中国,道教教団の源流の一つとなった五斗米道(ごとべいどう)の開祖。張道陵ともよばれる。生没年不明。もとは沛国(はいこく)(江蘇省北部)の人であったが,130年から140年代のころ,蜀(四川省)の鵠鳴山(こくめいざん)で修行し,神々から啓示を受けて道書を作り,これを民衆に教えて信者から米5斗を出させたという。その教えは,孫の張魯(ちようろ)が漢中に五斗米道の政権を立てて大成した教法から考えれば,最初から病気の治癒を中心にしていたらしく,またそれが〈鬼道(きどう)〉とよばれたのは,神々との交感を重視したからであろうと思われる。張魯の政権が215年(建安20)に崩壊したのち,その教団は幾多の変容を経ながらも持続し,やがて張陵の後裔といわれる人物を代々〈天師〉に立てて,教団の中心とする伝統が定着した。これが道教の中で天師道または正一(しよういつ)教とよばれる教団で,元代のころから江西省竜虎山に本拠を置いて江南道教の中心となり,第2次世界大戦後は第63代の天師,張恩溥(ちようおんふ)が台湾に亡命して伝統を伝えた。
執筆者:川勝 義雄
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生没年不詳。中国、後漢(ごかん)末2世紀中ごろにおこった五斗米道(ごとべいどう)(天師道、のちに正一(しょういつ)教ともよばれる)の開祖。道教の「教祖」としても尊崇され、したがって、張道陵ともよばれる。もとは沛(はい)国(江蘇(こうそ)省北部)豊の人。のちに蜀(しょく)(四川(しせん)省)の鶴鳴(かくめい)山に移り、治病のための符(ふ)(お札(ふだ))や道書を広めて宗教教団(五斗米道)を組織した。道教の伝承によれば、張陵は天から天師の位を授けられ、「新出老君」(新たに世に現れた老子)という名を142年に下されている。天と人との間の仲介者という意味では、中国の「天子」や、モーセ、キリスト、ムハンマド(マホメット)などに匹敵するであろう。唐代から今日まで、正一教の本拠は江西省竜虎山(りゅうこざん)にあるが、中国革命後、道士は多く台湾に亡命した。そのため、台湾では今日でも張道陵崇拝が続いている。彼の像は青い面を有し、道士の衣冠を着け、悪魔に立ち向かう剣を持ち、ときには虎(とら)にまたがる姿になっている。
[アンナ・ザイデル 2018年5月21日]
生没年不詳
後漢の2世紀前半に蜀(しょく)(四川省成都平原)に入り,宗教集団を始めた指導者。信者は米5斗を供出したので,その集団を五斗米道(ごとべいどう)という。後漢後半の混乱期に,農民はこの集団に救いを求めた。黄巾(こうきん)の乱を起こした太平道の張角と対比される。死後は子の張衡(ちょうこう),孫の張魯(ちょうろ)へと受け継がれ,しだいに組織化され,漢中と巴(は)(四川省重慶周辺)の地方で30年近く勢力を持ったが,最後は曹操(そうそう)の軍に降った。
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…2世紀末から3世紀はじめに中国の四川省から陝西省南部に広まった宗教。創始者といわれる張陵が信者に米5斗を出させたので,この名が生まれたというが,彼ら自身では新出正一明(盟)威之道と称したらしい。張陵の孫の張魯がその教法を大成し,司教や司祭にあたる治頭や祭酒などの教団組織を固めて独立の宗教王国を樹立したが,215年(建安20),曹操の軍門に下った。…
…中国における道教の宗派の一つ。2世紀の後半,張陵によって創始され,その子の張衡,孫の張魯に継承された。その教法はおふだ(符籙),ざんげ(首過)による治病で,信者から五斗の米を供出させたため五斗米道(ごとべいどう)と呼ばれた。…
…〈吾れ(太上老君)故に来りて汝を観,汝に天師の位を授け,汝に雲中音誦新科の誡二十巻を賜う……汝は吾が新科を宣(の)べて道教を清め整え,三張の偽法の租米銭税および男女合気の術を除去せよ。大道は清虚にして豈に斯の事有らんや……〉というのが,その神勅の主文であるが,ここでは〈道教〉の語が明確に太上老君を大神とする中国土着の宗教をよぶ言葉として用いられており,しかもその道教は漢・魏の時代の張陵から孫の張魯に至る天師道(五斗米道(ごとべいどう))の教を清め整え,革新する宗教として強調されている。 《魏書》釈老志に載せる太上老君の神勅の中に見える〈道教〉の語は,たしかに後漢の天師道以来の中国伝統の宗教を呼ぶ言葉であったが,この道教をさらにインド成立の外来宗教である仏教と対立させて,外来すなわち〈夷〉の宗教に対する中国固有,すなわち〈夏(か)〉(中華)の宗教の独自性を強調しているのは,南朝(南斉)の道士顧歓(420‐483?)の書いた《夷夏論》である。…
※「張陵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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