媒染染料(読み)バイセンセンリョウ(その他表記)mordant dye
mordant color

デジタル大辞泉 「媒染染料」の意味・読み・例文・類語

ばいせん‐せんりょう〔‐センレウ〕【媒染染料】

繊維に対する染着性がなく、媒染剤仲立ちとして染色を行う染料天然染料多くあかねアリザリンなどがある。

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精選版 日本国語大辞典 「媒染染料」の意味・読み・例文・類語

ばいせん‐せんりょう‥センレウ【媒染染料】

  1. 〘 名詞 〙 繊維と直接親和力がないため、媒染剤によって繊維上に不溶性錯塩を固着させて染色する染料。茜(あかね)アリザリン染料など、現在はあまり用いられない。

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改訂新版 世界大百科事典 「媒染染料」の意味・わかりやすい解説

媒染染料 (ばいせんせんりょう)
mordant dye
mordant color

媒染染料は本来,繊維に直接の染着力をもたず,媒染剤で処理した繊維に染着する染料であるが,その染着機構である金属と錯塩を形成することに着目すれば,媒染剤で染色の前あるいは後で処理する媒染可能な酸性染料である酸性媒染染料,酸性媒染染料から発達し分子内にすでに金属を錯塩としてもっている1:1型金属錯塩染料,1:2型金属錯塩染料まで媒染染料として考えることもできる。しかし一般的には金属錯塩染料は酸性染料の部属として扱い,媒染染料としては,本来の媒染染料,酸性媒染染料,およびアルマイト用染料の3種を含めるのが普通である。水に可溶な染料のなかには,そのままでは繊維に染着しないが,あらかじめ繊維を媒染剤という金属塩の水溶液で処理しておくとよく染着し,色も深くなり堅牢な染色物が得られるものがある。合成染料が出現する以前の天然染料の時代には,媒染による染色は重要な手法であった。天然染料の多くは媒染染料であり,アルミニウムAl,クロムCr,カルシウムCa,鉄Feなどの塩類による媒染が必要であった。有名なトルコ赤は,アルミニウム塩で処理した木綿を茜(あかね)(アリザリン)で染めたもので,アリザリンはアルミニウムイオンと結合し,繊維の上に堅牢な赤色の不溶性金属錯塩を生成したものである。アリザリンの合成により人類は天然染料と同一のものを入手することができたが,現在では媒染処理がめんどうなため,このような本来的な媒染染料はアリザリンのほか数種が製造されているにすぎない。現在アリザリン-アルミニウムレーキはむしろ有機顔料としてマダーレーキの名で著名である。

 媒染染料と同じく繊維上での不溶性錯塩生成による堅牢染色は,酸性媒染染料へ発展した。これは,酸性染料の一種として動物性繊維を染着した後,金属イオン(クロムに限られる)で処理するもので,この場合媒染剤としては重クロム酸塩が用いられる。したがって,このような染料のことをクロム染料,処理をクロム後処理という。金属塩による繊維の前処理(すなわち本来の媒染)による染色も可能で,この方法はセルロース繊維の媒染染色として使用される。さらに,染色と後処理の2度手間を省くため,あらかじめ染料と金属を錯塩としておく前述の酸性染料の一種である含金属錯塩染料へと発展した。

 アルマイト用の染料は,原理的には媒染染料とまったく同じであり,媒染染料または酸性媒染染料を使用することにより,アルミニウム陽極酸化皮膜形成の際に,アルミニウムレーキが生成される。なお,とくにアルマイト専用の染料も市販されている。

 化学構造的にみると媒染染料ないし酸性媒染染料は,アゾ系,アントラキノン系,トリフェニルメタン系が多く,構造的に重要な特徴は,金属イオンを錯塩としてとらえることのできる幾何学的位置に-OH基,-COOH基,-N=N-基などがあることである。たとえばアゾ染料の場合,金属錯塩化可能なサリチル酸基,OO′-ジヒドロキシ基をもつものが多い。


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「媒染染料」の意味・わかりやすい解説

媒染染料
ばいせんせんりょう
mordant dyes

繊維に直接に染着する性質がなく、適当な媒染剤により繊維に定着できる色素をいう。

 セルロース繊維を塩基性染料で直接に染めることはできないが、あらかじめ媒染剤であるタンニン溶液に木綿を浸しておき、ついで塩基性染料で染色すると染着できる。天然染料のほとんどは媒染染料で、ミョウバンなどのアルミニウム塩を媒染剤とするアリザリンによるトルコ赤は、その代表である。

 合成染料においては、化学構造的には、アゾ、キサンテン、ニトロソ、アントラキノン系に分類される。アントラキノン系がもっとも多い。いずれもスルホン酸基をもたず、金属イオンと錯塩を形成しうるヒドロキシ基をもっており、繊維上で水不溶性の金属錯塩をつくり定着しうるものである。概して耐光、洗濯堅牢(けんろう)度は良好であるが、染色法が煩雑で、均染性が悪く、色調も制御しにくいなどから、酸性染料系の媒染染料である酸性媒染染料以外、ほとんど用いられていない。

[飛田満彦]

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化学辞典 第2版 「媒染染料」の解説

媒染染料
バイセンセンリョウ
mordant dye

あらかじめ水溶性多価金属塩(媒染剤)で繊維を処理,加熱加水分解して金属酸化物としたのち,染色することにより繊維上に不活性金属錯塩化合物を生じて染着する染料をいう.繊維に対する直接染着性はない.媒染剤としてはクロム塩が主で,そのほかアルミニウム,鉄,ニッケル,スズなどの塩が用いられる.これら媒染剤の種類によって色調を異にする.染料分子には,アリザリン(C.I. Mordant Red 11)の隣接ケトン基とヒドロキシ基のような錯塩形成官能基が必要である.合成染料の分野でもアントラキノン染料をはじめ種々の染料が開発され,木綿,羊毛,絹などの堅ろう染色に用いられていた.しかし,媒染法が複雑で熟練を要することや,一方では染色操作のより簡便な新型合成染料が多数出現したことなどのため,今日では歴史的重要性をとどめるにすぎない.[別用語参照]媒染

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「媒染染料」の意味・わかりやすい解説

媒染染料
ばいせんせんりょう
mordant dye

媒染によって繊維を染める染料。天然染料の多くは,水には溶けても,直接繊維には染まりにくいが,あらかじめ繊維に金属塩の水溶液を十分にしみこませておくと,堅牢な染色が得られる。こうした染色法を媒染,使用する金属塩を媒染剤という。媒染剤にはアルミニウム,クロム,カルシウム,鉄などの塩類があり,染料と結合して不溶性のレーキとなって繊維に固着する。金属イオンの種類によって発色の違うことが多い。のアリザリンは有名で,アルミニウム媒染によって綿布を赤染めしたトルコ赤は広く使われていた。現在は,酸性媒染染料 (クロム染料) が羊毛染色に用いられている。洗濯に強いが,一般にくすんだ色調をしている。

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百科事典マイペディア 「媒染染料」の意味・わかりやすい解説

媒染染料【ばいせんせんりょう】

直接繊維に染まりにくく,媒染剤を用いて染色しなければならない染料。丈夫な染色が得られるが,染色法が他に比較して面倒。アリザリンなど天然染料の多くは媒染染料である。現在では酸性媒染染料が重要。

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栄養・生化学辞典 「媒染染料」の解説

媒染染料

 それ自体は繊維を染めないが,繊維を媒染剤で処理すると染色することができる染料.媒染剤としては金属錯塩を用い,色素は,その金属と不溶性の金属錯塩を形成して染色する.

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