大学事典 「建学の精神」の解説
建学の精神
けんがくのせいしん
大学は中世ヨーロッパにおける教師と学生の組合を起源とし,自然発生的なものであったが,13世紀には国王や都市の首長が目的を持って設置し,教皇や皇帝に認可を求めた。ナポリ大学(イタリア)は,皇帝に奉仕する官僚育成を目的とした。中世大学の衰退を経て,国民国家の成立とともに新しく大学が創設されると,その目的は創設の意図として明示されるようになり,ベルリン大学(ドイツ)はその典型である。近代日本においては,帝国大学が「国家ノ須要ニ応スル学術技芸ヲ教授」することを明確にした。私立高等教育機関は結社性が強く,キリスト教精神による人間育成(同志社・新島襄)など,創設者によって理念を闡明し,有志によって維持された。建学の精神に新たな脚光が当てられたのは,1990年代末に第三者による大学評価が示唆された時であり,多様な高等教育機関の評価のために重視された。現在,日本高等教育評価機構,短期大学基準協会は,建学の精神を評価の項目に入れている。
著者: 羽田貴史
[日本の私立大学]
私立大学(日本)では,創設者の学校設立の趣旨・理念が建学の精神として重んじられ,それに基づく方針により個性豊かで特色のある教育・研究が展開されてきた。国公立大学にも設立の目的・趣旨は存在するが,建学の精神というときは,通常,私立大学が念頭に置かれている。建学の精神に基づき長年にわたり醸成された学校の雰囲気や,教員・学生の気質等は,その学校の学風・校風として社会的に認知され,新たな入学希望者を惹き付けることになる。一方で,建学の精神とそれに基づく学則(日本)等を理由として学生の退学処分や教員の解雇が行われ,訴訟に発展した事例もある。
第2次世界大戦後は,大学の設置認可が国公私立大学のいずれも同一の大学設置基準に基づき行われるようになったうえ,進学率の上昇による高等教育の大衆化・マス化が大学の規模拡大や総合大学化につながり,各大学の個性が失われて建学の精神の希薄化が進んだとされる時期もあった。しかし,1980年代以降,18歳人口の減少と高等教育のユニバーサル化を前にして,臨時教育審議会答申にみられるように,大学の個性化・自由化を求める声が強まり,1991年(平成3)には大学設置基準の大綱化(日本)が大綱化され,各大学が特色あるカリキュラム編成や個性的な学部再編を行うことが可能となった。近年も,文部科学省から大学の機能別分化を促す方向性が示されている。各大学が社会における存在意義を問われている現在,私立大学それぞれのミッションや個性・特色の淵源として,建学の精神の意味をあらためて考える必要性が指摘されている。
著者: 寺倉憲一
参考文献: 天野郁夫「建学の精神を問う」『大学改革を問い直す』慶應義塾大学出版会,2013.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報