家庭医学館 「小児ぜんそく」の解説
しょうにぜんそく【小児ぜんそく Childhood Asthma】
[どんな病気か]
[症状]
[原因]
[検査と診断]
◎ステロイド薬の吸入が効果的
[治療]
[予防]
[どんな病気か]
ぜんそくとは「慢性の炎症性気道疾患(きどうしっかん)」ということになっています。慢性の炎症があると、図「ぜんそくをおこしている気管支」のように気道、とくに気管支の内側にある粘膜が腫(は)れて粘液を多く分泌し、さらに気管支のまわりにある筋肉が縮んで気管支をしめつけるようになります。こうなると、気道が狭くなり、空気が通りにくくなるために喘鳴(ぜんめい)(ゼイゼイ、ヒューヒューという息の音)、息切れ、胸の圧迫感、せきの発作がおこります。発作は、早朝とか夜間にとくに強くなります。
再び気道が狭くなるのは一時的に治りますが、気管支が過敏になっているため、少しの刺激でも再び狭くなり、発作がおこります。
ぜんそくは世界中で増加している病気で、日本では、1986年に、ぜんそくにかかっている学童の割合は0.88%でしたが、1998年には2.3%と、2.6倍に増えています。
ぜんそくを発病する子どものうち、1歳までに発病するのは、その約30%ですが、4~5歳までに広げると80~90%になります。発病した子どもの50%は、10~20歳までに症状が消えますが、おとなになると再び現われることがあります。また、重症のぜんそくの子どもほど、おとなになっても治らない割合が増えます。
[症状]
軽い場合は、せき、息をするときのゼイゼイ音(喘鳴)、息が多少速くなる(生後2か月までは1分間に60回以上、1歳まで50回以上、5歳まで40回以上、以後は30回以上)のが、おもな症状です。
中等度になると、息がさらに速くなります。すわっている(坐位(ざい))ほうを好み、話をすると呼吸が困難なために、興奮してきます。乳児では泣き声が短くなり、授乳がむずかしくなります。
さらに病気が悪化すると、安静にしていても呼吸が困難になり、前かがみになり、ひとりではトイレや洗面に行けなくなります。顔色が青白くなるチアノーゼがみられます。乳児では、授乳ができなくなります。
ぜんそくの呼吸困難は、吸うときは比較的楽で、はくときが苦しいという特徴があるため、息を吸う時間より、はく時間のほうが長くなります。
[原因]
まだよくわかっていませんが、両親のどちらかがぜんそくの場合、その子どもの4人に1人が、両親ともにぜんそくの場合はその子どもの半数が、ぜんそくになるというデータがあります。遺伝子に規定されているという証拠も出てきていますし、遺伝的な素質が関係しています。
しかし、ぜんそくになる子どもの割合が増加していることは、遺伝的なものだけではなく、環境の悪化も関係していることを示しています。また、10歳までは、女児のほうが男児よりも患者数が多いという傾向もあります。
大気汚染、とくに窒素酸化物(ちっそさんかぶつ)(NOx)や二酸化硫黄(にさんかいおう)などが、ぜんそくに関係しているのではないかと考えられています。また、住宅の変化によって、ダニやカビが繁殖しやすくなったこともあります。そのほか、食生活の変化など、総合的な環境の悪化が、患者数を増やしていると考えられています。
ぜんそくの発病と関係するものとして、アレルゲン(アレルギー反応をひきおこす原因物質)があります。室内のアレルゲンには、ほこり、ダニ、ゴキブリ、ペット(ネコ)などの動物性のもの、カビ類などが、屋外のアレルゲンには花粉やカビなどがあります。ほかに食品添加物や薬などがあります。
子どもの場合、ぜんそくの症状(発作)をおこす引き金としてもっとも多いのはかぜなどのウイルス感染です。かぜの後、ゼイゼイという息が現われたときはぜんそくが疑われます。
そのほか、排気ガス、たばこの煙、花粉やカビなど空気中の刺激物、ダニ、カビやゴキブリ、ペットの毛やフケなどもあります。さらに、卵、大豆(だいず)、牛乳などの食品にアレルギーのある子どももいます。パラベンや亜硫酸化合物(ありゅうさんかごうぶつ)などの食品添加物もアレルゲンになります。アスピリンなどの薬剤で発作をおこしたり、運動や大きな呼吸を何回かすることでおこることもあります。
[検査と診断]
子どものぜんそくの診断はむずかしい場合があります。小さい子では、かぜの後、たんがのどの奥にたまって喘鳴のような音を出す場合が多く、少数ですが気道や肺に形態異常があって喘鳴に似た症状がみられる場合があるからです。
また、ぜんそく様(よう)(性(せい))気管支炎(きかんしえん)(コラム「ぜんそく様気管支炎」)は、ぜんそくの一部という考え方で診断されています。
