多鈕細文鏡(読み)タチュウサイモンキョウ

デジタル大辞泉 「多鈕細文鏡」の意味・読み・例文・類語

たちゅうさいもん‐きょう〔タチウサイモンキヤウ〕【多×鈕細文鏡】

古代鏡の一。凹面鏡で、背面の中心を外れたところに2、3個のちゅう(つまみ)があり、細い線による鋸歯きょし文を中心とした文様がある。中国の起源で朝鮮半島で発達し、日本では弥生時代墳墓から出土

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精選版 日本国語大辞典 「多鈕細文鏡」の意味・読み・例文・類語

たちゅうさいもん‐きょうタチウサイモンキャウ【多鈕細文鏡】

  1. 〘 名詞 〙 古代鏡の一つ。鏡の背面に鋸歯文(きょしもんよう)をもつ白銅鏡。二~三個の帯状の鈕(ちゅう)が中心を外した位置にあり、幾何学的な鋸歯文があるところからこの名がある。中国東北部・朝鮮半島に多く、日本では北九州の彌生墳墓などから出土。多紐細線鋸歯文鏡。

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改訂新版 世界大百科事典 「多鈕細文鏡」の意味・わかりやすい解説

多鈕細文鏡 (たちゅうさいもんきょう)

双鈕ないし三鈕を,鏡背の中心から鏡縁に寄った位置に配し,幾何学的な文様を表す古代の鏡。鏡面が凹面をなすことが多い。多鈕細線鋸歯文鏡を略して名付けられた。中国遼寧地方,朝鮮,日本,ロシア沿海州に分布し,この地域の初期金属器文化を特徴づける青銅器の一つである。中国の中原地方を中心にして発達した一鈕を鏡背の中心に置く鏡とは,鏡式・分布ともに異なる。多鈕細文鏡には,粗い文様を表すものと,名称の起源となった細線文を表すものとがあり,その変化を大きくまとめると次の4段階になる。第1段階の最も古い鏡は中国遼寧省朝陽県十二台営子第3号墓から出土している。この鏡は直径22.5cmで最大の径をもつが,三鈕をもつこと,三角形を組み合わせた方形単位を斜方向に連続させた複線文様を表現することに特色がある。第1段階の新しい時期には,この文様が崩れた複線表現の連続Z字形文様や電光形文様を表す小型の鏡が現れる。このうち朝鮮で出土した鏡は鏡縁が匕(さじ)面となっている。これらは石型で製作した粗文の鏡であり,以後は朝鮮で発達する。第2段階には,三角形に平行線を充塡した文様が基調となり,この段階には外区と内区の別が生じる。また鏡縁は突起縁をへて蒲鉾(かまぼこ)形になる。鏡径は11.3~14.5cm。朝鮮西海岸に分布し,平安南道孟山郡から滑石製鋳型が出土している。第3段階には細線鋸歯文を表した蒲鉾縁の典型的な多鈕細文鏡が盛行する。この鏡の文様には外区と内区と,その間の円圏帯とがある。外区には鋸歯文に平行線を塡めた文様,内区には長方形を六つの区画に分割し3方向の平行線を塡めた文様,円圏帯には内区文様と同じもののほか斜格子文,同心円文等を表す。鈕は2個であり,鏡径は13.0~21.7cmである。この鏡の外区には石型では表現が難しい精緻な同心円文が表されることがあり,土型でつくられたことがわかる。なお石型で製作した粗文を表す鏡も存続する。分布の中心は朝鮮西海岸にあるが,大阪府柏原市大県出土鏡と沿海州イズベストフ出土鏡とがこの段階にあたることは重要である。第4段階では細線文を表す鏡しか発見されていない。これらは第3段階に用いた文様を分割,省略して表す点に特色がある。双鈕を原則とするが,三鈕を三角形に配置するものもある。鏡径は8.0~15.6cm。朝鮮東海岸と西日本に分布する。日本では佐賀県唐津市宇木汲田(うきくんでん)第12号甕棺,山口県下関市梶栗浜箱式石棺,奈良県御所市名柄(ながら)遺跡から出土している。

