改訂新版 世界大百科事典 「夏の夜の夢」の意味・わかりやすい解説
夏の夜の夢 (なつのよのゆめ)
A Midsummer Night's Dream
イギリスの劇作家シェークスピアの喜劇。1595年ごろ創作。《真夏の夜の夢》と訳されることもある。おそらく貴族の結婚祝賀用に書かれたもので,五月祭や夏至祭(6月24日)にまつわる民間伝承に題材を得ている。Midsummer Nightとは夏至祭の前夜あるいは当夜を指す。公爵の結婚式が目前に迫ったアテナイで,廷臣の娘ハーミアは父の選んだディミートリアスを嫌ってライサンダーを愛しているが,国法は父の命に背くことを厳禁しているので,二人は郊外の森に逃れる。ディミートリアスはそのあとを追い,彼を恋するヘレナもまた彼のあとを追う。一方,同じ森では公爵の結婚式の余興に素人芝居の上演を計画する町の職人ボトムらの下稽古が行われようとしており,またそこに住む妖精たちの王オベロンは妃と夫婦げんかをしている。オベロンの命を受けた妖精パックが惚れ薬を与える相手を間違えたことから,これら3種の集団が入りまじっててんやわんやの騒動が持ち上がるが,最後に万事めでたく収まって,職人たちの滑稽な寸劇が宮廷で上演されていた。幻想的でロマンティックな雰囲気によって古来最も愛されてきた喜劇であるが,最近は人物の動きに意識深層の欲望のうごめきを見たり,劇中劇的ドラマ構造の特性を強調したりする批評家,演出家も存在する。
執筆者:笹山 隆 なお,この戯曲の付随音楽として,多くの作曲家が作曲しているが,最も有名なのはメンデルスゾーンの《序曲》(作品21,1826)である。これは古典的ソナタ形式を自由に変化させたのびやかな様式からなり,幻想的で妖精たちの戯れをみごとに表現している。1827年に初演された。この《序曲》以外の劇中音楽12曲(作品61)はフリードリヒ・ウィルヘルム4世の命を受け付随音楽として42年に作曲,翌年劇とともにポツダムで上演された。その中の〈スケルツォ〉〈間奏曲〉〈夜想曲〉〈結婚行進曲〉はとくに有名である。このほか,C.L.A.トーマ,E.B.ブリテンらによる同名のオペラがある。
執筆者:下川 智子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報