利根川右岸に広がる低地帯に位置する。標高一八メートル、埋没ローム台地上にあり、低地帯のなかで最も安定した地盤に立地する。東西六〇〇メートル・南北九〇〇メートルの地域に旧状をよくとどめた九基の大型古墳、
墳丘長一二〇メートルの前方後円墳。昭和四三年に発掘調査が行われ、後円部から二つの主体部(礫槨・粘土槨)が発見された。礫槨からは鏡・剣・直刀・鉾・鉄鏃・挂甲・馬具類・農工具類・勾玉・銀環・帯金具などが出土した。これらのなかに日本の古代社会を研究するうえできわめて重要な史料価値をもつ金象嵌銘文を刻んだ鉄剣(金錯銘鉄剣)が含まれている。銘文は剣の鎬部分に表五七文字、裏五八文字が縦に彫込まれており、下記のように読める。
この一一五文字の意味は、まず作刀依頼者の乎獲居臣に至る八代の系譜を述べ、その乎獲居臣が杖刀人の首として獲加多支鹵大王に仕え、獲加多支鹵大王の天下統一に奉事してきたことを明示するためにこの剣を作らせた、それが辛亥年である、という内容である。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
埼玉県行田(ぎょうだ)市埼玉(さきたま)に所在する古墳群。5世紀末から7世紀のころに築造された。現在は8基の前方後円墳(稲荷山(いなりやま)、二子山(ふたごやま)、愛宕山(あたごやま)、瓦塚(かわらづか)、鉄砲山、中の山、奥の山、将軍山の各古墳)と円墳丸墓山(まるはかやま)の計9基が国指定史跡となっているが、かつては大小あわせて40基ほどの古墳からなっていたと思われる。長軸が100メートルを超す大型墳として稲荷山、二子山、鉄砲山、将軍山の4古墳があり、直径100メートル余、高さ18メートルの丸墓山は平地における円墳としては日本一である。古墳群は現在水田地帯に囲まれた平坦(へいたん)部にあるが、かつては荒川、利根(とね)川の乱流地帯で、ローム台地と低湿地が入り組んでいたと考えられ、古墳はいずれもローム台地上に築かれていたものである。現在の標高は約18メートルである。古くからその所在は知られており、被葬者については秩父国造(ちちぶくにのみやつこ)説、武蔵(むさし)国造説などがあった。1966年(昭和41)から史跡整備事業が行われ「さきたま風土記(ふどき)の丘」として保存活用が図られてきた。環境整備のための発掘調査などにより、稲荷山古墳や二子山古墳などの周濠(しゅうごう)は二重の長方形に巡らされていることが判明。その一環として稲荷山古墳の発掘調査が68年に実施された。その結果、墳頂部から粘土槨(ねんどかく)、礫槨(れきかく)の二つの埋葬施設が確認された。とくに礫槨は盗掘を受けておらず、神獣鏡、勾玉(まがたま)、挂甲(けいこう)、帯金具(おびかなぐ)、馬具、大刀、鉄鏃(てつぞく)、工具など多数の出土品があった。のちに出土品の保存処理を行ったところ、出土鉄剣の剣身の表裏に、金象眼(きんぞうがん)による115文字の長文の銘文が発見され、考古学・古代史研究のうえに重要な史料を提供した。83年、鉄剣は他の出土品と一括して国宝に指定された。
[柳田敏司]
『『埼玉稲荷山古墳』(1980・埼玉県教育委員会)』
埼玉県行田市埼玉に所在する古墳群で,かつては大小の古墳数十基からなっていたが,現在は国指定史跡の二子山,稲荷山,将軍山,愛宕山,鉄砲山,中の山,奥の山,瓦塚の8基の前方後円墳と円墳丸墓山からなる。古墳群は標高20mほどの平坦部に群在しているが,古くはローム台地上に築かれたもので,前方後円墳は二重の長方形の周濠をもつことが確認されている。築造者については秩父国造説,武蔵国造説などがあった。1968年に発掘調査された稲荷山古墳の礫槨から出土した鉄剣の剣身表裏に,金象嵌による115文字の銘文が発見されてから,考古学,古代史の分野で,銘文をめぐって各種の論が展開されている。66年から古墳群一帯の整備事業が行われ,さきたま風土記の丘として一般に開放され,資料館も設置されている。古墳群の成立期は5世紀末から7世紀に至る間とされている。
執筆者:柳田 敏司
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埼玉県行田市にある8基の前方後円墳と1基の大型円墳および小円墳群からなる古墳中・後期の古墳群。1938年(昭和13)には9基の大型古墳が国史跡に指定。66年には「さきたま風土記の丘」の整備が着手され,68年の稲荷山古墳の発掘以降,順次調査を実施,整備された。国宝の金錯銘(きんさくめい)鉄剣を出土した稲荷山古墳,直径約100mの日本最大の円墳である丸墓山(まるはかやま)古墳,県内最大の前方後円墳の二子山古墳,全国で2例しか確認されていない馬冑を出土した将軍山古墳などを含む。全国的にも著名な古墳群。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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