賃金を支払う方式または形態。賃金の本質は〈労働力の価格〉であるが,現実には賃金は一定量の労働給付に支配される一定の金額として,つまり〈労働の価格〉として必ずその支払形態を伴っている。その形態には二つの基本形態がある。その一つは〈時間賃金〉と呼ばれるもので,時給,日給,週給,月給など,時間賃(金)率と労働時間数を支払基準とする賃金形態である。
もう一つは〈個数賃金〉と呼ばれるもので,出来高給,能率給,業績給など,個数賃率(単価)と出来高量を支払基準とする賃金形態である。この場合の時間賃率および個数賃率は(標準日賃率/標準労働日の時間数)または(標準日賃率/標準日出来高)によって算出され規定されるほかはない。賃金形態は自立的に規定されるものではなく標準日賃率と労働力の標準的な支出量という二つの要素によって規定され,また両者の関係として成立するのである。したがって,近代的な賃金形態が形成されるためには,その前提として,標準日賃率,およびそれに対応する標準労働日,標準日出来高という三つの要素が与えられてくることが必要であり,さらにこの三つの要素を,労使の間で労働条件の基本部分として交渉できるだけの力量を労働組合の機能として発揮することが必要である。標準労働日の制定を含めて,労使間の争点は,標準日賃率の水準と労働力の標準的な支出量をめぐる利害の対立の歴史であったといってよい。
賃金形態は,労働の態様によって時間給が適合的であったり能率給が適合的であったりするが,労働の態様そのものは生産技術の発展・高度化や労働組織の編成によって変化するものであるから,条件の変化に応じ,古い形態が新しい形態に席をゆずるという変遷をたえず繰り返してきた。したがって,どの産業にも共通する形態とか,資本主義のどの段階にも共通する形態とか,まして理想的な賃金形態というものはありえない。ただ企業経営者にとっては,一般的に労働者が労働給付量をできるだけ増大させなければ,標準賃率に見合う賃金収入を確保できないように,労働給付と賃率を結び付けることを理想としてきたし,一方労働者と労働組合は,労働給付量を制限し,賃金水準を引き上げ,労働給付と賃金収入の関係を労働者に有利に導くことを政策的理想としてきた。
たとえば,F.A.ハルシー,J.ローワンの時間割増制(ハルシー=ローワン・システム),テーラーの差別出来高制(〈科学的管理法〉の項参照),ガント=エマソンの賞与制(ガント・ボーナス・プランGantt bonus plan),ビドーの点数制など一連の近代的能率給の諸形態は,賃金収入が産出高=労働給付量にくらべて相対的にわずかしか増加しない方式(自動的な単価切下げ)か,種々の異なった産出高=労働給付水準に応じて収入が変化する方式(〈課業〉〈標準時間〉をてことした能率規制)の二つに分類されるが,いずれも資本の賃金支出に対応する労働者の労働給付が賃金コストの切下げに結びつくように設計されたものである。
このように近代的能率給は,企業経営が望ましい労働能率(標準作業量,標準作業時間)を確保し,それを労働者に強制するという機能をもっているが,労働能率は別の方式によっても十分に確保することができるようになる。職務ごとに作業量が明確になっている場合には,労働時間と標準作業量によって必要人員が決められ,それによって労働能率を十分に統制することができる。とくにコンベヤシステムや移動組立てライン導入によって,作業速度の規制が個々の労働者の手から放れてしまう場合には,労働能率の統制はスピードアップ,管理・監督の強化,昇進制度の運用によって十分に可能となる。職務分析による職務別定員の設定・運用と結びついた〈時間賃金〉としての職務給と昇進管理は,十分に能率刺激的な性格を備えている。
→賃金
執筆者:高橋 洸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
資本家が労働者に賃金を支払う形態。今日、多様な形態が存在するが、その基本形態は時間賃金(時間給)と出来高賃金(出来高給、個数賃金ともいう)の二つである。
労働力はかならず時間決めで売買されるので、賃金はまず時間賃金の形態をとる。出来高賃金も、時間賃金を基準にして生産物1個当りの単価が決められるから、時間賃金の転化形態ということができる。したがって、時間賃金がもっとも基本的な賃金形態である。時間賃金は、その単位となる時間によって、時給、日給、週給、月給などの諸形態に分かれる。時間賃金のもとでは、賃金は労働時間の長さによって決まる。標準的な労働時間より短ければそれだけ賃金は低くなり、長ければそれだけ賃金が増える。したがって、低位の時間賃金は、不可避的に、長時間労働を生み出す。
出来高賃金は、単価に出来高量を乗じたもので示される。能率給、業績給、請負賃金などはその具体的形態である。出来高給のもとでは、賃金収入を増やすためには標準的な出来高をあげなければならないから、資本家は、労働者を「自発的」に労働強化へ向かわせることができる。また、生産物の平均的な品質確保が賃金支払いの前提となるため、この賃金形態をとることで、監督なしに労働の質を制御することも可能となる。
この二つの基本形態を土台にして、より少ない労働コストでより多くの労働支出をもたらすさまざまな派生的形態がつくりだされ、その形態がより複雑化する傾向にある。おもなものとして、時間賃金の基礎上に割増賃金を組み合わせ、しかも割増率を自動的に逓減(ていげん)させたもの(ハルシー式、ローワン式)、標準的な作業量を設定し、それ以上の作業量にはより高い賃率を、逆の場合はより低い賃率を適用するもの(テーラー式、ガント式、エマーソン式)、平均労働者の労働強度に基づく点数制度(ビドー式)、査定によって「成果」を評価し、その「成果」に対して支払う成果主義などがあげられる。
[横山寿一]
『木下武男著『日本人の賃金』(1999・平凡社)』
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