日本大百科全書(ニッポニカ)「袋物」の解説
袋物
ふくろもの
袋の形をした物入れの総称。品物を袋の中に収めたり、携行したり、保存、整理するのに用いられ、皮革、紙、布、合成繊維などでつくられている。袋物は人類の発生とともに発達し、その生活の変化によって、さまざまな変化を遂げている。袋物の形態は、わが国では古墳時代の人物埴輪(はにわ)のなかに、腰提げ物として登場してくるのがもっとも古く、おそらく発火器としての火打石の袋であろう。
袋物を用途別に大きく分けると、保存用の物としては、衣服類を入れる上刺(うわざし)袋と、宮中に仕えている人たちが宿直(とのい)をする際に用いた殿居(とのい)(宿直)袋、また食料を入れる餌(え)袋、楽器を入れる楽器袋、武器を収める太刀(たち)袋、あるいは茶道具を収める仕覆(しふく)がある。携行する袋には、巾着(きんちゃく)、火打袋、財布、紙入れ、たばこ入れ、胴乱、守り袋、匂(にお)い袋、香袋、背負い袋などが古くからあった。欧米文化が輸入されてからは、手提げ袋、買い物袋、ショルダー類が盛んに用いられることとなった。また懐中袋として発生した鼻紙袋が、のち三徳(さんとく)、箱迫(はこせこ)となり、また財布より使いやすい早道(はやみち)という銭入れが考案された。また守り袋は平安時代以来懸守(かけまもり)という首にかけて用いたものが、後世になると腰提げ物へと変わった。
これらの袋物には、皮革に始まって、布帛(ふはく)類、高級な織物類が材料として用いられた。皮革は鹿(しか)のなめし革が多い。高級織物は中国からもたらされた金襴(きんらん)、緞子(どんす)、錦(にしき)類の名物裂(めいぶつぎれ)、それを模して京都西陣でつくった織物、のちには羅紗(らしゃ)に吉祥模様を五彩の糸で刺したもの、あるいはアップリケにしたり、絽刺(ろざし)、佐賀錦などでもつくられた。明治以降、ワニ、トカゲ、ビーズ、スパングル、ミノムシの蓑(みの)、さらに人造絹糸、人造皮革など化学合成物も利用される。
また袋物の特色はその留具にある。古くから用いられたものは組紐(くみひも)で、その結び方にも、いろいろのくふうが凝らされた。皮革類の場合は、その特色があまりみられない。腰提げの場合は根付けが唐木や牙(げ)でつくられ、りっぱな工芸品となっている。また金、銀、赤銅(しゃくどう)、四分一(しぶいち)を使っての精緻(せいち)な作品、明治以降は口金(くちがね)に種々のくふうが行われ、わが国独自の落ち着いた、しっとりとしたものがつくられ、今日に至っている。これとは反対に、山村・農村・漁村の袋物は、身辺にある藁(わら)、樹皮、木綿、麻などの材料を使い、なかにはこれに刺し物を加えて、こぎん、菱刺(ひしざし)にしたり、ねじ袋仕立てにして用いた。
[遠藤 武]