雅楽の一種目。久米歌2首を参入音声(まいりおんじよう),揚拍子(あげびようし),伊麻波予(いまはよ),退出(まかで)音声の4部に構成し,これに器楽の伴奏と舞とを付けたもの。古代皇権の征服・統一を象徴する勇壮な舞で,大伴,佐伯両氏により伝承され,東大寺大仏開眼供養では20人の舞人によって奏された。宮中では大嘗会など重要な儀式にあたって吉志(きし)舞と並び奏されたが,応仁の戦乱期に断絶,1818年(文政1)仁孝天皇即位の大礼の際に再興された。このときより舞人は4人,装束は巻纓(まきえい)の冠に緌(おいかけ)をつけ,赤袍を着用,金色の太刀を佩(は)き,黒の飾靴を履く。歌方は6人または8人で,音頭(歌の主唱者)は笏拍子を持つ。楽器は篳篥(ひちりき),竜笛および和琴(わごん)各1名。立楽(たちがく)といって,起立のまま奏するので,歌方のうち2人が和琴を持つ。第2次大戦後は奏演されていない。
執筆者:田辺 史郎
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宮廷儀式に用いる国風歌舞の一つ。その起源は、早く王権に服属した古代の久米一族の風俗歌舞にあるといわれる。のちにこの久米集団は大伴連(おおとものむらじ)のもとで来目部(久米部)(くめべ)を形成し、主として戦闘に携わったが、その勇猛さは『日本書紀』と『古事記』神武(じんむ)天皇の条にみえる一連の来目歌(久米歌)(くめうた)に示されている。雅楽寮が設置されると、久米舞もここにおいて教習され、宮廷の式楽としての様式化が進むようになる。『令集解(りょうのしゅうげ)』によると、大伴氏が琴を弾き、その支族の佐伯(さえき)氏が刀を持って舞ったとあるが、このような舞容に、武をもって朝廷に仕えた久米部の性格の反映がみられる。さらに752年(天平勝宝4)の東大寺大仏開眼供養(だいぶつかいげんくよう)のときにも、他の楽舞とともに久米舞が行われたが、平安時代になると久米舞は大伴・佐伯両氏によって大嘗会(だいじょうえ)の豊明節会(とよあかりのせちえ)に行われることが慣例化した。
久米舞の伝承は室町時代に至るまで続いたが、しかしこの時代を境に衰微しやがて廃絶に至り、江戸時代の1818年(文政1)の大嘗会に再興された。ただし、今日宮内庁楽部に伝えられているその再興曲は、篳篥(ひちりき)、和琴(わごん)、笛による四人舞の新作曲であり、古態そのものの復活ではない。
[高山 茂]
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…楽戸は品部で,奈良時代中ごろで,伎楽戸49戸,木登8戸,奈良笛吹9戸が大和国に存した。なお雅楽大属尾張浄足(平安初期の人か)によれば,日本在来の歌舞には,宮廷に伝来した五節舞などのほか,久米舞(大伴・佐伯両氏),楯臥舞(土師・文両氏)など,氏族の伝承したもの,筑紫諸県舞のごとく地方に伝来したものがあり,外来音楽にも,唐楽などのほかに度羅楽もあったという。しかし師・生ともに時代が下るにつれて縮減の傾向にあり,そのうえ,日本固有の楽は大歌所において,唐楽以下の外来の楽は楽所において,また女楽は内教坊において教習されるようになり,雅楽寮はその実体を失った。…
…長い伝承の間に歌の管理や歌い方は変遷して,楽府(がふ)(宮廷音楽の役所)でも歌い,古曲は大小の手斧を持って古式に舞った。のち,即位儀礼の大嘗祭(だいじようさい)の饗宴に大伴・佐伯両氏が久米舞を奏し,雅楽寮で大伴氏が琴を弾き佐伯氏が刀を持って舞って土蜘蛛を斬る所作をするなど芸能化を強め,大仏開眼供養にも上演されたが,なお久米の歌舞の名をのこすのは,大伴氏らに包摂される以前の久米氏の栄光を語るものといえる。歌が初代天皇の物語に編みこまれたのは大嘗祭にかかわるか。…
…日本の雅楽に用いる装束で,大別すると,日本古来の歌舞(うたまい)の舞人装束,管絃の装束,舞楽装束となり,一般にはこれらを総括して舞楽装束と称する。
[歌舞の舞人装束]
歌舞とは,神楽(御神楽(みかぐら)),大和(倭)舞(やまとまい),東遊(あずまあそび),久米舞,風俗舞(ふぞくまい)(風俗),五節舞(ごせちのまい)など神道系祭式芸能である。〈御神楽〉に使用される〈人長舞(にんぢようまい)装束〉は,白地生精好(きせいごう)(精好)の裂地の束帯で,巻纓(けんえい∥まきえい),緌(おいかけ)の冠,赤大口(あかのおおくち)(大口),赤単衣(あかのひとえ),表袴(うえのはかま),下襲(したがさね),裾(きよ),半臂(はんぴ∥はんび),忘緒(わすれお),袍(ほう∥うえのきぬ)(闕腋袍(けつてきほう)――両脇を縫い合わせず開いたままのもの),石帯(せきたい),檜扇(ひおうぎ)(扇),帖紙(畳紙)(たとうがみ),笏(しやく)を用い,六位の黒塗銀金具の太刀を佩(は)き,糸鞋(しかい)(糸で編んだ沓(くつ))を履く。…
※「久米舞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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