尿失禁とその対策(読み)にょうしっきんとそのたいさく

家庭医学館 「尿失禁とその対策」の解説

にょうしっきんとそのたいさく【尿失禁とその対策】

 国際尿禁制学会では、尿失禁を「不随意に尿がもれる状態をいい、それが社会的、衛生的に問題となる状態であり、客観的に尿もれを認める状態」と定義しています。要するに、尿の排出がままならず、とくに抑制のきかない状態を尿失禁といいます。
◎尿失禁の種類と原因
腹圧性(緊張性)尿失禁
 せきくしゃみ、笑ったり重いものを持ち上げたときなど、おなかに力がかかったときに尿がもれるものです。中年女性の尿失禁でもっとも多いものです。その多くは、出産や老化、骨盤内(こつばんない)手術などで、骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)(骨盤内の膀胱(ぼうこう)、子宮、腟(ちつ)、尿道(にょうどう)、直腸などの臓器下方に落ちないように支えるとともに、尿道をしめるという重要な役割をはたす筋肉群)が弱くなることが原因です。その結果、尿道が腟のほうへ下がり、腹圧がかかって膀胱が押されると、しまりの悪くなった尿道から尿がもれるのです。
切迫性尿失禁(せっぱくせいにょうしっきん)
 突然激しい尿意を感じ、トイレまでがまんできず漏らしてしまうという、高齢者にもっとも多い尿失禁です。
 脳血管障害、脳動脈硬化症(のうどうみゃくこうかしょう)などで大脳の排尿中枢(はいにょうちゅうすう)が障害されている、前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)(「前立腺肥大症」)などで下部尿路に通過障害がある、膀胱炎前立腺炎などで尿路が刺激されるなどの原因によっておこります。
溢流性尿失禁(いつりゅうせいにょうしっきん)
 尿意を感じて排尿するということができず、尿が膀胱に充満し、少しずつあふれてくるものです。前立腺肥大症や尿道狭窄(にょうどうきょうさく)(「尿道狭窄」)などによる尿道の通過障害、神経因性膀胱(「神経因性膀胱」)などによる排尿筋の収縮不全などが原因となります。
■反射性尿失禁
 尿意がないのに、膀胱にある程度の尿がたまると反射的に膀胱が収縮して尿がもれるものです。脊髄損傷(せきずいそんしょう)や脳障害があるときにおこることがあります。
真性尿失禁
 尿道をとじる尿道括約筋がまったく機能しないため、尿が膀胱にたまらず、つねに尿道からもれるものです。前立腺の手術や外傷で尿道括約筋を傷つけたり、尿道括約筋を支配している神経が障害される二分脊椎(にぶんせきつい)や脊髄損傷などが原因でおこります。
■尿道外尿失禁
 尿道以外の場所から尿がもれる状態です。先天的形態異常として、尿管開口異常(「尿管開口異常」)や、尿道上裂(にょうどうじょうれつ)などがあります。後天的なものとしては、尿管腟瘻(にょうかんちつろう)(「膀胱腟瘻/尿管腟瘻」)、膀胱腟瘻(ぼうこうちつろう)(「膀胱腟瘻/尿管腟瘻」)などがあります。
■その他
 睡眠鎮静薬、利尿薬、抗うつ薬、向精神薬、パーキンソン病治療薬など、薬剤を用いたために尿失禁をおこしたり、いっそう悪くなったりすることがあります。
◎診断には問診が重要
●問診
 尿失禁の診断には問診が重要で、問診だけで判断できることが多いものです。いつから始まったか、腹圧に関係あるか、尿意はあるか、つねにもれているか、1日の排尿回数、1回の排尿量、排尿困難や排尿痛がないかなどを聞きます。また、既往歴として分娩(ぶんべん)回数、手術経験(とくに骨盤腔(こつばんくう)、脊髄、脳など)、神経系の病気(脳血管障害、糖尿病、脊髄の病気)にかかったことがあるか、さらに現在服用している薬の有無などを聞きます。
●検査
