山椒大夫

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

山椒大夫
さんしょうだゆう

森鴎外(おうがい)の短編小説。1915年(大正4)1月『中央公論』に発表。歴史小説の一つ。人買いにさらわれて丹後(たんご)の山椒大夫に売り渡された安寿(あんじゅ)は、同じ運命の弟厨子王(ずしおう)を逃がして、投身自殺する。やがて、丹後の国守となって戻った厨子王は、人身売買を禁じ、さらに佐渡に渡って、売られた母を探し出す。山荘太夫伝説に基づきつつ、残酷な部分や信心譚(たん)的部分は和らげ、姉の献身に重点を置いて、美しい物語に仕立てられている。古い倫理を詩情のうちに再生させた名品である。[磯貝英夫]
『『山椒大夫・高瀬舟 他四編』(岩波文庫)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

さんしょう‐だゆう サンセウダイフ【山椒大夫・三荘シャウ大夫・山荘シャウ大夫】

[1]
[一] (「大夫」は長者の意。「山椒」「三荘」については大夫が山椒を売って富を得たからとも、三つの山荘を持っていたからともいう) 丹後国(京都府)由良(ゆら)の長者の名。
※俳諧・天満千句(1676)九「御兄弟見捨てとちへ消る雪〈素玄〉 さんしゃう太夫が袖の山風〈武仙〉」
[二] 長者伝説の一つ。栄華を誇っていた(一)の長者が没落する話。陸奥国(青森県)の太守岩城判官正氏が、他人の虚言によって無実の罪をきせられ、筑紫国(九州)に流されたので、その子安寿姫厨子王が母と共に父を尋ねて越後国(新潟県)直江津まで来たが、人買いにだまされ、母は佐渡へ、安寿姫と厨子王は山椒大夫に売られてしまった。山椒大夫は強欲非道な男で、他の奴婢同様二人を酷使した。そのため安寿姫は厨子王を逃がし、自分は拷問にあって殺されてしまった。後、厨子王は都まで行き、朝廷に請うて、丹後、越後、佐渡を賜わり、再び、由良に行って山椒大夫をこらしめて仇をむくいたという内容。「さんしょう」には種々の字が当てられるが、柳田国男は、中世の被差別民である散所民をこの物語の語り手とし、散所の太夫と説いた。
[三] (一)の伝説を脚色した説経浄瑠璃。五説経の一つに数えられる程流行し、江戸初期に数種の正本が出た。
[四] (一)の伝説を脚色した浄瑠璃。文彌節にも「山枡太夫」、角太夫節に「都志王丸」があったが、紀海音作「山枡太夫恋慕湊(れんぼのみなと)」、竹田出雲作「山荘太夫五人嬢(むすめ)」、近松半二ら作「由良湊千軒長者(ゆらのみなとせんげんちょうじゃ)」などが名高い。
[五] (山椒大夫) 小説。森鴎外作。大正四年(一九一五)発表。説経節、浄瑠璃の形で伝承されていた山椒大夫伝説に基づく。安寿と厨子王の姉弟愛と、守り本尊による霊験を情感豊かに描く。
[2] ((一)(一)が奴婢を酷使したところから) 人遣いの荒い人。
※黄表紙・金々先生造化夢(1794)「やれ三介の、やれおさんの、やれ長松のと、やすくされるは、その身その身の拙き果報故と思ひ、いかなる三庄大夫も憐れみ使ふべき事なり」

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世界大百科事典内の山椒大夫の言及

【散所】より

… 散所が研究の対象として浮かび上がったのは大正期に入ってからで,被差別部落の起源・沿革を学問的に明らかにする必要性が当時の社会においてつよく求められだしたためである。その契機をなしたのは,1915年の森鷗外作《山椒大夫(さんしようだゆう)》であり,安寿(あんじゆ)と厨子王(ずしおう)の物語として古くから人々に親しまれてきた素材を用いたこの小説は,散所を主要な舞台としていた。また同年,民俗学者の柳田国男が《山荘太夫考(さんしようだゆうこう)》を発表して,散所の芸能民について述べたのも,歴史的関心をたかめる一助となったとみられる。…

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