中華民国の初期に広東で4度樹立された反中央の地方政権,辛亥革命の指導者孫文と国民党が北洋軍閥に対抗して組織したものである。共和制の中華民国は,主権在民の〈臨時約法〉(憲法にあたる)と民選の国会をもったが,軍閥の袁世凱,張勲らはそれを破壊した。張勲の復辟失敗後,北京政府をにぎった段祺瑞がやはり約法と国会を回復しなかったので,孫文は〈護法〉(臨時約法擁護)の旗印をかかげて,彼と行動をともにした国会(非常国会)を法的基盤に広州で中華民国軍政府(第1次広東政府,1917年9月~20年10月)を組織し,大元帥に就任した。孫文は西南軍閥の武力にたより,西南軍閥は北洋に対抗するために孫文の名声と護法の正統性を利用したのである。しかし軍閥派が軍政府を総裁制に改組したため,孫文はそれに反対して1918年5月に大元帥を辞職,やがて広州を去った。主席総裁は岑春煊(しんしゆんけん),孫文も七総裁の一人に選ばれている。
安直戦争の結果,段祺瑞の政権が崩壊すると,20年10月,岑春煊らは軍政府解消を宣言した。そこで孫文は解消宣言を否認し,ふたたび広州に赴いて中華民国正式政府(第2次広東政府,1921年5月~22年6月)を組織し,非常大総統に就任した。こんどは広東軍閥陳炯明(ちんけいめい)にたよったのだが,陳炯明の反乱でまた上海にのがれた。西南軍閥が陳炯明を敗走させたあと,三たび広州にはいった孫文は,まえの大元帥職をつぐという形で広東大元帥府(第3次広東政府,1923年3月~25年6月)を組織した。このとき中央政府をおさえた直隷派が約法と国会を回復したため,孫文はもはや護法をかかげず,また軍閥にもたよることなく,国共合作にもとづく新しい革命を目ざしたのである。孫文死後,大元帥府は委員制の広州国民政府(第4次広東政府,1925年7月~26年12月)に改組されたが,汪兆銘を委員長とするこの政府は国民党右派を排除した連合政府だった。広東政府は香港海員スト(省港ストライキ)の支援に象徴されるような民主的側面をもち,広州を国民革命の根拠地とすることに成功した。
なお,南京政府に対抗した広東政府(1931年5~12月)は国民党内反蔣介石派が組織したものである。
執筆者:狭間 直樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国、辛亥(しんがい)革命後、北京(ペキン)に対して広東(広州(こうしゅう/コワンチョウ))を中心につくられた政府をいう。最初の広東政府は1917年9月、孫文(そんぶん/スンウェン)を大元帥としてつくられた軍政府で、これは正式の国会を復活することを主張した孫文派と西南軍閥との連立である。第二次は軍閥陳炯明(ちんけいめい/チェントンミン)との連立で21年5月に成立した孫文を大元帥とする軍政府。のち孫文は北伐の積極的展開を主張し、陳の部下のクーデターで倒された。第三次は23年に同じく孫文を大元帥としてできたが、これは24年1月の第一次国共合作を経て強大になり、25年7月には中華民国国民政府に改組され、27年武漢への遷都まで続いた。さらに31年反蒋介石(しょうかいせき/チヤンチエシー)派の汪兆銘(おうちょうめい/ワンチャオミン)らの組織したものと、49年の数か月、国民政府が解放軍に追われて南京(ナンキン)から広東に都したものがあるが、普通この二つは広東政府には含めない。
[加藤祐三]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…1924年10月に中国の広州でおこった商人の武装反乱。孫文の広東政府は,周辺を地方軍閥におさえられていたため,すべての財源を広州からの収奪に頼った。それに対する商人層の不満を列強や封建勢力が利用し,商人の武装自衛組織である商団(買弁陳廉伯が指導者)の力を背景に武装閉店ストを行ったのに対し,孫文は反革命としてそれを武力鎮圧した。…
… 国共合作の成立後1年あまりのちに孫文は没したが,その間に党勢は大いに発展し,国民党指導下の広東大元帥府大本営(軍政府の一種。1925年7月改組して広州国民政府,いわゆる広東政府となる)も強化された。五・三〇運動に端を発した省港ストライキが16ヵ月にわたって戦えたのも広東政府が存在すればこそであった。…
※「広東政府」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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