定窯(読み)ていよう(英語表記)Dìng yáo

精選版 日本国語大辞典 「定窯」の意味・読み・例文・類語

てい‐よう ‥エウ【定窯】

〘名〙 中国、河北省曲陽県澗磁村とその周辺に築かれた白磁系の窯(かま)。唐末におこり、北宋に白磁の名窯として天下に名をはせた。
随筆・嬉遊笑覧(1830)二「定窯〈略〉宋南渡の前を北定といひ後を南定といふ」

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デジタル大辞泉 「定窯」の意味・読み・例文・類語

てい‐よう〔‐エウ〕【定窯】

中国河北省曲陽県にあった陶窯晩唐に始まり、北宋代に白定と称される象牙質の白磁を焼成して隆盛した。

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改訂新版 世界大百科事典 「定窯」の意味・わかりやすい解説

定窯 (ていよう)
Dìng yáo

中国,宋代の北方窯。1941年,小山冨士夫によって河北省曲陽県の澗磁村と燕山村で窯址が発見された。その後中国の考古学者,陶磁学者によって窯址の発掘調査が行われ,五代より宋,金代にわたり白磁を中心として磁器を焼造していることが明らかになった。定窯では白磁を中心に焼造しているが,黒釉をかけた黒定といわれるものや,柿釉をかけた柿定(紅定)や,磁州窯風の搔落しのものや,焼締陶などがある。このほかに数は少ないが緑釉をかけた緑定などもある。器種は皿,鉢を主に生産し,このほか水注,瓶,壺,陶枕,人形などがある。焼造方法は覆焼といわれる鉢を伏せて十数枚重ねて焼く方法によって行っているため,口縁に釉はかからず,焼成後に金や銀の覆輪を口縁に施していることが多い。

 河北省定県静志寺の北宋塔基(977)から100点余りの定窯白磁の浄瓶,碗,盆,香炉,洗,盤,法螺貝形香炉などが発見され,北宋初期に定窯が盛んに磁器焼造を行っていたことが明らかになった。施文方法は浮彫,刻花が多く,北宋期のものは浮彫によって蓮弁文を器面に装飾している。北宋後期から金代には紙のごとく薄い器にひきあげ,唐草文牡丹文,花鳥文,水禽文を刻花により器面いっぱいに施している。さらに印花文という,型押し技法もこのころ生みだされ,精緻な文様を完成した。定窯ではこのほか,金彩のものがあり,漆で器面に施文した後に金箔をはり込んで唐草文や牡丹文を描いている。この金花定碗は朝鮮の高麗古墳から発掘されたものが多く,ソウルの韓国中央博物館や日本のMOA美術館大和文華館などに数十点が伝わっている。定窯は元代にも焼造を行っていたようであるが,明代には衰退していく。元・明代には山西省霍県(かくけん)窯で仿定窯の白磁が生産されている。
白磁
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「定窯」の意味・わかりやすい解説

定窯
ていよう

中国宋(そう)代(10~13世紀)に隆盛した白磁の名窯。窯址(ようし)は河北省曲陽県澗磁(かんじ)村と燕山(えんざん)村にあり、開窯は晩唐代の9世紀であるが、文献に名高い邢州(けいしゅう)窯が近くの臨城県に発見されていて定窯の初期の作風と共通するところから、邢州窯の支窯として発祥した可能性もある。晩唐から五代(10世紀)にかけては、純白色の粘土にやや青みのある透明釉(ゆう)を施した、やや肉取りの厚い重厚な趣(おもむき)の名作を焼いて頭角を現し、華北第一の白磁の名窯の地位を確立した。その後北宋(ほくそう)王朝(960建国)のもとで11世紀初頭からは作風を北宋様式へと変え、クリーム色の典雅な釉色を完成させている。器形は薄手で、細密なスタンプ文様、フリーハンドで篦(へら)を駆使した流れるような文様を創案して、精緻(せいち)な浮彫り、刻花、印花文など北宋白磁の洗練の極致を築いた。ほかに黒釉磁(黒定)や白化粧陶、掻落(かきお)とし技法を用いたり金銀彩を焼き付けた加飾陶磁、わずかながら緑釉磁(緑定)も焼き、皿、鉢、水注、瓶、壺(つぼ)、人形などをつくった。女真軍の華北進攻(1125)後の金王朝下にも製陶が続けられたことが近年判明しており、作風は粗悪化しつつもかなり量産されたようだが、元代以後、14世紀には極度に衰退していった。

[矢部良明]

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百科事典マイペディア 「定窯」の意味・わかりやすい解説

定窯【ていよう】

中国,宋時代を代表する白磁窯。窯跡は河北省曲陽県澗磁村にある。唐末期に開かれ,北宋期に飛躍的に発展する。作品は焼成の際,伏せ焼きにするため薄作りに仕上がり,鋭く厳正な形をもつ。また素地は象牙白色を呈し,その器面には彫文様や,型押し文様のある物が多い。ほかに色釉を総掛けした黒定,紅定,紫定と呼ぶものもあり,またこれらに金彩を施した金花の定碗もこの窯の作品として知られる。
→関連項目鉅鹿

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「定窯」の意味・わかりやすい解説

定窯
ていよう
Ding-yao

中国,唐後期以来,河北省曲陽県澗磁村でおもに白磁を焼いた名窯。北宋代には官窯であった。白い素地にクリーム色がかった透明釉をかけたものと,型押しや浮彫など彫文を施して透明釉をかけたものとがある。また金彩を施したものは,金花定窯として特に珍重される。作品は気品に満ち,格調が高い。器形には鉢,皿,水差し,合子などがある。北宋末期に廃窯。

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世界大百科事典(旧版)内の定窯の言及

【白磁】より

…唐代後期,河北省臨城県の邢窯で硬質の白磁が焼造され,華南の越州窯青磁とならんで高い評価を受けたことが《茶経》などに記されている。五代・北宋時代は邢窯にかわって河北省曲陽県の定窯が白磁焼造の中心となり,薄胎で象牙のように白い器の白磁がつくられ,金・元代の名窯として活動をつづけた。明代には定窯は衰退し,山西省の霍県(かくけん)窯などでわずかに仿定器の白磁がつくられたにすぎない。…

※「定窯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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