太平洋戦争期に唱えられた,日本を盟主とする東アジアの広域ブロック化の構想とそれに含まれる地域。第2次近衛文麿内閣の発足時の〈基本国策要綱〉(1940年7月26日)に〈大東亜新秩序〉の建設として掲げられ,国内の〈新体制〉確立とならぶ基本方針とされた。これはドイツの〈生存圏Lebensraum〉理論の影響を受けており,共栄圏の用語は外相松岡洋右の発言に基づく。すでに第1次近衛内閣は1938年11月,日中戦争の長期化をうけて〈東亜新秩序〉の建設を声明していたが,大東亜はそこでうたわれた〈日・満・支〉に,広く東南アジア,インド,オセアニアの一部までをも加えた範囲と考えられる。日中戦争をめぐるアメリカ,イギリスとの対立の激化を背景に,第2次大戦の勃発に便乗して,連合国側のアジア植民地を勢力下に置こうとした日本の計画を合理化するスローガンとして脚光をあびた。日独伊三国同盟によって枢軸国側の世界戦略構想の一環につらなり,太平洋戦争の開戦目的にもなった。日本は東南アジア各地を実際に占領したが,その支配は過酷な軍政か反動的な傀儡(かいらい)政権の樹立を通じて行われ,戦争遂行のための物資と労働力の一方的な収奪に終始し,〈共栄圏〉の美名にはほど遠かった。しかも各地の生産事情の相違や輸送力の不足から,戦時経済への寄与もごくわずかなものにとどまり,戦局の悪化とともに構想はもろくも破綻した。
執筆者:岡部 牧夫
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中国や東南アジア諸国を欧米帝国主義国の支配から解放し、日本を盟主に共存共栄の広域経済圏をつくりあげるという主張。太平洋戦争期に日本の対アジア侵略戦争を合理化するために唱えられたスローガンである。太平洋戦争勃発(ぼっぱつ)直前の第二次近衛文麿(このえふみまろ)内閣時の外務大臣松岡洋右(ようすけ)が最初に使ったことばだといわれるが、日本を盟主に東アジアに共存共栄の広域経済圏をつくりあげるという発想は古くから主張されていた。満州事変期の「日満一体」は、日中戦争期には「東亜新秩序」とその名を変え、東南アジア諸国を侵略対象とする1940年代初頭には「大東亜共栄圏」が主張されるに至った。しかし、このスローガンも、太平洋戦争が日本の敗色濃厚になり、日本からの物資供給がとだえ、逆に諸国からの日本への物資収奪が強行されるなかで色あせ、「共栄圏」は「共貧圏」へとその姿を変えていったのである。
[小林英夫]
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日本のアジア支配を正当化するためのスローガン。はじめて公的に使われたのは,武力南進決定直後の1940年(昭和15)8月1日の松岡洋右(ようすけ)外相談話である。重要資源供給地であり日本経済と不可分とされた満州・中国・東南アジアを包括的に示す概念であった。そして日本の南進が欧米帝国主義国の植民地政策とは異なることをアピールするために,「八紘一宇(はっこういちう)」「共存共栄」の名のもとに日本によるアジア解放の夢を掲げた。しかし実際には,占領地域で欧米帝国主義以上の収奪が行われ,日本の敗戦とともに消滅した。
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日中戦争,太平洋戦争において,日本が対外侵略の口実に使ったスローガン。白人の植民地支配を打破して,日本を盟主とする共栄圏をアジアに打ち立てることを主張した。実際には,日本が白人の支配にとって代わって,中国や南方の住民と資源を支配し,日本のために利用したにすぎず,各地で反日運動が起こった。戦後も日本の進出を警戒する言葉としてしばしば使われている。
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[戦争目的と戦争の経過]
1941年12月8日,日本は英領マレー半島コタ・バルへの奇襲敵前上陸とハワイ真珠湾奇襲攻撃によって太平洋戦争へ突入し,戦争は文字どおりの世界大戦に発展した。宣戦の詔書や政府声明に示された日本の戦争目的は,〈自存自衛〉と〈大東亜共栄圏建設〉の二つであったが,アジアを白人帝国主義の支配から解放し,日本を盟主とする〈大東亜共栄圏〉を建設するというスローガンは,現実には日本が中国と東南アジアを侵略し勢力圏化するためのものとして機能することになり,10日東条内閣は今次の戦争を〈大東亜戦争〉と呼称することを決定した(声明は12日)。 戦争の経過を軍事史の観点から時期区分すると,大要次のとおりである。…
…経済ブロックには,イギリスを中心とするオタワ協定Ottawa Agreements(1932)に基づく特恵貿易地域,アメリカとラテン・アメリカを結ぶもの,ドイツと南東ヨーロッパ諸国による広域経済圏Grossraumwirtschaft,フランスを中心とする金本位制を維持した国々による金ブロックなどがある。日本の大東亜共栄圏構想(大東亜共栄圏)は,満州,台湾,朝鮮から成るミニ・ブロックを本格的なものに拡大しようとしたものである。日本のこの構想およびドイツの広域経済圏を拡大しようという動きと,イギリス,フランス,アメリカなどとの利害の対立が,第2次大戦の主要な原因となった。…
※「大東亜共栄圏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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