多発性嚢胞腎(読み)タハツセイノウホウジン(その他表記)Polycystic kidney disease

デジタル大辞泉 「多発性嚢胞腎」の意味・読み・例文・類語

たはつせい‐のうほうじん〔‐ナウハウジン〕【多発性×嚢胞腎】

左右腎臓多数嚢胞ができる遺伝性病気。腎臓の機能が徐々に低下し、腎不全に至る。透析療法が必要。

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六訂版 家庭医学大全科 「多発性嚢胞腎」の解説

多発性嚢胞腎
たはつせいのうほうじん
Polycystic kidney disease
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か

 多発性嚢胞腎(PKD)は、両側の腎臓に多発性の嚢胞(嚢胞液という液体が詰まっている袋)ができる先天性腎疾患で、多くは腎不全に至ります。常染色体劣性多発性嚢胞腎(じょうせんしょくたいれっせいたはつせいのうほうじん)と、常染色体優性多発性嚢胞腎(ゆうせいたはつせいのうほうじん)に分けられます。

 常染色体劣性多発性嚢胞腎は、生後まもなく腎不全で死亡することが多いです。長期生存している患者さんは、腎不全よりも肝不全が問題となります。

 常染色体優性多発性嚢胞腎の原因遺伝子にはPKD1(第16染色体短腕上に疾患遺伝子が存在)、PKD2(第4染色体長腕上に疾患遺伝子が存在)が同定されています。

 約85%の患者さんにPKD1遺伝子異常が、15%の患者さんにPKD2遺伝子の異常が認められています。腎不全に至る年齢はPKD1が平均60歳、PKD2が74歳です。

 以下、常染色体優性多発性嚢胞腎について述べます。

症状の現れ方

 受診の原因となった自覚症状として、肉眼的血尿、蛋白尿(たんぱくにょう)、側腹部・背部痛、家族に多発性嚢胞腎患者がいる、易疲労感(いひろうかん)、腹部腫瘤(しゅりゅう)、発熱、浮腫(ふしゅ)、頭痛、吐き気腹部膨満などがあります。

 最も大きな問題は進行性の腎不全ですが、すべての患者さんが腎不全になるのではありません。70歳まで生存したとして約50%で末期腎不全に陥り、透析療法が必要となり、透析導入の平均年齢は、男性52.3歳、女性54.5歳という報告があります。

 約8%の常染色体優性多発性嚢胞腎の患者さんに頭蓋内出血の既往がみられます。頭蓋内出血の危険因子として頭蓋内動脈瘤と高血圧がありますが、約10%の患者さんに頭蓋内動脈瘤を認めます。また高血圧の合併は約60%の症例で認められ、加齢や腎機能低下とともに増加します。その他の合併症として、肝臓、脾臓、膵臓、子宮、睾丸、精嚢に嚢胞が生じることが知られています。

 肝嚢胞により肝機能障害を来すことはほとんどありませんが、圧迫症状が問題となります。また心臓の弁の異常、大腸憩室(けいしつ)鼠径(そけい)ヘルニア、総胆管拡張を来すこともあります。

検査と診断

 両側の腎臓の腫大は触診でもわかります。嚢胞の発見には超音波、CT(図6)、MRI検査を行います(表9「診断基準」参照)。

 家系連鎖解析による遺伝子診断は可能ですが、現在では超音波ならびにCT検査により、容易に腎嚢胞の存在を確認できるため、遺伝子診断によりPKDと診断する必要はないとされています。

治療の方法

 嚢胞内出血や嚢胞内感染を来し、発熱や腰・背部痛などの症状が現れた場合は、安静とし、止血薬および抗生剤を投与します。

 進行性の腎不全に対しては、高血圧の管理(アンジオテンシン変換酵素阻害薬アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の投与など)を行います。高血圧の管理は、頭蓋内出血や心不全の予防としても重要です。

 また、上部尿路感染症に対してはすみやかに治療を行うことが大切です。肉眼的血尿に関しては、悪性腫瘍が否定できれば保存的に対処します。

 透析に至った患者さんの腹部膨満感を緩和する方法として、両側腎動脈塞栓術(そくせんじゅつ)が行われ、良好な成績が得られています。

 近年、バソプレッシン受容体阻害薬によって細胞内サイクリック­AMP濃度を下げれば、腎嚢胞増大が抑制されることが動物実験で示され、バソプレッシンV2受容体拮抗薬の臨床試験が世界的規模で行われています。

