小説家。大正7年7月17日、富山県高岡市に生まれる。石川県立二中、慶応義塾大学予科を経て1942年(昭和17)仏文科卒業。雑誌『批評』に参加、詩と評論を発表。44年召集されたが、胸部疾患のため解除となり、国際文化振興会から派遣されて上海(シャンハイ)に渡る。武田泰淳(たいじゅん)、石上(いそのかみ)玄一郎を知る。南京(ナンキン)では草野心平を知り、『歴程』の同人となる。第二次世界大戦敗戦後、中国国民党宣伝部に徴用され、上海滞在中(1946)に『祖国喪失』『歯車』などを書き始める。47年(昭和22)1月ようやく帰国。雑誌『個性』『歴程』などに詩を発表する。48年本格的に作家生活を開始。51年に『歯車』と並んで発表した『広場の孤独』『漢奸(かんかん)』で、52年に芥川賞を受賞し、いちばん遅くやってきた戦後派などと称された。52年長編『祖国喪失』を完成し、以後、『歴史』(1952)、『時間』(1953)、『鬼無鬼島(きぶきじま)』(1956)と毎年のように長編問題作を発表する。このころから海外との交流にも力を入れ、アジア・アフリカ作家会議などに出席して国際的にも知られる。『審判』(1960~63)、『海鳴りの底から』(1960~61)、『若き日の詩人たちの肖像』(1966~68)、『橋上幻像』(1970)と長編の創作を続け、71年『方丈記私記』(1970)で毎日出版文化賞を受賞。その後の作品に評伝『ゴヤ』(1973~76)、『定家明月記私抄』(1981~88)『ミシェル城館の人』(1994)、『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』(1998)などがある。また、『インドで考えたこと』(1957)などの評論もある。
[佐々木充]
『『堀田善衛全集』全16巻(1974~75・筑摩書房)』▽『本多秋五著『物語戦後文学史』(1966・新潮社)』▽『大江健三郎著『同時代としての戦後』(1973・講談社)』
昭和・平成期の作家,文芸評論家
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…第3は,原爆がもたらした悲劇を庶民の日常生活をとおして書き,文学史に残る傑作と称される井伏鱒二の《黒い雨》(1965‐66)のように,被爆者ではないが,広島,長崎と出会った良心的な文学者たちによって,さまざまな視点から広島,長崎,原水爆,核時代がもたらす諸問題と人間とのかかわりを主題とする作品が書かれた。作品に佐多稲子《樹影》(1970‐72),いいだもも《アメリカの英雄》(1965),堀田善衛《審判》(1960‐63),福永武彦《死の島》(1966‐71),井上光晴《地の群れ》(1963),《明日》,高橋和巳《憂鬱なる党派》(1965),小田実《HIROSHIMA》(1981)などがある。なかでも特筆すべきは大江健三郎(1935‐ )の存在で,1963年に広島に行き《ヒロシマ・ノート》(1964‐65)を発表して以来,〈核時代に人間らしく生きることは,核兵器と,それが文明にもたらしている,すべての狂気について,可能なかぎり確実な想像力をそなえて生きることである〉とする核時代の想像力論を唱え,《洪水はわが魂に及び》(1973),《ピンチランナー調書》(1976),《同時代ゲーム》(1979),《“雨の木(レインツリー)”を聴く女たち》(1982)などの作品を書き,国内だけでなく外国でも高く評価された。…
…〈満洲は妻子を引きつれて松杉を植えにゆくところ〉であるのに対し,上海は〈ひとりものが人前から姿を消して,一年二年ほとぼりをさましにゆくところ〉(金子光晴《どくろ杯》)といわれるように,満州が開拓の対象であったのに対し,上海は混沌とした雑踏の中で,旧慣習の束縛から離れて自由に暮らせるところであった。そしてそれは若い文学者に新鮮な驚きと感動を呼びおこし,金子のほかに,武田の《上海の蛍》,横光利一《上海》,堀田善衛《上海にて》などを生みだした。これらの文化的産物は,〈大東亜共栄圏〉の展開の前に抗すべくもなかったが,戦後の日本の中国理解に大きな影響を与えたばかりか,日本文化,特に思想・文学の世界で一つの広がりを与えたことは見のがせない。…
※「堀田善衛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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