企業や学校など職場や公共施設の廊下、外壁、あるいは人通りの多い街頭など人目に触れやすい場所に、ニュースや意見を書いて張り出し、民衆に情報を伝える原初的な新聞の一形態。
壁新聞は製作が容易で費用もかからず、しかも多数の人々に情報を伝達する効果があるので、古くから広く利用されてきた。単なるビラやポスターなどによる情報伝達は古代からみられたが、いわゆる「第四権力」としての近代マス・メディアを自由には利用できない民衆が、民衆自身の情報伝達手段として壁新聞を活用したのは、1870年代のパリ・コミューン時代にさかのぼるといわれる。それ以来、マス・メディアに対抗する民衆のカウンター・メディアとしての壁新聞の伝統は、現代に至るまで脈々と続いている。現在、日本では労働組合運動や学生運動で壁新聞が活用されているし、小・中学校などで、児童・生徒の手で壁新聞をつくっているところもある。
ソ連や中国など社会主義国では、工場や集団農場などで、労働者や農民が自主的に壁新聞をつくることが奨励されたが、ソ連の壁新聞は、やがてソビエト連邦全体の機関紙体制の末端の位置に組み込まれるようになった。これに対し中国の壁新聞は、長征後の1930年代後半から活発になり、解放後も自由な言論・表現の伝統が持続された。紙と筆と墨、絵の具によって創出される素朴な壁新聞の隆盛は、中国のマス・メディアの後進性を示すものというよりは、中国の社会主義体制の特質を示すものとみられ、ときとして新聞、出版、放送などよりも有効かつ強力に機能している。ことに第二次整風運動期間の1957年以来、それまで「壁報」とよばれた中国の壁新聞は、「大字報(だいじほう)」といわれるようになり、66年以来の文化大革命では、さらに小型の「小字報(しょうじほう)」も出現した。1976年10月のいわゆる「四人組」失脚後の自由化要求など、壁新聞は大いにその機能を発揮したが、その後指導部批判の壁新聞も出るようになるにつれ、80年2月以降、指導部は壁新聞による批判を禁止するようになった。日本の職場レベルの労働運動にも活用された。
[高須正郎・伊藤高史]
建物の壁などを利用して,通行人にニュースや意見を知らせる表示物。経費をかけずに多人数に訴えることができるので,政治や商業の広報,宣伝の手段として用いられることが多い。ジャーナリズムの語源となったローマ時代の《アクタ・ディウルナacta diurna》が,皇帝の命による重要ニュースを広場に掲示したものであったように,民衆への公示伝達として街頭標示を使うという考えは古くから行われていた。これに新しい意義を与えたのは,大衆行動をささえとする現代の政治思想である。社会主義運動においては,工場などで手書きの壁新聞によって活動の刻々の局面を労働者たちに伝えることの重要性が説かれている。ヒトラーのナチズムは,国民を動員するための手段として地域などにおける宣伝手段としての壁新聞の役割を強調した。中国においては大字報と呼ばれる壁新聞形式の意見表明が,文化大革命を清算する時期に少数意見発表の自由度の指標となった。壁新聞の働きは,情勢の変動に対する人々の関心の強い社会変動期にとくに大きい。その内容が口伝えされたりすれば注目度はいっそう増し,経費や労力が手軽なので紙幅や発行頻度を増すことがたやすく,それによって関心を増幅させやすい。変動要因が少ない時期の壁新聞は,持続させることがむずかしい。通りすがりに視線を滑らせるだけの読者をとらえるには,新聞のような記述の内容をしのいで,広告のような情感の要素が重視されることもある。
執筆者:荒瀬 豊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 思想解放の空気のなかで,79年末から80年初頭にかけて,〈民主〉と〈人権〉を要求する若者の運動が起こったが,これに対して鄧小平は,社会主義の道,プロレタリア独裁,党の指導,毛沢東思想の〈四つの基本原則〉を堅持する方向を示し,〈民主〉と〈人権〉の要求を〈党の指導に反対し,社会主義に反対するもの〉として弾圧した。さらに,50年代なかば以降定着して,毛沢東の中国の特色の一つとみられていた壁新聞などで大衆が自由に意見をのべる権利,すなわち〈大鳴,大放,大字報,大弁論〉の〈四大〉の権利,これを規定した条項を〈安定団結〉を妨げるものとして憲法から削除した(1980)。 こうして,毛沢東時代からの脱却の方向を明らかにしていった鄧小平指導下の中共は,81年6月,〈建国以来の党の若干の歴史的問題に関する決議〉を採択し,過去の経験を総括したが,文革については前述のようにこれを全面的に否定した。…
※「壁新聞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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