病気に気づいたらどうする

 泌尿器科または腎臓内科を受診し、合併症の有無、現在の腎機能などについて説明を受け、今後の治療方針について相談してください。

来栖 厚


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「多発性嚢胞腎」の解説

たはつせいのうほうじん【多発性嚢胞腎 Polycystic Kidney】

[どんな病気か]
 大小さまざまな嚢胞(液体のつまった袋)が腎臓(じんぞう)の組織(腎実質(じんじっしつ))内に形成され、だんだん大きくなってくる病気です。
 ほとんどの場合、左右両側の腎臓におこります。
 嚢胞が大きくなると、まわりの腎実質は圧迫されて萎縮(いしゅく)し、腎臓のはたらきが徐々に低下して、最終的には慢性腎不全(まんせいじんふぜん)、尿毒症(にょうどくしょう)になります。
 この病気は遺伝性であり、常染色体優性遺伝型(じょうせんしょくたいゆうせいいでんがた)と常染色体劣性遺伝型(じょうせんしょくたいれっせいいでんがた)の2つのタイプがあります。
 常染色体優性遺伝(性染色体ではない染色体に原因遺伝子があって、対になった染色体の一方に原因遺伝子があればおこる)型では、嚢胞の形成はゆっくり進み、多くはおとなになって発病します。
 常染色体劣性遺伝(性染色体以外の染色体に原因遺伝子があって、対になった染色体の両方に原因遺伝子があるとおこる)型では、発病が急激で、多くは、生後間もなく死亡します。
 このことから、前者を成人型、後者を幼児型と呼ぶこともあります。
 成人型では、遺伝子を調べた結果、16番目の染色体(一部、4番目の染色体)に異常が確認されています。
[症状]
 成人型では、20歳ごろまで症状がみられないのがふつうで、多くの場合、30~40歳前後に症状が現われて初めて診断されます。
 両方のわき腹に触れると、容易に嚢胞でふくれた腎臓がわかります。
 また、腰痛(ようつう)、血尿(けつにょう)などがみられます。
 病気が進むと、高血圧、たんぱく尿、食欲不振、疲労感など、腎臓の機能低下にともなう症状が現われ、ついには尿毒症になります。
 肝臓(かんぞう)や膵臓(すいぞう)などにも、同じような嚢胞ができることがあります。
[検査と診断]
 先に述べたような症状があり、家族に同様な症状や腎不全になった人がいれば、この病気が強く疑われます。
 超音波検査、CTスキャン、MRIなどの画像で、特有の腎臓の変化がみられれば、診断が確定できます。
 つぎに、超音波検査で、嚢胞がどの程度できているかみていきます。
 そして、尿検査、血液検査で腎機能の状態を調べます。
[治療]
 この病気では、腎機能の完全な回復は期待できないので、なるべく腎臓のはたらきを保たせるような保存的療法が基本となります。
 腎機能の障害されている程度に応じて、日常生活の制限、食事療法、合併症(高血圧、血尿、尿路感染など)に対する薬物療法を行ないます。
 放置すると、診断が確定して約10年で腎不全になることが多いので、定期的に泌尿器科(ひにょうきか)、または腎臓専門の内科で、腎機能や合併症の程度をチェックする必要があります。
 不幸にして腎不全におちいったら、人工透析(じんこうとうせき)や腎移植を行ないます。

たはつせいのうほうじん【多発性嚢胞腎 Polycystic Kidney】

[どんな病気か]
 左右両方の腎臓に嚢胞ができる病気です。
 遺伝性で、常染色体劣性(じょうせんしょくたいれっせい)と常染色体優性(じょうせんしょくたいゆうせい)の2つの型に分けられます。
■常染色体劣性多発性嚢胞腎(じょうせんしょくたいれっせいたはつせいのうほうじん)(乳児型)
 重症の場合では、出生まもない時期から腎不全(じんふぜん)になります。
 両親に半分ずつ因子がある場合には、その子どもは4分の1の割合でこの病気が発症し、4分の2の割合で、病気は発症しないが、その因子を受け継ぐ保因者になり、残りの4分の1は、因子をもたないことになります。
■常染色体優性多発性嚢胞腎(じょうせんしょくたいゆうせいたはつせいのうほうじん)(成人型)
 乳児型に比べて病気の進行はゆるやかで、中高年期になって腎不全になることが多いものです。
 両親のいずれかに同じ病気があり、子どもには、2分の1の割合で病気が発症しますが、残りの2分の1の子どもは、因子ももたず、病気にもなりません。
[症状]
 常染色体劣性多発性嚢胞腎による腎不全を防ぐ方法はありませんが、現在では、乳幼児でも透析治療ができるようになりました。
 また、この病気では肝臓にも嚢胞ができ、障害がおこることもあります。
 常染色体優性多発性嚢胞腎は進行がゆるやかなため、早い時期から生活管理、食事療法などによって、できるだけ長く腎機能を保つことができます。
 また、高血圧を合併することも知られています。
[検査と診断]
 腎超音波、腎盂造影(じんうぞうえい)、CTスキャンなどの画像検査によって、容易に診断できます。
 家系内の腎疾患の有無によって、診断はより確実になります。
 最近では、胎児(たいじ)超音波検査によって、早期に発見できるようになりました。
 常染色体優性多発性嚢胞腎は症状が現われないことが多く、学童期以降に、血尿(けつにょう)や腹部腫瘤(ふくぶしゅりゅう)によって発見されることがほとんどです。
 治療は慢性腎炎に準じた保存的療法を原則とします。

出典 小学館家庭医学館について 情報

内科学 第10版 「多発性嚢胞腎」の解説

多発性嚢胞腎(遺伝性腎疾患)

 【⇨ 11-13-1)】[小川大輔・槇野博史]
■文献
Adler A, et al: Development and progression of nephropathy in type 2 diabetes: the United Kingdom Prospective Diabetes Study (UKPDS 64). Kidney Int, 63: 225-232, 2003.
Parving HH, et al: Prevalence and risk factors for microalbuminuria in a referred cohort of typeⅡdiabetic patients: a global perspective. Kidney Int, 69: 2057-2063, 2006.
Yokoyama H, et al: Microalbuminuria is common in Japanese type 2 diabetic patients: a nationwide survey from the Japan Diabetes Clinical Data Management Study Group (JDDM 10). Diabetes Care, 30: 989-992, 2007.

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