気管支炎や肺炎でもそうですが、発作がごく軽い場合、聴診しても異常な呼吸音は聞こえにくく、大きな息をしたときに初めて聞ける場合があります。小さな子どもは聴診時に大きな息をしてくれない場合が多く、風車(かざぐるま)を吹かせるなどの工夫をしています。5~6分間走らせた後に診察すると、運動で誘発されるぜんそくも診断できます。
5歳を過ぎると、ピークフローメーター(「ぜんそくはもうこわくない―ぜんそくの正しい管理と治療」のぜんそくの自己管理について)などで肺のはたらきを調べることができるようになり、より正確な診断が可能となります。
[治療]
治療は、発作がおこったときの対処と、発作がおこらないようにする予防的治療の2つです。
発作の治療には、水分補給や酸素吸入など呼吸困難に対する一般的な治療と、発作に対する薬物治療とがあります。家庭では水分を十分にとらせます。
薬は、まず気管支を広げるβ2刺激薬を使います。吸入するのがもっともよいのですが、吸入できない場合は飲み薬もあります。ほかに、テオフィリンというカフェインに似た薬(飲み薬と注射があり、血中の濃度をはかりながら使用)や、乳児のかぜが引き金でおこる発作によく効く抗コリン薬を吸入したりします。重症の場合は、炎症をしずめる効果が大きい副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド)を短期に内服するか、注射する場合もあります。
家庭で、薬の吸入や内服をしても症状がよくならないときは、むりをせずに受診することが必要です。とくに思春期の子どもは親に症状を言わず、自分でなんとかしようとして、重症化したり、死亡する場合もあります。
[予防]
ぜんそくの発作の予防法が、たいへん進歩し、ほとんどの患者さんが発作を最小限に抑え、日常生活を送れるようになりました。その方法の中心は炎症を抑えることです。それらの方法はおとなのぜんそく(「ぜんそく(気管支ぜんそく)」)を参照していただき、ここでは子どもの問題について述べます。
炎症を抑えるにはステロイドの吸入がもっとも効果的です。子どもの場合、副作用として、成長が障害されるという問題がありますが、1日に200μg(マイクログラム)(1μgは100万分の1g)程度の低用量ならば何年か連続使用してもほとんど問題はありません。また、用量が多くても、漫然と長期に使うのでなければ、発作で日常生活にさまざまの制約を受けたり、胸郭(きょうかく)の変形、家族関係の悪化、入院などによる支障に比べれば、その副作用は小さいといえるでしょう。
ステロイドよりも効果は弱いのですが、副作用がほとんどないクロモグリク酸ナトリウム(商品名インタール)という吸入剤もあり、軽症や中等症の子どもには、まず使ってみる薬です。
この2つだけが、世界的に広く効果が認められている炎症を抑える薬です。抗アレルギー薬の飲み薬もありますが、その効果と副作用をはかりにかけると、まだ長期に使うのは勧められないというのが国際的な意見です。
5歳以下の子どもの場合は吸入がうまくできないことと、肺機能をピークフローメーターでうまくはかれないことが問題になります。吸入は、病院で使用しているネブライザー方式の吸入器を買って使えます。ただし、インタールやβ2刺激薬は使えますが、ステロイドは日本ではまだ使えません。
もう1つは、吸入補助器を使用する方法です。これはマスクと筒とでできており、筒の中に薬を噴霧して鼻と口をマスクでふさぐと、噴霧された薬が気管支に入っていくようになっています。これだとインタールもステロイドも吸入でき、副作用も減らせます。
効果は落ちますが、ビニール袋や紙コップを使っても同様にできます。5歳以上になれば、おとなと同じ構造の吸入補助器で効率よく吸入できます。運動で発作が出る子どもは運動前にインタールや気管支拡張薬の吸入をして、発作を予防します。
そのほかの予防としては、できるだけダニなどのアレルゲンを吸いこまないようにすることです。ダニに対する対策としては、じゅうたんをやめビニールか木の床にする、ふとん、カーテン、ぬいぐるみなどは定期的に乾燥するか55℃以上に加熱し、ポリエチレンシートで包んでおくなどがあります。
食物アレルゲンは、検査と食べたときの症状で予測します。家族の禁煙やアレルギーをおこすペットを飼わないことも必要です。
たいせつなことは、ぜんそくについての基本的な知識をもち、医師と親がよく連絡をとりあい、子どもがふつうと変わらない生活をおくれるように工夫していくことです。