体表面積当りの基礎代謝量は、年齢、性が同じであれば一定している。これに影響を与える因子は、甲状腺ホルモン、精神的緊張による交感神経刺激、男性ホルモン、成長ホルモン、発熱、季節、栄養状態悪化などである。ヒトでは1歳児の場合、単位体表面積当りの基礎代謝量は80歳の老人の約2倍である。
なお、基礎代謝量は体表面積、年齢、性別によって異なるので、年齢と性に応じた標準値が決められており、実測値のその標準値に対する比率、つまり偏差を基礎代謝率basal metabolic rate(BMR)という。10%以内の偏差は正常とされる。すなわち、BMRには個体差があるが、年齢、体重、性が同じグループで測定すると、正常人の85%は平均値の10%の誤差のなかにある。したがって、基礎代謝率(BMR)の測定は、個体の代謝量を示すための有効な方法である。また、同一成人でのその変化は5~10%を超えないこともわかっている。プラス10%以上の場合を基礎代謝亢進(こうしん)、マイナス10%以下を基礎代謝低下という。チロキシン、カフェイン、アドレナリンは基礎代謝を亢進させ、モルヒネ、バルビタール、ヨウ素は低下させる。また、亢進させる病気には、甲状腺・下垂体・副腎の各機能亢進症をはじめ、本態性高血圧症、心不全、腎不全、白血病、多血症、発熱病があり、低下させる病気には、粘液水腫(すいしゅ)などの甲状腺機能低下症、シモンズ病などの下垂体機能低下症、アジソン病などの副腎機能低下症のほか、糖尿病などによる低栄養状態をはじめ、重症貧血、自律神経失調症、統合失調症(精神分裂病)などがある。
一方、患者を低体温にすれば基礎代謝量も少なくてすむので、脳外科などでは手術に利用することがある。
栄養面からみると基礎代謝は、エネルギー所要量算定の基本としてその1日量が算出されている。厚生労働省から発表されている日本人の栄養所要量(「食事摂取基準」2010年)によると基礎代謝量は、基礎代謝基準値(kcal/kg体重/日)×基礎体重(kg)として算定する。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]
人体のエネルギー代謝の速度は,人体の状態,すなわち食物の消化や筋運動などによって左右されるのみではなく,環境温度などの外的条件の影響も受けるが,これらをできるだけ取り除いたときの覚醒時の代謝を基礎代謝という。これ以下の代謝速度では,正常な状態で生命を維持することができない。基礎代謝は人体の最低代謝ではない。睡眠時の代謝は基礎代謝より6~8%低い。代謝の測定は通常,一定時間に消費した酸素と排出した二酸化炭素の量および尿中窒素量から算出されるが,基礎代謝測定時の具体的条件は次のとおりである。(1)測定前日から安静を保ち,前日の夕食は午後5~7時ころにすませ,多量の肉食や飽食をしない。これは,消化・吸収やそれにともなう食物の特異動的作用を避けるためである。(2)7時間以上の睡眠をとり,朝目覚めたのち用便をすませ,仰臥安静,筋の緊張を除き精神的にも安静を保つ。しかし仮眠状態にあってはならない。(3)覚醒後30分を過ぎてから測定を行うが,衣服は不快感のないもので,衣服下温度約32℃,暑くも寒くも感じない状態がよい。(4)騒音や測定室への人の出入りを禁じ,心身の動揺をきたすような言語や行動を避ける。また測定に対して安心感を与えること。そのほか,女子の月経時は避け,薬物の服用も禁ずるなどの配慮が必要である。動物では,以上の基礎条件を満たしているか否かの判断が困難であるから,基礎代謝という用語を避け安静時代謝というのが適当である。
日本人成人男子1日の基礎代謝量は約1400kcalである。その30%は肝臓・脾臓・消化器,25%が骨格筋による。脳脊髄は18%,心臓と呼吸筋が16%,腎臓が6%を占める。実際の日常生活では,運動などにともなうエネルギー消費がこれに加わるから,1日のエネルギー代謝量は約2300kcalとなる。同一人の基礎代謝量を毎日測定してもその変動は±5%以内であるが,身体の大きさの異なるヒトを比較するには,代謝量の絶対値ではなく,体重1kgあたり,あるいは体表面積1m2あたりの値を用いることが多い。基礎代謝量と体重の関係でいえば,体重21gのハツカネズミから600kgのウシに至る各種動物の体重と代謝量の関係から,恒温動物の1日代謝量(kcal)=69×W0・75(kg)という式が得られている。また体表面積との関係についてみれば,恒温動物では,熱放散は主として皮膚表面から行われるから,熱の産生も体表面積に比例することが予想されるが,事実,体重2kgのニワトリも400kgをこえるウマでも1日の代謝量はほぼ1000kcal/m2である。このように標準化してもなお年齢や性による差異が認められる。以上のようにして求められた1m2あたりの値を,正常人の平均値と比べ,その比率を%で表したものを基礎代謝率という。
日本人の基礎代謝量は,3歳で体表面積1m2あたりの基礎代謝が最高となり,以後減少を続け,20歳ころからほぼ一定の水準を保ち,老年に入ると低下する。女性が男性より低いのは,代謝活性の低い脂肪組織が多いこと,ホルモンの作用などが理由とされている。日本人では基礎代謝が冬高く夏低いが,西欧人ではこのような季節差は認められない。基礎代謝には,個体差のほかに地域の気候風土,衣食住の生活習慣などが影響するといわれているが,それらの因果関係は複雑でまだ解明されていない。基礎代謝が標準値の15%以上の増減を示すときは,なんらかの異常による。甲状腺や脳下垂体機能の亢進時,たとえばバセドー病の患者では基礎代謝の著しい上昇が,逆に機能低下では低下がおこる。基礎代謝は人体の栄養に関して重要な基礎的概念となっている。
→代謝
執筆者:中山 昭雄
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出典 あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)生活習慣病用語辞典について 情報
…身体は運動とは無関係に,心臓,胃腸の働き,呼吸など生命の維持に必要な器官を働かせるために不断にエネルギーを消費している。これが上式の基礎代謝にあたるエネルギーである。安静時消費エネルギーというのは,いわば運動という仕事をする準備状態における代謝量で,基礎代謝量の1.2倍くらいとされている。…
…解糖が,あるいはクエン酸回路が,リン酸エステルの生成と分解を含めたきわめて多くのステップを経て進行することの利点がそこに関連する。
[基礎代謝]
生体が生命を維持するために必要な最小の効率を基礎代謝basic metabolism(BMと略記)と呼ぶ。筋肉作業などによる機能性消費を除外するため,絶対安静,絶食下,臨界温度において消費するエネルギーを指すが,成人1日の基礎代謝量は日本人で1200~1400kcal,欧米人で1500~2000kcalとされる。…
※「基礎代謝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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