女性のためのアジア平和国民基金(読み)じょせいのためのあじあへいわこくみんききん(英語表記)Asian Women's Fund

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

女性のためのアジア平和国民基金
じょせいのためのあじあへいわこくみんききん
Asian Women's Fund

略称はアジア女性基金。元従軍慰安婦に対して見舞金支給するための民間基金。慰安婦問題の資料整備、今日の女性に対する暴力等の問題に対処する事業援助等も行った。1995年(平成7)7月19日発足、2007年3月31日解散。国による元慰安婦への補償は困難とする政府は、国としてのおわびと反省の気持ちを表す目的で基金の設立を決め、まず1996年7月にフィリピン、韓国、台湾の元慰安婦に対し首相の「おわびの手紙」をそえて1人200万円の「償い金」を支給するとともに、慰安婦を対象にした医療、福祉施設事業などのため政府から今後10年間に約7億円を支出することを決定した。フィリピン、韓国、台湾で70人以上が受領したが、この方式については、「真相究明と国家の責任をあいまいにする」として反対する意見もあり、事業活動は理解を得られないことも多かった。韓国政府は1998年に受け取りを拒否した慰安婦に1人当り約3560万ウォンの支援金支給を行い、アジア女性基金では「償い金」を受け取った元慰安婦にも支援金の支給を求めたが、韓国政府はこれを拒否、韓国への事業は停止状態に置かれた。インドネシアに対しては高齢者社会福祉施設整備事業への支援(3億6700万円)が行われ、慰安婦が多く存在したとされる地域に重点的に施設を設置し、元慰安婦であると名のり出ている人を優先的に入居させることとなり、オランダへは個人に対して医療、福祉分野への支援(2億4500万円)を行った。このほかに慰安婦関連の資料集の刊行、今日における女性の人権問題テーマとした国際会議開催等を行った。

[宮崎繁樹]

『女性のためのアジア平和国民基金編『政府調査「従軍慰安婦」関係資料集成』全5巻(1997、98・龍溪書舎)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

女性のためのアジア平和国民基金
じょせいのためのアジアへいわこくみんききん
Asian Women's Fund

日中戦争・第2次世界大戦中に従軍慰安婦とされた女性に対する日本の国民的な償い,医療や福祉の支援,反省とわびの表明などを目的とした民間基金。1995年7月に創設された。日本政府は,アジア諸国の被占領地域に対する戦時賠償問題は,対日講和条約やその他の二国間条約により国家としてはすでに解決済みという立場をとっているが,1990年以降,朝鮮人強制連行などとともに元慰安婦に対する補償を求める声が国際的に高まった。そのため日本政府は道義的な観点から,国家賠償に代わるかたちとして,民間基金として女性のためのアジア平和国民基金を発足させ,それを通じての補償を行なった。国民からの拠金による一人あたり 200万円の償い金,政府予算からの医療・福祉支援事業,内閣総理大臣の手紙からなる償い事業は,1996年8月~2002年9月にフィリピン,1997年1月~2002年5月に大韓民国(韓国),1997年5月~2002年5月にタイワン(台湾)において,合計 285人の元慰安婦に対して実施された。オランダでは 1998年7月~2001年7月,政府予算からの医療・福祉支援事業と首相の手紙からなる償い事業が 79人に実施された。また,インドネシアでは 1997年3月~2007年3月,政府予算からの高齢者福祉施設整備事業が実施された。償い事業の終了に伴い,基金は 2007年3月に解散した。(→従軍慰安婦問題

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