〈へきしょ〉ともいう。規則や法令などの通達方法の一つで,この方法で発布された法令の名称ともなる。この名称の起源は,中国における壁に書く法令などの伝達方式にもとづくが,日本では,板や紙に書き,壁や門にかけて掲示したので,張文,懸札ともいう。この壁書は,本来役所や寺院などの内部規則をその当事者に通達するものであった。現存する最も古い壁書といわれる807年(大同2)の壁書も律令官人の着座に関する規定であり,幕府・戦国大名においてもこのような諸機関の規則伝達手段として広くもちいられた。そして,《大内家壁書》の法令に多くみられるような,その末尾を〈仍壁書如件〉という文言で結ぶ法令の様式をうみだした。いっぽうこの通達方式は,その役割を拡大し,一般公衆への法令伝達としてももちいられるようになった。この場合壁書は,公衆の見やすいところに張りだされ,制札と同じ役割をもつようになった。
執筆者:勝俣 鎮夫
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「へきしょ」とも読み、「張文(はりぶみ)」「押文(おしぶみ)」などともいわれる。遵守すべき事項や儀式の次第などを示すために作成される文書で、必要事項を箇条書にし、責任者や担当者が署名し、武家の邸館、寺院のしかるべき建物の壁などに張り出した。伝わっている最古のものは、807年(大同2)の官吏の着座に関するものであるが、室町・戦国時代には幕府、大名、寺社などで用いられ、室町幕府では侍所(さむらいどころ)、政所(まんどころ)などに掲示された。内容からすれば法令の一種であり、定文(じょうもん)、掟書(おきてがき)といってもよい。これを収録した法令集が編纂(へんさん)されることがあり、室町幕府の「管領并政所(かんれいならびにまんどころ)壁書」、防長の大名大内氏の「大内家壁書」、豊臣(とよとみ)秀吉の「大坂城中壁書」などが有名である。実際に壁に張らないでも壁書という場合もあったと思われる。
[羽下徳彦]
法令・規則の公示方法,または壁書の形式で公布された法令。法令を木・紙に書いて官庁の壁・門に張るか掛ける。古くは9世紀の大同年間に朝廷の官吏の執務規則を壁書の形式で公示した例がある。はじめは特定の関係者に示す性格が強かったが,嘉吉(かきつ)の徳政令が管領や政所などに壁書されたように,のちには一般の人々に公布する方法となる。建武政権・室町幕府・江戸幕府は公布した規則・法令を官庁に壁書しており,「管領并政所壁書」など室町幕府公布の壁書を官庁別に集成した法令集もある。寺院で寺僧の評議になる規則を壁書したり,惣村の村掟が壁書の形式をとる例も多い。守護大名の大内氏は「仍壁書如件(よってかべがきくだんのごとし)」などの書止文言をもつ単行法令を発布した。
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