宗教心理学(読み)しゅうきょうしんりがく(英語表記)psychology of religion

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

宗教心理学
しゅうきょうしんりがく
psychology of religion

宗教を社会的,文化的な場における人間の行動の一様相と考え,そこに発現する諸現象を心理学的に取扱う心理学の一分野。そこで扱われる宗教的意識ないし行為のなかには,不安やの意識の発生と解消,態度や信念発達回心によるパーソナリティの急激な転換あるいはその統合過程の発達,認知変容とその背後にある動機づけとの関連などさまざまな心理学的過程が含まれている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典 第2版の解説

しゅうきょうしんりがく【宗教心理学 psychology of religion】

宗教現象を心理学的に研究することを課題とする学問。宗教学の一領域であるとともに心理学の一領域でもあり,重なり合う部分をもつ。近代の心理学は〈霊魂soulなき心理学〉をめざしてきた。しかるに宗教は,霊界,死後の世界,神や仏などつかみどころのないものを相手どって,断食をしたり,祈ったり,巡礼をしたりする。なぜ人間はこうした目に見えない世界と対峙して,日常生活とは違った営みをしてきたのか。こうした問題に,神の側からではなく,人間側の営みとしてこれを研究してみようとしたとき宗教学が生まれ,そうした意識や経験に焦点をあてるとき宗教心理学が成立した。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

大辞林 第三版の解説

しゅうきょうしんりがく【宗教心理学】

回心の過程、信仰による意識の変化、罪の意識といった宗教現象の心理的側面を、実験心理学さらには深層心理学の方法を用いて研究する学問。

出典 三省堂大辞林 第三版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

宗教心理学
しゅうきょうしんりがく
psychology of religion

宗教現象の心理的側面の実証的研究。通常、深層心理学、人格心理学、社会心理学、異常心理学などの視点や方法や洞察を広く援用しつつ、宗教心理の構造・機能・発達などを分析考察するものであるが、宗教学の一分野としては、宗教そのものの理解・解明を心理的次元から目ざす学問である。19世紀から20世紀初頭にかけて、主としてアメリカ合衆国において成立したスターバックEdwin Diller Starbuck(1866―1947)の『宗教心理学』(1899)、ウィリアム・ジェームズの『宗教的経験の諸相』(1902)は初期の代表的業績である。その後1920年代からは、フロイトやユングなどの深層心理学が宗教心理の無意識的次元の解明に貢献した。
 1940年代以降には、社会心理学や人格心理学の角度からの研究が展開した。方法論としては、質問紙法、手記資料法、実地調査(参与観察)、象徴解釈、心理テストなど多岐にわたる。主要なテーマには、回心、神秘主義、宗教的成熟、信仰治療、憑依(ひょうい)現象などがある。[松本 滋]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典の解説

しゅうきょう‐しんりがく シュウケウ‥【宗教心理学】

〘名〙 宗教において現われる、個人あるいは集団などの心理状態や心理作用を観察し、研究する心理学の一分野。スターバック、ジェームズ、フロイトらによって開拓された。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

最新 心理学事典の解説

しゅうきょうしんりがく
宗教心理学
psychology of religion

宗教を研究対象とする心理学の諸学派や方法群の総称。エビングハウスEbbinghouse,H.の「心理学には長い過去があるが,実際の歴史は短い」という言明が暗示するように,研究対象である宗教そのものにも心の探究という側面がある。19世紀末にアメリカとドイツで大学に心理学実験室が設置され科学的心理学が産声を上げる以前から,知覚心理学と呼応する五蘊(色・受・想・行・識)の体系や唯識のような深層心理学的体系を仏教はもっていたし,神学者エドワーズEdwards,J.のような優れた説教者は,人間の魂を救済する深い観察眼を備えていた。宗教心理学を広義にとらえるならこれらに目配りする必要があり,仏教心理学のような運動と宗教心理学との連携さえ検討されうる。ホーマンズHomans,P.(1987)は心理学史を振り返り,研究者自身の信仰や価値観を反省吟味(放棄ではない)する必要も指摘する。