 尿検査、尿流動態検査、X線検査、超音波検査、内視鏡検査、尿失禁負荷テスト、尿失禁定量テストなどを行ないます。
◎治療はタイプで異なる
 腹圧性尿失禁 まず、弱くなった骨盤底筋を強くする一種の筋力トレーニングである骨盤底筋体操を行ないます。この体操を正しく行なえば、軽い尿失禁なら多くが改善されます。また、薬物療法も行なわれます。
 体操や薬物療法で効果がない、あるいは重い腹圧性尿失禁の場合は、手術を行ないます。方法はいろいろありますが、要するに尿道のしまりをよくする手術で、治癒率(ちゆりつ)は80~90%くらいです。
 切迫性尿失禁 尿失禁のなかで、もっとも薬物療法の効果があるタイプです。膀胱の活動を抑える抗コリン薬、カルシウム拮抗剤(きっこうざい)、三環系抗うつ薬などが用いられます。
 プログラムにしたがって排尿訓練をする行動療法もあります。この訓練は、尿意の切迫感や排尿反射を抑えることを体得させる方法です。その他、電気刺激療法、神経遮断法、手術があります。
 溢流性尿失禁 手術で尿の通過障害を取り除くなど、原因疾患の治療が第一です。その他、薬物療法、間欠的導尿法があります。
 反射性尿失禁 何度も、早めに排尿する訓練を行ないます。薬物療法や間欠的導尿法も行なわれます。
 真性尿失禁 尿道をなんらかの形で圧迫するか、せばめるような機能を形成する手術をして、尿失禁がおこらないようにします。
 尿道外尿失禁 生まれつきか、病気にかかった結果か、など原因を調べ、手術をしたり、尿を適当なところに導くカテーテル(チューブ)を設置するなどします。
◎どこに相談するか
 泌尿器科(ひにょうきか)のある病院、医院、診療所で、とくに泌尿器科専門医のいるところを受診し、相談するとよいでしょう。
●公的サービス
 排泄(はいせつ)に関する用具、用品には、公的給付や貸与が受けられるものがあります。便器、ポータブルトイレ、採尿器などは、重度身体障害者手帳をもっている人や、65歳以上の寝たきりの人に給付もしくは貸与されます。おむつの支給や貸与、あるいは紙おむつの購入費の助成は、寝たきりで失禁状態の高齢者に対して、一部の地方自治体で行なわれています。
 ホームヘルパーの派遣、訪問看護、ショートステイ、デイサービス、入浴サービスなどの援助制度もありますが、サービスの内容は地域によって異なります。相談窓口は、各市町村役場の福祉事務所や社会福祉協議会、保健婦、病院のケースワーカーなどです。
◎日常生活での失禁対策
●出産
 多産や難産の人は骨盤底筋群がゆるみやすく、腹圧性尿失禁がおこりやすくなります。出産後から骨盤底筋体操を始めると予防になります。
●肥満
 下腹部についた脂肪は膀胱を圧迫し、尿をためにくくします。そのため頻尿や切迫性尿失禁の原因になり、また、膀胱や子宮を押し下げ、腹圧性尿失禁の原因にもなります。食事に注意し、適度な運動などにより、肥満を防ぐようにしましょう。
●便秘
 便秘は膀胱を圧迫して尿をためにくくします。毎日の定時の排便が習慣になるように、水分を十分とり、繊維質の食事を多くとるようにしましょう。
●膀胱炎
 膀胱炎(「膀胱炎」)は切迫性尿失禁の原因になることがあります。膀胱炎の予防には、水分を十分にとり、下半身が冷えないように注意します。
●糖尿病
 糖尿病(「糖尿病」)は頻尿の原因になることがあります。糖尿病が進むと末梢(まっしょう)神経が障害され、溢流性尿失禁の原因になることがあります。カロリーのとりすぎに注意し、糖尿病の予防をこころがけましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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