 以上の各段階に応じて,共伴する器物にも一連の変化がある。本来,この鏡は中原やオルドス青銅器文化とは異系統の把(つか)を別造りにする有茎式銅剣を伴う。第1段階にはこのうち古い型式の遼寧式銅剣,第2段階には古い型式の細形銅剣(朝鮮式銅剣)が伴う。第3段階には古・新型式の細形銅剣のほか銅斧や銅鉇(どうやりがんな)がある。第4段階になると,細形銅剣のほか,細形銅矛・細形銅戈という中原系統の青銅武器が複合する。以上の各期の年代については確実な資料が少ないが,各地域の編年研究の成果をまとめると,第1段階を春秋後期~戦国中期(前6世紀後半~前4世紀),第2段階を戦国後期(前3世紀),第3段階を前漢前期(前2世紀),第4段階を前漢後期(前1世紀)の頃に比定できる。

 日本に多鈕細文鏡がもたらされたのは第3段階であり,弥生時代前期にあたる。この鏡は日本で用いられた最初の鏡であることが重要である。またその用途は,凹面鏡であることから発火具とする説もあるが,鈕の配置が片寄ることから垂下し光を反射させて当時の人々を驚かせる祭器として用いたとする説が正しい。多鈕細文鏡は縄文時代呪具がすたれ,新しい祭器が採用されていく先駆となるものである。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「多鈕細文鏡」の意味・わかりやすい解説

多鈕細文鏡
たちゅうさいもんきょう

紀元前2~紀元後1世紀ごろ朝鮮半島で製作された銅鏡で、裏面には、その中心を外れた位置に多鈕、すなわち2ないし3か所の鈕(ちゅう)があり、直線円弧、同心円などからなる細かな幾何学文様で飾り、さらに鏡面がわずかな凹面になる点を大きな特徴とする。アジアの銅鏡の主流をなす中国鏡は、一鈕で平面ないし凸面であり、その点が違っている。この種の銅鏡は、中国遼寧(りょうねい)地方の多鈕粗文鏡に起源し、そこで生まれた銅剣類とともに、朝鮮半島において独特の発展をしたものである。その形態や副葬状況からみて、もともと通常の鏡のような映像具ではなく、呪具(じゅぐ)であったとみてよい。日本列島からも9点出土しているが、北部九州地方と本州最西端から出土したもののほとんどは、この地方の弥生(やよい)時代の他の舶載青銅器と同じように、墓に副葬されており、他は近畿地方と中部地方の祭祀(さいし)遺跡からの出土品である。日本列島の住民が最初に接したこの銅鏡が祭祀用具であったこと、地域によってその受け止め方が違ったことは、その後の日本の鏡の歴史を考えるうえで示唆的である。

[田中 琢]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「多鈕細文鏡」の意味・わかりやすい解説

多鈕細文鏡
たちゅうさいもんきょう

多鈕鋸歯文鏡,多鈕細線文鏡などとも呼ばれ,鏡背面の文様が幾何学文で,2~3個の鈕をもつ鏡。朝鮮半島に最も多く出土し,中国東北地方,沿海州,日本にもみられる。鏡背面の文様の精粗,鈕や鏡縁の形状の相違によって,若干の形態上の差がある。弥生時代の遺物として出土した5面はいずれもかまぼこ縁,平帯鈕のC式と呼ばれるもので,精細な文様をもち,朝鮮半島から移入されたものである。

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旺文社日本史事典 三訂版 「多鈕細文鏡」の解説

多鈕細文鏡
たちゅうさいもんきょう

背面の鈕が2ないし3ある鏡
朝鮮から沿海州の一部に分布しているが,日本では,古い形式の銅鐸 (どうたく) といっしょに出土したり,副葬品として出土している。朝鮮では細形銅剣・銅鉾と伴出している。

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世界大百科事典(旧版)内の多鈕細文鏡の言及

【鏡】より

…そして東の方の日本では特殊な発展を示した。【梅原 末治】【田中
[日本――先史,古代]
 日本列島に最初に登場した鏡は,朝鮮半島で製作された多鈕細文鏡であった。凹面鏡の多鈕細文鏡は,もともと映像の具ではなく,呪術用具であったとみなされており,銅鐸と同じところに埋納された事例もそのような用途であったことを示している。…

※「多鈕細文鏡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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