山王神道(読み)さんのうしんとう

改訂新版 世界大百科事典 「山王神道」の意味・わかりやすい解説

山王神道 (さんのうしんとう)

山王とは近江日吉(ひよし)大社のこと。大宮(大比叡,本地釈迦如来),二宮(小比叡,本地薬師如来)を山王両明神,聖真子(本地阿弥陀如来)を加えて山王三所または三聖といい,さらに八王子(本地千手観音),客人(本地十一面観音),十禅師(本地地蔵菩薩),三宮(本地普賢菩薩)を加えて上七社となし,さらに本地垂迹(ほんじすいじやく)説によってしだいに数を増し中七社,下七社を加えて〈山王二十一社〉と称した。山王の号は《二十二社註式》に〈山王号之事,第五十二代嵯峨天皇弘仁十年,始崇敬之〉と見える。元来日吉(比叡)の大神は大山咋(おおやまくい)神が比叡山に鎮祀されたものであるが,延暦年中(782-806)僧最澄がこの地に延暦寺を創建するに及び別に大三輪神を山上にまつり大比叡神と称し,大山咋神は山下に移された。しかし大山咋神は元来比叡山の地主神(じぬしがみ)であったので天台宗徒は宗派の守護神と仰ぎ,唐の天台山の守神たる地主山王に擬し,この神を山王と称し天台神道の主神とした。

 山王神道の中心思想は山王の2字を天台宗の三諦円融観をもって説明するもので,三諦とは仮諦・空諦・中諦を指す。仮諦とは万法妙有,空諦とは諸法真空,中諦とは諸法実相非有非空を指し,円融観からすれば三諦は一つである(三諦即一)と説かれる。山王神道ではこれを山王2字に転用して,山の竪(たて)三画は三諦,横一画は即一をあらわし,王字では横三画は三諦,竪一画は即一をあらわす。山王の2字はともに三画にして一画の象で三諦即一を示すとする。これは一心三観,一念三千の天台教義を山王明神が託宣したものであると《三宝輔行記》に記され,《元亨釈書》《山家要略記》にも同じことが書かれている。以上が延暦寺を中心に発達した山王神道の概略であるが,この山王神道は智証大師円珍とその門流の僧徒の手によって発展充実し《山家要略記》《三宝住持集》などの伝書が作成された。

 山王一実神道とは天台宗の〈三諦即一〉または〈円頓一実戒〉にもとづいて形成された神道思想で,〈山王〉と〈一実〉の語を結合させ江戸時代の初期南光坊天海慈眼大師)によって提唱された。比叡山延暦寺が平安京鎮護の国家寺院として建立されたのに対し,天海は徳川幕府鎮護の寛永寺を江戸に建立し,幕府の開祖徳川家康の廟所日光廟をも天台神道によって建立,関東天台宗の基礎を固めた。この関東天台宗の神道が山王一実神道である。
山王信仰
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「山王神道」の意味・わかりやすい解説

山王神道
さんのうしんとう

神仏習合思想に基づいて発想し生じた中世の仏教神道(理論神道)の一つで、日吉山王権現(ひえさんのうごんげん)と天台教義の理論的な習合を説くものである。山王一実(さんのういちじつ)神道、一実神道、日吉神道または天台神道ともいう。論理の基本は、天台における三諦即一(さんたいそくいつ)の教理をもって、社寺双方の習合思想を解明しようとするもので、どの文献をみても今日からすれば牽強付会(けんきょうふかい)の思考傾向が強い。まずその基本は、山と王の2字を三諦即一で解釈することから始まる。すなわち、山は縦が3本に横が1本、王は横が3本に縦1本の字画から成り立っており、それは天台教義の三諦即一、一念三千の思想に通ずるとする。その思想はすでに鎌倉後期(14世紀ごろ)の文献『元亨釈書(げんこうしゃくしょ)』にみえそめるが、室町時代には山王二十一社あるいは山王百八社などを運心(うんじん)巡礼する天台の行門(ぎょうもん)的な思想と行動にも発展し、これを山王秘密社参とよんだ。中世までの基礎的な文献は叡山(えいざん)文庫の山王神道雑々二十三冊を基本とすべきである。1571年(元亀2)織田信長の延暦寺(えんりゃくじ)焼打ちののちは社頭の再建とともに祝部行丸(はふりべゆきまる)、行広(ゆきひろ)らによって復興されたが、近世に入ると天海(てんかい)はこの思想に基づいて独自の一実神道を提唱した。そして東照宮の祭儀はその思想に基づいて行われるようになり、東照大権現(だいごんげん)号宣下といったような政治的な権門行動にもつながるに至った。

[景山春樹]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「山王神道」の解説

山王神道
さんのうしんとう

山王一実(いちじつ)神道・天台神道・日吉(ひえ)神道とも。天台教学にもとづいて神仏習合を説いた神道。山の字が竪(じゅ)3本・横(おう)1本,王の字が竪1本・横3本であることから,天台の「三諦即一」の教えを表すとしてこの名がつけられた。三諦を神祇が統一し,地主神により天台教義との習合がはたされると説いて,日吉大社がその中核とされ,さらに山王二十一社が設定された。近世には行丸が記した「日吉社神道秘密記」を神道の基本においた。天海はこの教えが幕府鎮護に結びつくと主張,東叡山寛永寺や日枝神社を建立し,山王神道の儀により徳川家康の遺骸を改葬するなど,幕府からの加護をうけた。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の山王神道の言及

【神道】より

…日本では,平安時代に入って神仏習合がさかんになり,元来明確な神格を持たなかった神々も,仏・菩薩に対比して神としての性格を論じられるようになり,素朴な儀礼も荘厳なものに発展した。中でも密教の教説による習合がさかんになり,両部神道(りようぶしんとう)と呼ばれる神道説の流れが形成され,真言系の両部神道に対抗して,天台系の山王神道が唱えられたりした。律令制度のもとで手厚い保護を受けていた古来の神社は,中世に入るころから神領を侵され,仏教が庶民の間に浸透しはじめると,強い危機感を持つようになった。…

※「山王神道」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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