子宮体癌(読み)シキュウタイガン

デジタル大辞泉 「子宮体癌」の意味・読み・例文・類語

しきゅうたい‐がん【子宮体×癌】

子宮癌のうち子宮体部子宮内膜に発生する癌。罹患りかん率は40歳代後半から増加し、50~60歳代で最も高くなる。肥満・糖尿病高血圧の女性に多いとされる。子宮内膜癌。→子宮頸癌
[補説]子宮体部にできる悪性腫瘍には、ほかに子宮肉腫がある。子宮肉腫は子宮体部の子宮筋にできる悪性腫瘍で、良性腫瘍である子宮筋腫とは異なる。

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家庭医学館 「子宮体癌」の解説

しきゅうたいがん【子宮体がん Carcinoma of the Corpus Uteri and Endometrial Carcinoma】

[どんな病気か]
 子宮体部(図「子宮がんの発生部位」)に発生したがんを子宮体がん(子宮内膜(ないまく)がん)といい、日本では、最近増加の傾向にあります。
 もともと欧米では、子宮がんのうちでも多いがんだったのですが、日本でも、全国平均で全子宮がんの30%程度まで増えてきました。
 子宮体がん増加のはっきりした原因は不明ですが、食生活の欧米化にともなって動物性脂肪の摂取量が増えたことや、女性ホルモンの1つであるエストロゲンの長期間にわたる過剰刺激が関係しているともいわれています。
●どんな人がなりやすいか
 子宮頸(けい)がん(「子宮頸がん」)に比べて、子宮体がんになる人は比較的年齢層が高いのが特徴で、50歳代にもっとも多く発見されます。ところが、最近では若い年齢層にもみられるようになり、30歳代の子宮体がんもまれではありません。
 以前は、肥満、高血圧、糖尿病の人に多く発生するともいわれていましたが、はっきりした因果関係は否定されています。また、最後の妊娠から5年以内に子宮体がんが発生することはまれです。
 妊娠との関係を調べてみると、妊娠しなかった人や、妊娠・分娩(ぶんべん)の回数が少なかった人に比較的多く発生する傾向があります。月経不順が長期間続いた場合にも多いといわれています。
 最近では、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)(「骨粗鬆症」)などに対してHRT(ホルモン補充療法)などを行なう場合も多く、閉経後もホルモン環境(体内のホルモン量)が変化している場合がありますので、こういった治療を受けている人は、乳がん、子宮がん(頸部、体部)の検査を定期的に受けてください。
 子宮がん検査の際に行なった経腟的超音波検査(けいちつてきちょうおんぱけんさ)(腟のほうから超音波を用いて子宮などの形を画像に表わす装置)で、子宮内腔(ないくう)の肥厚(ひこう)(異常に厚くなる)が見つかり、検査する場合もあります。
●がんの進行
 子宮体がんの広がり方には、大きく分けて4つあります。
①子宮の壁にしみこむように(浸潤(しんじゅん))進み、おなかの中に転移(てんい)する。
②卵管(らんかん)を通り抜けて、子宮のまわりに転移する。
③卵巣の動脈にそって走るリンパ管の流れにのり、全身に転移する。
④子宮の下部にある子宮頸部へむかって浸潤し、子宮頸がんのように進む。
 現在、子宮体がんの進みぐあいは、手術後の組織検査により決められますが、それはつぎのように分類されます。
 0期 まだ本当のがんとはいえないが、がんに移行するおそれが強いもの。異型子宮内膜増殖症(いけいしきゅうないまくぞうしょくしょう)(「子宮内膜増殖症/子宮内膜異型増殖症」)などがこれに相当します。
