大気電気(読み)タイキデンキ(その他表記)atmospheric electricity

デジタル大辞泉 「大気電気」の意味・読み・例文・類語

たいき‐でんき【大気電気】

大気中で起こる電気現象の総称。雷をはじめとする放電現象、電離した窒素酸素分子による大気電流などをさす。気象電気

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改訂新版 世界大百科事典 「大気電気」の意味・わかりやすい解説

大気電気 (たいきでんき)
atmospheric electricity

自然現象として大気中にあらわれる電気現象を総称して大気電気といい,この現象を扱う科学を大気電気学,英語では同じくatmospheric electricityという。大気電気現象は気象現象と密接に結びついている。はその代表例で,直接目と耳で感知できるが,一般に大気電気現象を観測するには,通常の気象測器とは異なった測定装置が必要である。

 雷を起こさない場合でも,激しい雨,雪,ひょう等を降らせる雲の中では,正負の電荷の分離・蓄積が行われている。また大気は完全な絶縁体ではなく,ごくわずかであるが電流を通す性質をもち,晴天無風のとき,地表は負に帯電し,上層の大気中には正電荷が分布し,大気中では垂直に,上方が高く下方が低い電位の分布が生じている。これを〈大気電界〉とよび,このため上層から地表に向かって流れる電流(1m2当り3×10⁻13A)を〈空地電流〉という。大気が非常に微弱であるが導電率をもつのは,〈大気イオン〉とよばれる荷電粒子が大気中に存在し,電位差に応じて移動するためである。晴天域では空地電流によって上層から地表へ正電荷が運ばれるが,悪天域とくに雷雲下では雨滴やひょうで運ばれ,また雷放電電流となって負電荷が地表に運び込まれ,地球全体で見ると電荷の平衡が成り立っている。

 地球とこれを取り囲む高層の惑星空間(電離圏)は,金属と同様にその中で電荷が自由に移動できる導体であるが,地表から高さ65kmまでの間は地表付近と同じような大気で満たされていて,電荷を移動させる性質すなわち導電率はきわめて低い。言い換えると地球導体と惑星空間導体とは,大気層という抵抗体で電気的に結ばれている。雷発電機が地球導体に対し惑星空間導体の電位をきわめて高い正の値に維持する結果,上述の大気電界を生じ,大気層という抵抗体を通じて空地電流が流れる。大気電界は,地球上で同時に活動している雷雲の総数に比例し,この数は1800個という平均値を中心に,ヨーロッパ,アフリカ大陸が太陽に面している時刻に極大となり,反対側の太平洋の中心部が太陽に面するときが極小となる。極地や大洋上などで局地的な気象の影響を受けないとき,大気電界を連続記録すると,地球上の全雷雲数の増減と同じ24時間周期の変化が観測され,その平均は垂直距離1m当り120Vという値になっている。

大気は窒素,酸素が主成分でこれに水蒸気,炭酸ガスその他微量のガスが混合している。これらの分子は,地球に起源をもつ放射能と地球外から入射する宇宙線によって絶えず電離されている。その結果,数分子が房状に結合して電子1個分正または負に帯電した粒子がつくられ大気中に安定した形で存在する。これが小イオンで,小イオンは電離によって発生する一方,この正負両イオンが中和してもとの中性分子に戻る作用と,大気中に浮遊する微粒子に付着して大イオンに変わる作用とによって消失し,発生・消失の平衡関係で大気中の濃度が定まる。大気中の浮遊粒子はエーロゾルと総称されており,その最小のものでも小イオンの1000倍程度の大きさをもつ。小イオンが付着して帯電したエーロゾルを大イオンとよんでいる。大気の導電率すなわち〈大気導電率〉は小イオン濃度で定まり,エーロゾル濃度の高い大気,すなわち汚染された大気は小イオン濃度が低く,大気導電率は低くなっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大気電気」の意味・わかりやすい解説

大気電気
たいきでんき
atmospheric electricity

地球大気中におこる電気現象。気象電気ともいう。大気中には発電作用を伴うさまざまな気象擾乱(じょうらん)がある。たとえば雨滴や雪片はいずれも多少の電荷を帯びている。砂嵐(すなあらし)の砂塵(さじん)は強く帯電する。これらのうちもっとも著しい発電作用を示すものが雷である。雷雲の中では激しい対流作用の結果、強く帯電した雪片や雨滴が落下するので、雲全体が分極する。通常の雷雲では上部に正電荷が、下部に負電荷が蓄積する。この蓄積量が限度を超えると電光放電がおこって中和する。

 雷雲を取り囲む大気は、上層ほど導電性がよいので、雷雲内の電荷の一部は上空へ漏出し、全地球に広がる。大気中の電気現象はこのように、雷などの発電作用をもつ気象擾乱と、それを包む大気の運動や、次に述べる電気的特性により、さまざまな様相を示すのである
 空気分子、すなわち窒素、酸素、その他の微量成分の分子などの一部は、宇宙線や自然放射性物質からの放射線を浴びて電離し、続いておこる複雑な諸反応を経たのちにやや安定な帯電分子塊を形成する。これを大気の小イオンという。小イオンは電気力によって運動するので、その流れは大気中の電流となる。すなわち、大気は完全な絶縁体ではなく、それが含む小イオンの多寡に応じた導電性をもつのである。大気が汚染されエーロゾル(浮遊微粒子、煙霧質エアロゾルともいう)が増すと、小イオンが減少する。その反面、小イオンがエーロゾルと結合して生ずる大イオンが増加する。このように大気の電気的性質は環境問題とも深くかかわっている。

[三崎方郎]

『金原淳著『空電』(1944・河出書房)』『畠山久尚・川野実著『気象電気学』(1955・岩波書店)』『孫野長治著『雲と雷の科学』(1969・日本放送出版協会)』『畠山久尚著『雷の科学』(1970・河出書房新社)』『北川信一郎・河崎善一郎・三浦和彦・道本光一郎編著『大気電気学』(1996・東海大学出版会)』『北川信一郎著『雷と雷雲の科学――雷から身を守るには』(2001・森北出版)』『日本大気電気学会編『大気電気学概論』(2003・コロナ社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大気電気」の意味・わかりやすい解説

大気電気
たいきでんき
atmospheric electricity

大気中に存在する電気の総称。大気中には電場が維持され,大気は正帯電している。また,種々の電離作用によりイオンがつくられ,大気は一定の電気伝導率を有する。この結果,大気中には常に電流が流れている。すなわち,大気中の正電場を維持するエネルギー,,イオンの形成およびそれに関連した大気中の放射性物質,宇宙線エアロゾルなどが大気電気に含まれる。

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百科事典マイペディア 「大気電気」の意味・わかりやすい解説

大気電気【たいきでんき】

落雷,セント・エルモの火などの大気中の電気現象および大気中の電離,大気の電気伝導度,空中電場,空地電流など大気の電気的性質。これらを考究する学問を大気電気学といい,物理気象学の一分野をなす。

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