山の端の稜線の向こう側に阿弥陀如来がその上半身をあらわす,という自然の景物と阿弥陀来迎(らいごう)の幻想が交錯する特殊な〈来迎図〉。代表作としては13世紀初めの禅林寺本(国宝),同後半の京都国立博物館本,14世紀前半の金戒光明寺本があり,現存作例はいずれも鎌倉時代以降のものである。その成立の背景には,古代以来の山岳に対する信仰があり,さらに山の端の稜線を此岸(穢土(えど))と彼岸(浄土)とを隔てるものとしてとらえる思想があった。禅林寺,金戒光明寺両本は,阿弥陀如来の印相を転法輪印にあらわし,その大きな光背が月を象徴するなど,密教の月輪(がちりん)観や観想念仏を胚胎する真言系浄土教思想の影響下に生まれたことを示す。
また京都国立博物館本は,来迎印の阿弥陀如来に奏楽の菩薩が従うなど,通常の来迎図に近い。このように〈山越阿弥陀図〉は鎌倉時代における〈来迎図〉とそれを生んだ思想の多様な展開を語るものである。
→浄土教美術
執筆者:須藤 弘敏
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