 Ⅰ期 がんが子宮体部にとどまるもの。子宮内膜にとどまるⅠa期と、子宮体部の筋肉層の2分の1以内の浸潤にとどまるⅠb期、筋肉層の2分の1以上に浸潤しているⅠc期に分けられます。
 Ⅱ期 がんが子宮頸部にまで浸潤しているもの。
 Ⅲ期 がんが子宮の外側に広がり始め、卵管や卵巣(らんそう)、腟(ちつ)、リンパ節に浸潤や転移がみられたり、腹腔の細胞診(さいぼうしん)(コラム「子宮がん検診」)が陽性のもの。
 Ⅳ期 がんが子宮から遠い位置にある臓器へ転移し、膀胱(ぼうこう)や直腸の粘膜(ねんまく)に浸潤がおよぶもの。
[症状]
 無症状のものもありますが、子宮頸がんがある程度進行してから症状が出始めるのに比べ、子宮体がんは、いわゆる0期の段階から少量の出血や褐色の帯下(たいげ)(おりもの)などの出血症状が現われることが多く、少なくともこれを目安に、子宮体がん検査を行なうよう推奨されています。
 とくに閉経前後は、不順な月経と区別するのがむずかしいので、おかしいと思ったら婦人科の診察を受け、できるだけ子宮体がん検査も受けるようにしましょう。
 がんが進行してくると、帯下は血性や水様性、膿性(のうせい)となって悪臭をともなうようになり、量も増えてきます。
 また、子宮の内側に膿(うみ)、血液、分泌物(ぶんぴつぶつ)、がんの崩壊した物質がたまって子宮がふくれ、子宮留膿腫(しきゅうりゅうのうしゅ)の状態になります。この状態から、子宮が収縮して内容が流れ出すときに、規則的に反復して痛みがおこり、悪寒(おかん)や発熱がおこることもあります。
 子宮体がんは子宮頸がんに比べて穏やかに進行することもありますが、やがてはがん性悪液質(あくえきしつ)(がん毒素が臓器や神経を侵した状態)におちいります。
[検査]
 子宮体がんの検査には、つぎのようなものがあります。
 細胞診(さいぼうしん) 子宮頸がんと同様、細胞を採取して顕微鏡で検査する方法です。
 子宮の内腔から細胞をとるために、子宮の中にポリエチレン製の細くやわらかい管や、細いブラシ、プラスチック製の棒状の器具などを挿入します。
 子宮内に挿入する際に、多少の疼痛(とうつう)を感じる場合もありますが、操作前に内診(手指で子宮などの大きさや形を診断する)や経腟的超音波断層診断装置で子宮の状態を確認してから操作するため、ほとんど危険はありません。この検査でがんの存在が疑われた場合は、つぎの検査を行ないます。
 子宮鏡診(しきゅうきょうしん) 細い内視鏡(ないしきょう)を用いて、子宮の中を直接みる検査です。麻酔をかけて行なう場合もあります。
 組織診 子宮の内膜(子宮内腔の内側の部分)を掻爬(そうは)してその一部を採取し、病理組織検査を行なって最終診断をつけます。これは多少の疼痛をともないますので、麻酔をして行なうことが多い検査です。
[治療]
 進行の程度によって、治療の内容がちがいます。
 0期 妊娠・出産を希望する場合は、ホルモン療法を行ないます。妊娠・出産を希望しない場合は、年齢などを考慮して、単純子宮全摘術(ぜんてきじゅつ)を行なうこともあります。
 Ⅰ期 単純子宮全摘術と骨盤(こつばん)リンパ節の郭清術(かくせいじゅつ)を行ないます。
 Ⅱ期~Ⅳ期 がんが骨盤壁まで到達していなければ、広汎子宮全摘術(こうはんしきゅうぜんてきじゅつ)と骨盤リンパ節の郭清術を行ないます。骨盤壁まで、がんが浸潤している場合には、放射線療法を行ないます。手術後の再発防止のため、ホルモン療法などを一定期間行なうこともあります。

