自由に楽想を展開した作品、もしくは幻想的な内容をもつ作品で、「ファンタジア」「ファンタジー」の訳語。ただし18世紀以前は、厳格な対位法による器楽曲の名称であった。「ファンタジア」ということばは16世紀の初めから弦楽器のリュートやビウエラの曲集に現れ、17世紀の鍵盤(けんばん)曲では、主題の拡大や縮小などの高度な対位法を駆使した楽曲形式となる(フレスコバルディ、スウェーリンク)。同じころイギリスでは、ファンタジーは鍵盤楽器や器楽合奏のためのもっとも重要な形式と考えられていた(バード、ギボンズ、ブル、パーセル)。北ドイツ・オルガン楽派からは、対位法の伝統とプロテスタント精神を結び付けた長大な「コラール幻想曲」が生まれた(トゥンダー、ブクステフーデ)。J・S・バッハは、トッカータと同じ即興的な要素を用いたが、後にフーガを続けることが多い。
対位法から完全に離れた、拍子や小節線にとらわれない自由な楽曲としてのファンタジアの発展は、C・P・E・バッハとともに始まる。しかしその形式や内容は、ソナタと多少の関係を残すもの(ベートーベンの『ムーンライト・ソナタ』、シューベルトの『さすらい人幻想曲』)から、詩的情趣に満ちた作品(シューマンの『幻想小曲集』)まで多種多様である。とくにリストは、オペラやその他の曲の旋律に基づいて華やかな技巧を示す作品(『パガニーニの「鐘」による華麗な大幻想曲』など)を数多く残している。
[関根敏子]
ファンタジーの訳語で,作曲者が伝統的な形式にとらわれず,幻想のおもむくままに自由に作曲した作品をさす。内容は,国,時代によって複雑かつ多様であるが,三つの主要なタイプに大別される。(1)16~17世紀には,対位法的書法によるリュートや鍵盤楽器,器楽合奏のための作品の名称として,フーガの前身をなすリチェルカーレとほぼ同義に用いられた。(2)幻想性,即興性を強調した幻想曲本来の姿に密着した作品で,J.S.バッハの《半音階的幻想曲とフーガ,ニ短調》,モーツァルトの《幻想曲,ニ短調》,ベートーベンの《幻想曲,作品77》,シューマンの《幻想小曲集,作品12》,リストの《パガニーニの〈鐘〉による華麗な大幻想曲》など。(3)古典派以降のソナタの中で楽曲構成に著しい特色を有するもので,シューベルトの《さすらい人幻想曲》や,シューマンの《幻想曲,作品17》などがあげられる。
執筆者:正木 光江
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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