一般には,その年初めて登山者に山を解放することをいう。古来人々は山岳を神聖視し,神霊の宿る地としてあがめてきた。その背景には,山岳を神々との交流が可能な異郷と見,死霊のいる場とする山中他界観がある。山岳は,狩猟・焼畑耕作民の生活空間であったが,山麓で水稲農耕を営む住民にとっては,禁断不入の地とされていた。農耕民の場合,山岳を水分(みくまり)の霊地としてあがめることから,山神の分霊をまつる里宮ができ,山宮が成立し,神霊が里と山とを去来するという信仰が生まれてくる。後世に至り,修験者などが山岳修行の霊験を説くようになると,山に登ろうとしなかった麓の住民も,1年の限られた時期に山頂登拝を果たし,神霊や死霊との交流をするようになる。この不入の禁を解いて,その年に初めて登山を許すのが山開きで,近世にはこの日に信者や講中の人々が山に登って御来光を仰ぐ行事が盛んになった。江戸では,大山(おおやま)に初山と称して6月に登る慣行があったし,富士山の山開きの旧6月1日には,町の富士塚に参詣・登拝する習俗があった。また,修験の山である月山や大峰山では,山開きに堂を開く戸開(とあけ)式が行われ,ともに旧4月8日であった。この日は〈卯月八日〉で,大峰では冬ごもりして験力を身につけた晦日(みそか)山伏が山を下る日であり,一般には村人が山に登って依代(よりしろ)としての花を採り,山の神を田の神として村に迎える日である。修験の山の山開きは,民間信仰の基盤の上に成立した行事といえる。
執筆者:鈴木 正崇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
毎年日程を決めて一般人に登山を許すこと。日本の山は山岳信仰の盛んな所が多く、これらの山は昔は入峰修行(にゅうぶしゅぎょう)をする山伏や僧たちのみの世界で一般の人は立ち入ることのできない聖なる所とされ、無理に入れば天狗(てんぐ)に襲われるといわれていた。しかし江戸中期以降、各地に山岳信仰の講が結成され、山頂に祀(まつ)られている神を拝むための講中登山が行われるようになり、このために日数を決めて山を俗人に開放した。これが山開きで、初日をとくにお山開きとよび、信徒たちは山に登れることを祝った。最終日は山仕舞いとよび、山はまた僧侶(そうりょ)たちのみの世界となった。富士山は7月1日がお山開きであったが、現在はこれにあわせて登山が行われている。
[徳久球雄]
登山を解禁すること,またその儀式。山が神の降臨する聖地とされ,登山が山頂に祭る神祠を拝むなどの信仰行事であったころ,富士山・白山・立山などの霊山では平日の登拝(とうはい)を禁じ,夏の定めた日を限って禁を解いた。山岳ごとに決められた期日があり,登拝者は事前に数日間の水垢離(みずごり)をとった。現在はスポーツとしての登山の開始期を意味する。長野県南安曇郡では,共有山への入山の禁が解ける山の口明けのことを山開きとよんだ。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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