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六訂版 家庭医学大全科 「子宮体癌」の解説

子宮体がん
しきゅうたいがん
Endometrial cancer
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 子宮の太くなった部分(子宮体部)の内部は粘膜(子宮内膜(しきゅうないまく))で裏打ちされた空洞になっています。子宮体部の粘膜から発生するがんのことを子宮体がんといいます。子宮内膜がんと呼ぶこともあります。子宮内膜に発生したがんは次第に子宮の筋肉に浸潤(しんじゅん)します。さらに子宮頸部(けいぶ)や卵管・卵巣に及んだり、骨盤内や大動脈周囲のリンパ節に転移したりします。さらに進行すると、腹膜・腸・肺・肝臓・骨などに転移します。

 子宮体がんは、50、60代に最も多く発見されますが、5%は40歳未満で発見されます。

原因は何か

 子宮体がんの発生には、エストロゲン(卵胞(らんぽう)ホルモン)による子宮内膜の刺激作用が関与しています。

 子宮内膜は卵巣から分泌されるエストロゲンの作用によって増殖します。卵巣から排卵したあとには黄体が形成されますが、そこから分泌されるプロゲステロン黄体(おうたい)ホルモン)の作用が加わることによって子宮内膜は分泌期内膜(ぶんぴつきないまく)に分化します。黄体は2週間ほどで消退して、エストロゲン・プロゲステロンの分泌も減少しますが、それに反応して子宮内膜が剥離(はくり)します(月経)。正常なホルモン環境では子宮内膜は増殖・分化・剥離のサイクルを繰り返します。

 しかし、排卵の障害などのために子宮内膜がプロゲステロンの作用を受けないままエストロゲンに刺激され続けると、子宮内膜が過剰に増殖し(子宮内膜増殖症(しきゅうないまくぞうしょくしょう))、子宮体がんの発生母地になります。

 肥満・未産・遅い閉経年齢(53歳以上)が子宮体がんの危険因子です。また糖尿病高血圧症も危険因子とされています。

 乳がん大腸がんの既往のある人は子宮体がんになる危険が一般より高く、逆に子宮体がんの既往のある人は乳がん大腸がんになる危険性が高いことが知られています。

 逆に、経口避妊薬の使用により子宮体がんの発生率が下がります。

症状の現れ方

 ほとんどの子宮体がんで不正性器出血(月経以外の出血)がみられます。しかし、がん病巣からの出血を「不順な月経」と誤解していることもあり、注意が必要です。そのほか、漿液性帯下(しょうえきせいたいげ)(水っぽいおりもの)、血性(けっせい)帯下(血液の混じったおりもの)や下腹部痛がみられることもあります。

検査と診断

 不正性器出血がある場合は、まず妊娠の可能性を否定します。次に経腟(けいちつ)超音波検査で子宮内膜厚の測定を行います。診断確定のためには、子宮のなかに細い器具を入れて子宮内膜の細胞診・組織診を行います。診断が困難な場合は、子宮鏡検査や子宮内膜全面搔爬術(ぜんめんそうはじゅつ)を行います。

 子宮体がんの診断が確定したら胸部X線検査、経静脈性尿路造影、膀胱鏡・直腸鏡検査、腹部超音波検査、CT、MRIなどにより病変の広がりを調べます(表3)。

治療の方法

 原則として開腹手術を行います。基本術式は腹式単純子宮全摘と両側付属器(卵巣・卵管)切除です。病変の進行度に応じて骨盤リンパ節・傍大動脈リンパ節の生検(一部をとる)あるいは郭清(かくせい)(すべてとり除く)を追加します。

 子宮外(卵巣、腹膜、リンパ節など)にがんが進展していた場合は術後に放射線療法や化学療法を行うことが多いのですが、どのような場合にどのような追加治療を行うべきかは世界的に統一されていません。

 若年女性のごく早期の子宮体がんに対しては、妊娠の可能性を残す目的で、ホルモン療法が試みられています。

病気に気づいたらどうする

 不正性器出血、とくに閉経後に出血がみられた場合は婦人科を受診してください。また極端な月経不順も子宮体がんの発生母地になる場合があるので、ホルモン剤を用いて定期的に月経を起こすのがよいでしょう。

