吉田東伍(とうご)著、日本地名の最初・最大の辞書。冨山房(ふざんぼう)発行。1900年(明治33)3月第1冊上を刊行。07年8月に第5冊下に至るまで13年を費やして完成。通巻5180ページ、各説部(地名部)4752ページ、汎論(はんろん)・索引部428ページ、日本全域の約4万地区を対象とする。全国を道、国、郡の順に配列し、各郡内はまた『和名抄(わみょうしょう)』の「郷」に分けて説述している。郷は古代・中世の開発地域としてまとまりをなすことによる。
本書は「地名辞書」と題しているが、その内容は巻頭の序言にみられるごとく「地誌」であり、地名を索引しやすい体裁をとっているので地名辞書としたのである。その記載は歴史地理に重点を置いており、著者も序言でそれを述べている。このことは、本書がまた日本歴史地理学の先駆書とされるゆえんでもある。その記載内容は、郷内の山、川、野、津、潟、寺社、島、谷、滝、城址(じょうし)等と主要村落の起源、耕地(田数)について説いている。それらの史・資料としては六国史(りっこくし)をはじめ中央的史書、地方誌・地方名跡志等にわたり、精細を尽くしているが、自然や産業関係の記載は多いとはいえない。また冒頭に日本歴史地理学会長蜂須賀茂韶(はちすかもちあき)をはじめ大隈重信(おおくましげのぶ)、原敬(たかし)らの政界人、重野安繹(しげのやすつぐ)、久米邦武(くめくにたけ)ら学界人、渋沢栄一ほか財界人等27氏から序文、推薦文等が寄せられている。もって各界・各層をあげての待望の名著であったことが知られる。
[浅香幸雄]
『吉田東伍著『増補 大日本地名辞書』全8巻(1969~71・冨山房)』
…ついで天野為之《万国歴史》,前橋孝義《日本地理》などを続刊,中等教科書に採用され,この分野の先駆となる。他方,吉田東伍《大日本地名辞書》全7巻(1900‐07),芳賀矢一・下田次郎編《日本家庭百科事彙》全2巻(1906)などをはじめとする辞典類に力を注ぎ,上田万年・松井簡治共著《大日本国語辞典》全5巻(1915‐28),大槻文彦著《大言海》全5巻(1932‐37),《国民百科大辞典》全12巻(1934‐37)などで成功をおさめて辞典出版社としての名声を不動のものとした。第2次大戦中も上智大学編《カトリック大辞典》全5巻(1940‐60)のような名著を手がけたが,戦後は児童書,全集類などの出版が多い。…
…落後生という筆名で続々史論を発表し注目された。日清戦争に従軍して,このころから,日本の地名の変遷を記した研究がないことに気付き,独力で多くの困難と闘いながら,13年かかって《大日本地名辞書》11冊を完成した(1907)。原稿の厚さ5mに及ぶ質量とも古今未曾有の大地誌で,今日でも刊行されている。…
※「大日本地名辞書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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