感光乳剤ともいう。ハロゲン化銀微粒子をゼラチン水溶液に懸濁したもの。フィルムベース,紙,あるいはガラスなどの支持体上に薄く塗布,乾燥して感光材料を作るのに用いられる。写真乳剤用のハロゲン化銀粒子には,塩化銀,臭化銀,ヨウ化銀,あるいはこれらの混晶が用いられる。とくに,感度が高い撮影用感光材料には臭化銀とヨウ化銀との固溶体(臭化銀が主体)を,また印画紙や印刷用感光材料には塩化銀と臭化銀の固溶体を用いる。乳剤中のハロゲン化銀粒子の粒度は用途により0.1μm弱から数μmにまで及ぶ。一般に,粒子の粒度が増すにつれて写真感度は増加するが,画質(解像力や粒状度など)が低下する傾向にあるため,感光材料の用途により粒子の粒度が決められる。感光材料に用いられるハロゲン化銀粒子はいずれも立方晶系の微結晶であり,種々の形態の粒子が用いられる。
感光材料を現像液に浸すと,光を吸収して感光した粒子だけが現像されて銀となり画像を形成する。これは,感光した粒子では表面に潜像が形成され,ハロゲン化銀粒子の還元反応に対して潜像が有効な触媒となるためである。最小の潜像は4個の銀原子からなると考えられており,現像により~1010もの増幅がされることになる。写真乳剤はゼラチン水溶液中で,水溶性銀塩(例えば硝酸銀)と水溶性ハロゲン化アルカリ(例えば臭化カリウム)の複分解によりハロゲン化銀微粒子を形成して調製する。写真感度を高めるために,種々の増感法(通常は化学増感と分光増感)が乳剤に施される。化学増感は,乳剤に増感剤を添加して加熱かくはんすることにより粒子表面に微量の不純物を導入し,感光波長域を変えずに写真感度を増加させるために用いられる。感度を増加させる不純物としては,硫化銀と金イオンがとくに有効であり,それぞれ硫黄増感および金増感と呼ばれている。ハロゲン化銀粒子自身は紫外域から青色光にまで感光するが,分光増感はハロゲン化銀粒子に増感色素を吸着させ,増感色素の光吸収によりハロゲン化銀粒子を感光させ,写真乳剤の感光波長域を長波長側に拡大したり,所定の波長で感光させるようにするために用いられる。
→写真
執筆者:谷 忠昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
微細なハロゲン化銀結晶をゼラチン水溶液中に分散したものをいう.ハロゲン化銀結晶の大きさは用途によって異なるが,一般的には,0.1 μm から数 μm 程度である.特殊な場合には0.1 μm 以下あるいは10 μm 程度の結晶も用いられる.低感度乳剤には塩化銀または塩化銀と臭化銀の混晶,高感度乳剤にはヨウ臭化銀を用いる.塩化銀と臭化銀はともにNaCl型結晶であり,任意の割合で混晶をつくるが,ヨウ臭化銀の場合はヨウ化銀の結晶構造が異なるため,実用的にはヨウ化銀の割合は数% である.乳剤を製造するためには,
(1)ゼラチンの存在下で硝酸銀水溶液とハロゲン化アルカリ水溶液とを混合してハロゲン化銀結晶を析出させる.混合の方法にはシングル・ジェット法,ダブル・ジェット法など各種の方法がある.ゼラチンは保護コロイドとしてはたらき,析出結晶を分散させる.
(2)過剰のハロゲン化アルカリ液またはアンモニアの存在下,数十 ℃ で熱処理して結晶を前述の大きさまで成長させる(物理熟成).
(3)過剰のハロゲン化物・水溶性塩類などを除去するため,
(a)ゼラチンを加えて冷却ゲル化後細断し,流水などで水洗する,あるいは,
(b)ゼラチンを加えてハロゲン化銀結晶を包含させて沈降させ,上澄み液を捨て数回水洗する.
(4)脱塩した乳剤にゼラチン・水などを加え,化学増感剤を微量添加してふたたび熱処理する.この間には結晶の成長は起こらず,感光核が生成し,感度が上昇する(化学熟成).
このようにして調整された乳剤は,ハロゲン化銀と等重量またはそれ以下のゼラチンを含み,フィルム,ガラス,紙などの支持体上に塗布される.乾燥後の膜厚は,通常のネガ用材料で15~25 μm,印画紙で5 μm 程度である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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