写真感光材料の感度を上昇させる方法。写真法が初めて公表された1839年当時使われた感光材料は,銀の板にヨウ素蒸気を当てて作ったもの(銀板と呼ばれる)で,感光物質にはヨウ化銀が用いられた。これはダゲレオタイプ,または銀板写真と呼ばれるが,当時の写真撮影には露出時間が何十分も必要で動体被写体の撮影は困難であった。ちなみに,銀板の感度は現在のISO感度で表すと0.01程度と推定される。写真感光材料の感度は図に示すように年代とともに高くなっているが,これは技術的には現像法の発明,臭化銀ゼラチン乳剤の発明,分光増感技術,化学増感技術,乳剤技術の進歩に負っている。1983年にはISO1000のカラーネガフィルムが発売され,また拡散転写法のインスタントフォトグラフィーではISO20000の黒白感光材料も市販されているので,銀板写真と比べると写真感光材料の感度は105倍も高くなっている。
写真フィルムや印画紙に使われる感光物質はハロゲン化銀乳剤で,この乳剤は種々の方法で増感される。乳剤中のハロゲン化銀結晶は通常1~0.04μm程度の大きさであるが,乳剤の感度はハロゲン化銀結晶の大きさが大きいほど高い。このため乳剤製造工程で硝酸銀液とハロゲン塩溶液とを混合してハロゲン化銀結晶を作ったのち,50~60℃の温度に数十分加温してハロゲン化銀結晶を成長させる。この工程を第1熟成といい,乳剤は熟成によって増感する。第1熟成を終わった乳剤は水洗,または沈降によって不用の塩類を除き,次いで増感剤の存在の下で再び加温して増感する。この工程を第2熟成と呼び,この工程ではハロゲン化銀結晶の大きさは変わらないが結晶が増感剤と反応することによって化学的に感度が増し,これを化学増感と呼ぶ。以上に述べた増感においてはハロゲン化銀結晶固有の感光域の中でのみ感度が上昇する。ハロゲン化銀は本来約460nm以下の波長の光に感じ,黄や赤の光には感じない。すなわち,乳剤の熟成では本来の波長領域以外の光に対しては感度はほとんど変わらず,黄,赤,赤外の波長域に感ずるようにするには増感色素を加えなければならない。このように,感光物質にそれ固有の感光域以外の領域の光に対しても感度をもたせるようにすることを分光増感(色増感,光学増感と呼ばれたこともある)という。
写真乳剤に増感剤を加えて熟成すると,乳剤中のハロゲン化銀結晶は増感剤と化学反応を起こして結晶中に増感核を作る。用いる増感剤によって硫黄増感,還元増感および金増感がある。硫黄増感は乳剤に微量のチオ硫酸ナトリウム,有機硫黄化合物を加える増感法で,ハロゲン化銀結晶に硫化銀が生成して感光過程の効率をよくすると考えられる。還元増感では乳剤に緩慢な還元剤を加えることにより,ハロゲン化銀結晶に微量の還元銀を作って増感を起こす。また,金増感は乳剤にチオシアン酸金アンモニウムなどを加えて増感する方法で,第2次世界大戦後に高感度黒白フィルムが製造されるようになったのはこの増感技術によるものとされている。金増感は通常,硫黄増感と併用して高感度フィルム製造に実用される。
超増感は既製のフィルム,乾板を処理してその感度を増加させる方法で,適用する処理にはいろいろな方法がある。フィルムに弱い光を全面に照射してわずかなかぶりが生ずる程度処理すると感度が増すことが知られており,パンクロフィルムに対しては橙色の色光が有効とされている。また,フィルムを密閉容器中で水銀蒸気に一昼夜ほど当てると増感することが認められている。第3番目の方法はフィルムを還元剤水溶液,薄い硝酸銀水溶液,アンモニア水溶液その他各種水溶液で処理して乾かして増感する方法である。また,最近,写真感光材料を水素ガス中に置くと感度が上昇することが見いだされ,天文写真のような高感度記録を必要とする分野にこの水素増感法が広く実用されている。ただし,超増感は適用する感光材料の品種によって増感効果が異なることがあり,また高感度の感光材料を超増感によってさらに増感することはむずかしい。
写真を撮影した後,そのフィルムや乾板を強力な現像液で現像すると見かけの感度は高くなり,通常の現像法では描写できなかった低露光部の像が現れることがある。このような現像を増感現像という。増感現像の場合は塩基性の強いMQ現像液が用いられる。増感現像を施すとフィルムの感度が数倍から10倍程度増加したのと同じ効果が得られるが,画像の粒子が荒れ,かぶりやコントラストも増す傾向がある。カラーフィルムの場合にも現像所に増感現像の処理を注文できる場合がある。
執筆者:友田 冝忠
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一般に,ある物質の介在によって光化学変化が促進される現象をいい,その物質を増感剤という.増感剤が光の吸収を助成し,励起エネルギーの伝達媒体としてはたらく場合が多い.代表的な現象としては,写真の増感,光増感化学反応,増感蛍光,光合成などがある.
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…たとえば,ペニシリンの注射を受けているうちに,この薬剤に対して過敏となり,ペニシリンの注射によってショック死を起こすような場合(ペニシリンショック)や,魚や卵を食べると蕁麻疹(じんましん)が起こるような場合がこれに一致する。また,こうした外来の物質に対して過敏な状態にすることを感作sensitizationという。現在は〈抗原抗体反応が生体に及ぼす影響のうち病的過程を示すもの〉を総括した言葉であると考えればよく,同様に免疫はいちおう〈抗原抗体反応が生体に及ぼす影響のうち有利に作用するもの〉と考えるのが普通である。…
…回避できないアレルゲンによってひき起こされるアレルギー性疾患に対する特殊な治療法。抗原物質に対して過敏な状態にすることを〈感作sensitization〉といい,その過敏性を除去する処置を〈減感作〉(かつては除感作,脱感作といった)という。減感作療法はこの方法を用いたものである。アレルギー性疾患の治療の原則は,病気の原因となっているアレルゲンを回避することである。しかし室内塵や花粉などのように,どうしても回避できないアレルゲンもあり,これらに対して用いられる。…
※「増感」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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