大脳半球優位性(読み)だいのうはんきゅうゆういせい(英語表記)cerebral dominance

最新 心理学事典の解説

だいのうはんきゅうゆういせい
大脳半球優位性
cerebral dominance

ヒトの運動・認知機能において,左右どちらかの大脳半球(左脳・右脳)が,より優位に働くことをいう。

【離断脳split brain】 離断脳とは,左右大脳半球を底部でつなぐ交連線維commissural fibreを切断する手術を受けた脳をいう。交連線維は前交連anterior commissure,海馬交連hippocampal commissure,脳梁corpus callosumなどから成る神経線維束で,脳梁が最も大きい。交連線維は左右の大脳半球を支えるだけのものとみなされていたが,マイヤーズMyers,J.J.とスペリーSperry,R.W.による動物における両眼間転移実験inter-ocular transfer experimentから,左右大脳半球間の情報伝達を担うことや左右大脳半球が単独でも機能することが明らかにされた。1950年代の両眼間転移実験は,脳梁を離断して片方の視覚野にのみ視覚刺激が投射される事態では転移が生起しないことを立証した。ヒトでの離断脳は,ウェジネンWagenen,W.P.vanが1939年に24例のてんかん患者の脳梁切断手術を行なったことに始まる。この患者をアケレイティスAkelaitis,A.J.が検討したが,行動には何の異常も見いだせず,脳梁の役割には特別なものはないとされた。しかし,スペリーとガザニガGazzaniga,M.S.らは,ボーゲンBogen,J.E.とフォーゲルVogel,P.J.が1960年代に行なった離断脳手術を受けた患者を対象に,視覚神経伝達路の解剖学的特徴を利用した瞬間呈示法tachistoscopic presentation methodを用いて,左脳left hemisphereと右脳right hemisphereの機能を検討した。その結果,脳梁は単なる支えではなく左右脳の間の情報伝達機能を有すること,右脳は発話機能をもたないが一定水準の単語理解が可能なこと,空間認知機能は右脳が左脳よりも相対的に優れていること,情報処理様式では左脳と右脳に違いがあることを明らかにした。

 この離断脳研究に触発された健常者での左右脳機能差研究はラテラリティ研究laterality researchと称され,視覚だけでなく,聴覚,触覚,運動機能などでも検討が行なわれ,左脳は発話,文字や単語の読み書き,語音の処理,事象の系列的処理や微細な随意運動に,右脳は顔や幾何学図形,点字,韻律の理解,図形の心的回転(心の中で図形を回転させる作業),イメージ処理などに優れることが明らかにされている。ただ,このような機能差は相対的なものである。

【言語脳language brain】 左脳は音声言語spoken language(聞く,話す)と文字言語written language(読む,書く)や系列的情報処理に関係が深いために言語脳,右脳は図形や映像の認識や全体的な情報処理などに関係が深いことからイメージ脳image brainと称されることがあるが,これらの差異は特別な実験条件下でのみ立証されるもので,絶対的なものではない。健常者ではつねに左右脳間で情報伝達がなされ,脳は一つのシステムとして機能する。したがって,一方の脳を鍛えるなどの取り組みに科学的根拠はない。ただ,言語脳の同定は,脳外科手術をする際の切除範囲の決定に重要である。

 てんかんの外科的治療において,発語機能を左右脳のどちらが担うかを調べる目的でアミタール検査amytal testが行なわれる。アミタールは麻酔剤の名称である。大腿動脈に挿入したカテーテルを内頸動脈に導き,麻酔剤を注入する。右脳に麻酔剤が入ると,数分間左手が麻痺してだらりと下がる。この間に,名前,住所などを質問し,発語機能が保たれているかを調べる。同じ検査を続いて左脳についても行なう。大多数の人では左脳が麻酔されるとことばが出なくなる。この検査を開発したのは精神科医和田純で,1960年カナダにおいてのことである。そのため,外国ではWada testとよばれる方が一般的である。アミタール検査による左右脳の発語機能は利き手の影響を強く受ける。右利きでは95%,左利きでは50~70%が発語機能を左脳が担う。言語に関係が深いヒトの脳の解剖学的特徴として,聴覚野近傍の側頭平面plenum temporaleは65%のヒトで左脳の面積が右脳よりも大きいことを1968年にゲシュウィントGeshwind,N.らが見いだした。この差異は男性よりも女性で顕著であることや20週齢の胎児でも認められることから,言語のラテラリティの生得的要因を強調するものとされる。健常者の言語のラテラリティは両耳分離聴dichotic listeningで検査するのが一般的である。この検査は聴覚処理障害,中枢性聴覚障害,聴覚失認,語聾などのCAPD(central auditory processing disorder)の検出にも用いられる。両耳分離聴はブロードベントBroadbent,D.E.が注意実験のために創案し,カナダのキムラKimura,D.が脳損傷患者に適用したものである。右耳と左耳から同期して音刺激を呈示して再生を求める検査で,聴覚神経伝達路の特性から,右耳音は左脳へ左耳音は右脳に優先呈示されることを根拠にした方法である。数系列のような言語刺激では右耳の認知成績が優れ,音の高低やメロディ刺激では左耳の成績が相対的に優れる。

【利き手handedness,hand dominance】 片方で行なう動作に一貫して使用する側の手を利き手という。動作成績が優れる手と片手動作で選択される手は必ずしも一致しない。ヒトは約9割が右手利きで,左手利きや両手利きは1割程度であることはどの人種でも共通しているが,漢字圏やカトリック教圏では左手利きの割合は少なく文化差がある。また,男子の非右手利きは女子より多く性差がある。利き手は片手で行なう動作項目の質問からなる検査で判定され,欧米ではエディンバラ・テストEdinburgh Inventoryが,日本では八田・中塚利き手テスト(H・N利き手テスト)が使用されることが多い。利き手がなぜ成立するのかについては,アネットAnnett,M.に代表される遺伝子理論,ゲシュウィントらの胎児期での男性ホルモン理論,ザッツSatz,P.らの出産トラブル理論などがある。いずれも大多数の右手利きの中に,なぜ左手利きや両手利きが生じるのかの説明に力点がおかれている。左手利きは矯正の対象となってきたが,利き手成立理論のどれからも左手利きを矯正せねばならない理由は見いだせない。身体の左右側での偏向した使用は手だけでなく,目でも認められる。人間は両眼視差がもたらす問題を解決すべく片方の目を選択的に使用するとき,利き目eyedness,eye dominanceという。虹彩のサイズや光受容器の分布,視力,凝視力,鮮明な像を恒常的に生むなど,どの特性に焦点を当てるかで利き目の判定は異なる。一般には鮮明な像を選ぶ課題で,たとえば顕微鏡を覗く,節穴を覗くなどの片目動作を一貫して行なう側の眼を利き目ということが多い。多くの研究は,人口の約70%が右目を利き目であるとしている。また,片足での動作につねに用いる側の足を利き足footedness,foot dominanceという。片足での動作には,身体を支える動作と物を蹴る,つまむなどの動作があり,前者を軸足,後者を利き足という。人口の約80%で右が利き足である。なお,ポラックPorac,C.とコレンCoren,S.(1981)によれば,利き手と利き足の相関係数は0.53,利き手と利き目の相関係数は0.31,利き足と利き目の相関係数は0.25であり,身体動作のラテラリティがすべて一致しているわけではない。 →視覚領野 →聴覚領野
〔八田 武志〕

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