改訂新版 世界大百科事典 「廃水処理」の意味・わかりやすい解説
廃水処理 (はいすいしょり)
wastewater treatment
工場や事業所などから排出される廃(排)水中の有害物質や汚濁物質を除去する操作。公共水域の水質保全のために,工場や事業所から出される排水は〈水質汚濁防止法〉や都道府県条令などに定められた基準まで浄化して排水しなければならない。そのために廃水の種類や内容に応じて各種の処理法が開発されているが,大別すると,固液分離,物理化学的処理,生物学的処理,熱処理の四つとなる。
固液分離は,廃水中の浮遊物を分離回収することを目的としている。処理コストが安く運転管理も容易であることから,重力による沈降分離がもっとも広く利用されているが,浮遊物の沈降分離効率が沈殿槽の面積に依存するため,処理装置の敷地面積が制約されるところでは別の方法が必要になる場合もある。重力沈降とは逆に,浮上しやすい浮上物を水面に自然に集める方法,あるいは吹き込んだり減圧によって発生させた水中の微細気泡の上昇力を利用した強制浮上分離もあり,廃水中の油分分離や沈降しにくい活性汚泥の濃縮分離などに利用されている。浮遊物をより高度に除去するためには,ろ過が採用される。
物理化学的処理法は,さらに,中和・pH調整,酸化・還元,抽出,吸着,イオン交換,電気透析,逆浸透膜による処理などの内容に分けられる。中和・pH調整は,廃水に酸かアルカリを注入し,溶存しているガスを放出したり,金属塩を凝集沈降させたり,後に続く処理のために最適pHに調整したりするものである。酸化・還元には,薬剤を利用しての酸化(シアン廃水を塩素で処理して,炭酸ガスと窒素ガスに分解するなど)や還元(6価クロム廃水を硫酸第一鉄,亜硫酸ソーダで還元して毒性の弱い3価クロムにするなど)のほか,濃厚クロムめっき廃水や濃厚シアン廃水の電気分解による処理,オゾンや紫外線を利用しての酸化分解(廃水の脱色や殺菌など)なども行われている。抽出は,廃水中に存在する有用物質を溶媒を利用して回収するもの,吸着は,活性炭やゼオライトのような吸着材で廃水中の有機物質やアンモニアなどを処理する方法である。イオン交換は,廃水中のアンモニアなどの除去や,廃水を高度処理して再利用水として用いる場合のカルシウムイオン,ナトリウムイオン,塩素イオン,硫酸イオンの除去などに利用される。電気透析は,陽イオンと陰イオンの交換膜を利用して脱塩を行う方法で,膜を陰陽交互に多数配列し,両端に直流電圧を加えて廃水中の陽イオン,陰イオンをそれぞれの膜を通過して移動させ,脱塩水と濃縮液が一つおきの膜間に分離される。逆浸透膜による処理は,水を通過させる半透膜を利用して,水以外の不純物と水を分離するもので,主として廃水中の脱塩に利用され,浄化された水は再利用される。
生物学的処理法は,微生物を利用して廃水を処理する方法で,微生物と廃水が接触する形態から浮遊懸濁法と固着法とに分類される。前者の場合,活性汚泥法に見られるように,微生物と廃水が混合され,微生物が浮遊懸濁した状態で処理水と微生物が分離され,微生物は再度廃水処理に回される。後者の方法には,散水ろ床法,回転円板法,浸漬ろ床法や流動床法などがあり,いずれも微生物を付着させる固定した支持体があり,廃水だけが固着微生物の周囲を通過していく。ただし微生物が増殖すると固着した生物膜が剝離していくので沈殿池で除去する必要がある。生物学的処理法は,利用する微生物集団によっても分類されるが,アンモニアを酸化して硝化反応を進める硝化菌(好気性菌),これにより生成した亜硝酸,硝酸を有機物を利用して窒素ガスに還元する脱窒素菌(通性嫌気性菌)が活用されている。一般に有機物を好気的に酸化分解する微生物は,細菌,酵母,菌類など多種類で特定化できない。一方,嫌気性の微生物を用いる嫌気性処理では,有機物を低級脂肪酸にまで分解する酸生成菌と,生成した酢酸などや炭酸ガス,水素を利用してメタンを生成する菌が利用される。この処理法は,汚泥の消化や濃厚な有機性廃水処理に普及しているが,低濃度の有機性廃水にも適用されつつある。
熱処理は,放流先の環境条件がきびしい場合など,水を蒸発させて廃水を出さないために行われ,廃水処理から生成した汚泥の処理にも多く適用例がある。
→下水処理 →産業排水
執筆者:松井 三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報