( 1 )従来の日本の「のほぎり・のこぎり」は材を横(木目に垂直)に押し切るものだったが、「おおが」は材を縦(木目に平行)にひくことができ、容易に幅の広い薄板を切り出すことができるので、建築技術に飛躍的な進歩をもたらした。
( 2 )江戸時代初期には、用途別にさまざまな形態に発展した。この結果、従来型の鋸にほぼ置き換わることとなったが、工具の総称として「のこぎり」は消えず特に大型のものを「おおが」というようになった。
木材を軸方向と平行に切断する(引く)二人挽きの大型縦挽鋸(たてびきのこ)で板の製材などに用いる。オガとは大ガガリの略でガガリは鉤のようにひっかかる意という。枠鋸(わくのこ)の一種で、棒状の枠の中央に竹製の梁をはめ込んだH字形木枠の一端に鋸身を固定し、他端に縄を張る。縄を絞めることで鋸身が張り強度を得る。大鋸は室町中期には日本で使われていたらしい。中国および周辺諸国にも大鋸があり、中世の大陸建築技術導入に伴い移入されたと思われるが、古墳時代から遺物のある在来の縦挽鋸から発達したという説もある。材種や材質にかかわらず製材が可能な大鋸の導入で板の生産性は格段に向上した。大鋸は江戸初期には姿を消し、鋸身が幅広で柄部が湾曲し身体の正面で挽く一人挽きの前挽大鋸(まえびきおが)が一般化し、今日では大鋸として前挽大鋸を指す場合が多い。また、木材の縦の軸方向に対し水平に切断する(切る)二人挽きで枠のない横挽鋸(よこびきのこ)は台切大鋸(だいぎりおが)と呼ばれる。
[中尾七重]
『村松貞次郎著『大工道具の歴史』(1973・岩波新書)』▽『吉川金次著『鋸』(1976・法政大学出版会)』▽『中村雄三著『道具と日本人』(1983・PHP研究所)』
木材の縦びき専用の鋸(のこぎり)。身幅約5cm,長さ約2m,中央で刃の方向が左右にわかれた鋸身を枠に張り,2人で大材をひき割る工具。大型であるから大鋸と書き,〈おおが〉とも言った。14~15世紀ころ中国より渡来したといわれている。それ以前の日本の鋸は木の葉形の横切り用のもので,能率も悪かった。大鋸の出現は製板および木材加工技術に一大革新をもたらしたが,大型であるため鋸身の製法が難しく,一般に入手困難であったらしい。15世紀ころには,大鋸引,小引(木挽)という材木加工の工匠が現れてくる。16世紀後半になって,刃渡りの短い一人びきの前びき大鋸(別名,木挽鋸)が現れ,明治半ばに製材機械が普及するまで,主要製板用の鋸となった。〈おがくず〉は元来大鋸でひいた切りくずという意味である。
執筆者:成田 寿一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
原木から大板材を挽き割るために用いる縦挽き専用の鋸(のこぎり)。室町時代頃から用いられ,従来の横切り用鋸では得られない大板を製材することができ,木材加工および建築分野に一大革新をもたらした。大鋸が普及するにともない大鋸引という職人が出現する。江戸初期,城郭作事用材などを得るために大鋸役の賦課がなされ,大工頭中井大和守支配下の大鋸引が動員され,吉野や木曾で製材を行った。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…身幅約5cm,長さ約2m,中央で刃の方向が左右にわかれた鋸身を枠に張り,2人で大材をひき割る工具。大型であるから大鋸と書き,〈おおが〉とも言った。14~15世紀ころ中国より渡来したといわれている。…
…(4)では木材用,竹びき用,金切り用などがある。木材の手びき用には既述の縦びき,横びき,ばら目のほかに細かい歯で精密にひく胴付(どうづき)鋸(鋸身の薄さを補強する背金がつくので背金鋸ともいう),端止溝を挽く畔(あぜ)びき鋸,舟大工の用いる摺合せ(すりあわせ)鋸,曲線を挽く引(突)回し鋸などがあり,さらに手びき製材に用いられてきた縦びき用の大鋸(おが),前びき大鋸,かがり,両びき(両頭)鋸などがある。(5)は手びき鋸,機械鋸を問わず,ほとんどのものは炭素工具鋼5~6種(鑢(やすり)のかかる程度の硬さ)であるが,最近丸鋸などには超硬質合金(炭化タングステン)などを付刃するものが多くなり,これをチップソーという。…
※「大鋸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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