天孫降臨神話(読み)てんそんこうりんしんわ

改訂新版 世界大百科事典 「天孫降臨神話」の意味・わかりやすい解説

天孫降臨神話 (てんそんこうりんしんわ)

〈日の御子〉が地上界の支配者として天降(あまくだ)る由来を物語り,記紀神話の中心をなす。天界の高天原(たかまがはら)で諸神が協議し,日神天照大神(あまてらすおおかみ)の子を地上界葦原中国(あしはらのなかつくに)に天降すことになる。ところが地上には,大国主(おおくにぬし)神を頭目とする荒ぶる神々が跳梁していた。使者を3度派遣し交渉した結果,オオクニヌシは子の2神とともに国譲りを誓う。以上の国譲り神話が天孫降臨神話のプロローグをなす。平定された葦原中国には,あらためて日神の孫瓊瓊杵(ににぎ)尊が降されることになる。皇孫はアマテラスの神言によって支配者的資格を授かったうえ,天忍日(あめのおしひ)命,天津久米(あまつくめ)命(大久米命)を先導とし,天児屋(あめのこやね)命太玉(ふとたま)命天鈿女(あめのうずめ)命石凝姥(いしこりどめ)命玉祖(たまのおや)命ら諸神を伴として日向(ひむか)の高千穂の〈くじふる嶽〉に天降る。そして日向の国に宮居を定めた。この〈神聖な〉由来をもって,以後代々の〈日の御子〉による葦原中国の統治は,絶対おかすべからざるものとなったとされる。

 この話が王の即位儀礼大嘗(だいじよう)祭鋳型としていることはたしかである。儀礼用の殿舎大嘗宮内での秘儀は,あたかも新王が高天原でアマテラスの子として誕生するドラマのごとく演じられたようである。また上記の諸神はそれぞれ大伴,久米,中臣(なかとみ),忌部(いんべ),猿女(さるめ),鏡作,玉作諸氏祖神である。これらの諸氏はいずれも大嘗祭久米舞の奏上,祝詞奏上,宮門の開閉,新天子の大嘗宮出入の際の前行など重要な役割を分担している。さらに上記諸神は皆,天の岩屋戸神話でも活躍しており,両神話は密接に連関している。この神話はまた大嘗祭とは一連の鎮魂祭の投射をうけているのである。古代の王の即位儀礼は,儀礼的な死と復活のドラマの形をとるのがつねであった。死を演じている間に,聖界におもむき霊力を賦与されるとみなされ,統治者にふさわしい神聖な人格として新王は再誕する。大嘗祭はそういう祭式的構造をもつ。新王の支配者的正当性のゆえんは,つねに神話的始源に求められた。大嘗祭をかたどった神話が作られるのは,そのためである。天孫降臨神話とは,まさしく葦原中国の初代君主誕生を物語る王権の聖なる始源神話であった。大嘗祭に奉仕する諸氏族の祖神が登場するのも,始源神話が現存の王権秩序を再確認強化させる機能をもっていたからである。この神話は記紀両書で根本的な相違はないが,主宰者がアマテラスのみ(《古事記》)か,男神高皇産霊(たかみむすひ)尊と2神(《日本書紀》)かという違いは,両書の性格に関連する相違点として注目される。
国譲り神話
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の天孫降臨神話の言及

【日本神話】より

…このとき国津神猨田毘古(さるたびこ)神(猨田彦大神)は道案内をした。これを〈天孫降臨神話〉という。 天降ったニニギは大山津見(おおやまつみ)神(大山祇神)の娘木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)(木花開耶姫)と婚するが,ヒメは一夜にして孕み,火照(ほでり)命と火遠理(ほおり)命の兄弟を生む。…

※「天孫降臨神話」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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