人間の日常の一瞬一瞬のかすかな心の動きに,三千の数で現された宇宙のいっさいのすがたが完全にそなわっているということ。天台宗の基本的な教説の一つ。智顗(ちぎ)の《摩訶止観(まかしかん)》五ノ上に〈此の三千は一念の心に在り,若(も)し心無くば已(や)みなん,介爾(けに)も心あらば即ち三千を具す〉とあるにもとづく。三千の数は,迷悟の十界が互いにそなわり合って百界となり,そのそれぞれが実相の十種(十如是)をそなえて千となり,さらにそれが衆生,国土,五陰の三世間にわたっているから三千となり,この三千で宇宙のいっさいの現象(諸法)を表現する。この三千が自己の心にそのままそなわっていると体得するのが,天台の止観の極致とされた。中国天台宗では宋代以来,一念の真・妄をめぐって争論があり,山家派はこれを陰妄の一念とし,山外派はこれを霊知の真念とした。日本天台宗では,山外派に同ずるものが多く,真念説が有力である。
執筆者:薗田 香融
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