山田 学


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「子宮体癌」の解説

子宮体癌(子宮頸癌・子宮体癌・卵巣癌)

定義•概念
 子宮体部の内膜の腺上皮細胞を発生母地として発生する上皮性悪性腫瘍を,子宮体癌(体癌)という.
分類
 組織学的には,体癌のほとんどは内膜腺に類似した形態を示す類内膜腺癌であり,構造異型の程度により分化度を分類する.また最近,体癌は,エストロゲン依存性の有無により,生物学的悪性度が異なる2つのタイプに分類されると考えられている(表12-20-1).
原因•病因
 リスク因子としては,肥満,高血圧,糖尿病といったメタボリック症候群に関連したものや,月経不順,多囊胞性卵巣,不妊症,妊娠分娩歴がない,などホルモン環境に関連したものがあげられる.また薬剤では,乳癌術後のタモキシフェン投与や,更年期障害の治療におけるエストロゲン製剤の単独投与などがあげられている.
疫学
 近年,生活習慣の欧米化などに伴って体癌は増加傾向にある.年齢別の罹患率は,40歳代後半から増加し,50~60歳代にピークを迎え,その後減少する.
臨床症状
 初発症状は,不正性器出血が大部分である.特に閉経後の不正性器出血では本症を念頭におく必要がある.
診断
 一般的に閉経後の子宮内膜は菲薄化しているため,経腟超音波検査にて内膜の異常肥厚を認める場合は,内膜細胞診ならびに内膜組織診を行う.内膜組織診で確定できないときは内膜全面掻爬を行い診断を確定する.病変の広がりを評価するために子宮鏡検査やMRI,CT検査を行い,頸部浸潤や筋層浸潤の程度,リンパ節や遠隔臓器への転移の有無の診断を行う.体癌に特異的な腫瘍マーカーはないが,CA125,CA19-9が約1/2の症例で上昇する.
鑑別疾患
 子宮内膜増殖症,子宮内膜ポリープ,粘膜下筋腫などと鑑別することが必要である.
治療
 手術療法,化学療法,放射線療法,ホルモン療法の4つの治療方法がある.治療の第一選択は手術療法であるが,病期に応じて,これらを単独にあるいは組み合わせて治療を行う.手術療法としては子宮全摘出術に加え,両側の付属器を摘出する.筋層浸潤を認める症例では,骨盤あるいは傍大動脈リンパ節郭清が追加される.化学療法としては,プラチナ製剤を中心にアントラサイクリン系,タキサン系製剤を組み合わせる.初回治療としての放射線療法の適応は,手術が不可能な症例に限られる. 妊孕性温存のための高用量黄体ホルモン療法は,高分化型類内膜腺癌で,かつ筋層浸潤がない症例に限り,インフォームドコンセントを取った上で,治療経験を十分に有する施設で行う.
予後
 各進行期における5年生存率は,Ⅰ期90%,Ⅱ期80%,Ⅲ期60%,Ⅳ期20%程度である.[青木大輔・森定 徹]
■文献
日本婦人科腫瘍学会編:子宮体がん治療ガイドライン 2009年版,金原出版,東京,2009.
日本産科婦人科学会,日本病理学会,他編:子宮体癌取り扱い規約 第3版,金原出版,東京,2012.

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百科事典マイペディア 「子宮体癌」の意味・わかりやすい解説

子宮体癌【しきゅうたいがん】

子宮癌

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世界大百科事典(旧版)内の子宮体癌の言及

【子宮癌】より

…子宮腟部の中央には頸管が開口しており外子宮口と呼ばれている。子宮癌には子宮頸部に発生する(その多くは外子宮口付近に発生する)子宮頸癌cancer of the uterine cervix(略して頸癌)と,子宮体部に発生する子宮体癌cancer of the uterine body(略して体癌)とがある。頸癌と体癌はたんに発生した場所が異なるだけでなく,発生しやすい年齢や発生を助長している因子などで違いがあり,また診断,治療の方法がかなり異なるので,両者を区別している。…

※「子宮体癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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