党派や労農団体などが発行する定期刊行物。歴史的には社会主義党派の機関紙が最も多く論じられてきた。古典的にはレーニンがロシア社会民主労働党の機関紙《イスクラ》の発行を理論づけた論文が知られる。ここに単一の強固な党の建設と機関紙配布者網を通じて同調者を獲得し,影響を広めていくという機関紙の原型ができあがった。ことに配布網を重視するという思想は,組織がまだ若く,旧体制の抑圧機構が強力であったという事情に加えて,媒体の組織化の機能にレーニンが早くから気づいていたことを示している。ロシア社会民主労働党が多数派と少数派に分裂して以降は,多数派(ボリシェビキ)は《フペリョード》を発行し,1912年には《プラウダ》が創刊される。フランスでは,1904年社会主義運動は二つに分裂していたが,ジャン・ジョレスの社会党が,当時の金額で88万フランを集めて《ユマニテ》を創刊した。アナトール・フランス,トリスタン・ベルナールらも寄稿した《ユマニテ》の創刊号は13万部売れた。ジョレスが暗殺されて以降は,《ユマニテ》の低迷をマルセル・カシャンが主幹になって立て直した。《ユマニテ》が共産党中央機関紙となったのは20年からだが,以降イタリアの《ウニタ》,中国の《人民日報》,日本の《赤旗》とならんで,日刊の共産党機関紙の代名詞のようになっている。しかし政党機関紙は共産党だけにあるのではない。共産党機関紙の成功や役割を他の政党も認識し,実践に移してきている。西欧の社会民主主義政党,発展途上国の各種政党や保守政党までがその機関紙(誌)を所有するに至った。日本では公明党の《公明新聞》が,日刊化,独自の配布網,大部数化に成功,他の大小政党もそれぞれ週刊程度の機関紙を所有している。
労働組合の機関紙活動もまた古い。労働組合も,その組合員に指導部の意思を伝達し,宣伝教育,さらに具体的な行動を指示・扇動するにとどまらず,未組織労働者を獲得し,市民・農民また世論に訴えていくため,機関紙の役割を重視してきた。全ソ労組評議会の《トルード》,中国総工会の《工人日報》などがナショナル・センターの大部数機関紙として知られている。これら社会主義国の労組機関紙が共産党の指導と影響できわめて中央集権的色彩が強いのに対し,資本主義諸国の労組機関紙は分権的である。日本は,総評・同盟といったセンターよりも,単産と呼ぶ日本的産業別組織や企業別組合が強力なため,《全電通》などの機関紙や,各企業別労組の機関紙活動が中心になっている。これに対してアメリカでは,むしろカウンスルと呼ぶAFL-CIOの地域別評議会の機関紙活動が活発である。センターであるAFL-CIOは,情報ニュースの配信,政策立案のコーディネート,広告の紹介といった情報活動に限定している。ただし各国とも,労働者意識の変化と組合をとりまく環境の変化が,機関紙を組合内よりも組合外に向けた一種のPR紙の型へ変化させつつある。
執筆者:田村 紀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
政党、団体、グループなど公的な事業活動を目的とする組織が、その構成員に対する意思の伝達、内部の連絡、あるいは外部に向けてその主義・主張を教宣するために発行する定期刊行物またはそれに準ずる印刷物の総称。ヨーロッパでは、前近代的政治権力とそれに対抗する近代的政治団体とが互いに印刷物によって外部への働きかけを行うようになった17、18世紀ごろから機関紙活動が始まったが、20世紀に入り、社会主義政党やグループがその役割をとくに重視したので、発行が活発化し、現在に至っている。日本では、明治10年代から政党機関紙の萌芽(ほうが)がみられたが、第二次世界大戦後、民衆の政治参加が活発になるに伴い、各政党、労働組合、宗教団体などが、ほとんど機関紙をもつようになった。さらに近年は、市民運動をはじめ各種のグループによるサークル機関紙の発行がますます増加する傾向である。
[高須正郎]
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