 宗教心理学で最も広く扱われた主題として,回心conversion(宗教的な急激な目覚め)がある。リバイバル運動を背景とする回心研究は,1881年にホールHall,G.S.が行なったハーバード大学での講義を皮切りに,思春期の罪責感からの転換を質問紙法で数量的に吟味したスターバックStarbuck,E.D.(1899),宗教的な手記を数多く引用したジェームズJames,W.のエジンバラ大学での講演録(1902)と続く。回心前後の鮮明な変化は心理学研究に好適であったが,回心という特異な体験はある種の異常心理ともとらえられた。その後,リフトンLifton,R.J.(1961)の洗脳の研究や,ロフランドLofland,J.とスタークStark,R.(1965)による新宗教運動への入会過程conversionは,思想や価値観の急激な変容ではなく組織への段階的参加度と連動しての心境の漸次的変化過程の存在を示した。イスラムへの改宗や福音主義的キリスト教の世界伝道における改宗conversionも,ヘフナーHefner,R.W.(1993)などが文化人類学の文脈で検討している。

 回心研究の広がりだけ見ても,宗教の心理学的研究は広範である。たとえば『International Journal for the Psychology of Religion』や『Journal for the Scientific Study of Religion』などの実証的研究誌には掲載されない,深層心理学的な探究,心理療法における病理と宗教性の蓄積,人間性心理学やトランスパーソナル心理学などの人間可能性開発的な実践,参与観察と連動した認知心理学的視点などの多様な主題がある(Wulff,D.M.,1997)。『心理学評論』35巻1号(1992)は東洋的行法の特集で,日本で精力的に行なわれた禅の生理心理学的研究の概要を知ることができる。また,金児暁嗣(2011)では実証的宗教心理学の概要が,島薗進と西平直(2001)では深層心理学と宗教研究のつながりが確認される。

 近年注目すべき領域として,瞑想の応用とポジティブ心理学がある。瞑想の精神医学的研究は安藤治(1993)に詳しい。また,チリ政変の苦痛を体験した脳神経学者バレーラValera,F.は,精神と生命研究所Mind and Life Instituteを拠点に,チベット仏教のダライ・ラマなどとの共同研究を重ね,仏教的瞑想の脳科学的評価と合わせ,政治,経済,社会の改善のための瞑想の応用を模索した。東南アジア仏教系のビパッサナー瞑想は禅やチベット仏教と並ぶ西欧での広がりをもち,カバット・ジンKabat-Zinn,J.(1990)の提唱するマインドフルネスストレス低減法mindfulness based stress reduction(MBSR)に体系化され,さらにうつ病や依存症の再発予防など幅広い心身疾患に応用されている。マインドフルネスは仏教起源の語であることが忘れられるほど人口に膾炙しつつある。心理学が精神病理など負の側面にばかり焦点を当ててきたと批判したセリグマンSeligman,M.E.P.(2000)の提唱した運動であるポジティブ心理学は,従来の心理学の方法や知見を継承しつつ,人間の徳性や価値観と幸福との相関を検証して,組織研究や教授法などに幅広く応用されつつあるが,これらはかつて宗教人格論という主題であったのである。 →ポジティブ心理学 →唯識心理思想
〔葛西 賢太〕

出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報

世界大百科事典内の宗教心理学の言及

【宗教学】より

…また宗教の比較は当然のこと宗教の歴史への関心を内包しており,そこから歴史学や考古学の成果をとり入れた宗教史学の立場(たとえばC.P.ティーレ,N.ゼーデルブロム)が追求されることになった。他方,19世紀にいたり社会学や心理学が新たに勃興すると,それが宗教研究にも刺激を与え宗教社会学(たとえばM.ウェーバー,É.デュルケーム)や宗教心理学(たとえばE.D.スターバック)の研究分野がひらかれた。またとくに近代にいたり,世界各地の植民地において数多くの未開宗教に関する調査資料が集められるようになると,そこから民族学=人類学(たとえばJ.G.フレーザー)の方法による部族宗教の研究(宗教人類学)が盛んになった。…

※「宗教心理学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

今日のキーワード

イグノーベル賞

ノーベル賞のパロディとして、世界中のさまざまな分野の研究の中から「人々を笑わせ、そして考えさせる業績」に対して贈られる賞。「イグノーベル(Ig Nobel)」とは、ノーベル賞創設者アルフレッド・ノーベ...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android

宗教心理学の関連情報