中国、後漢(ごかん)末の農民反乱。後漢代後半、豪族の大土地所有の進展につれて、多数の農民が土地を失って没落した。また外戚(がいせき)、宦官(かんがん)、党人官僚三つどもえの政争によって中央政府の機能は低下し、洪水や干魃(かんばつ)や流行病がしきりに発生した。鉅鹿(きょろく)(河北省南部)の人張角(ちょうかく)は、黄帝(こうてい)信仰や道家(どうか)学説を含む初期道教の一派である太平道(たいへいどう)を創始して、大賢良師(たいけんりょうし)と自称した。教義による呪術(じゅじゅつ)と信徒本人の懺悔(ざんげ)、反省によって病気が治るという太平道の教えは、黄河下流域の多数の貧困と病気に苦しむ農民たちをその教団に組織することに成功した。たまたま後漢霊帝(れいてい)代の184年は、60年を1周期とする干支(かんし)の最初の年、すなわち甲子の年にあたっていた。「蒼天(そうてん)すでに死せり。黄天まさに立つべし。歳は甲子に在(あ)り。天下大吉」というスローガンを掲げた張角は、この年2月、目印として互いに黄色い頭巾を着用した30余万の信徒を率いて反乱を起こした。後漢政府が党人官僚への弾圧を中止して黄巾討伐に全力をあげたこと、張角が陣中において病死したことなどにより、反乱の主流は年内に平定されたが、その余党は10年以上にわたって各地に蜂起(ほうき)しては離合集散した。武力を伴った中央における政治抗争と、行政官や将軍たちの地方割拠と絡み合いながら、黄巾の余党の活動は後漢帝国の統一政府としての実質に重大な打撃を与えた。
[多田狷介]
『木村正雄著『中国古代農民叛乱の研究』(1979・東京大学出版会)』▽『福井重雅著『古代中国の反乱』(教育社歴史新書)』
中国,後漢(25-220)末の宗教反乱。黄色の頭巾をつけて目印にしたので黄巾huáng jīnとよばれた。後漢中期になると豪族が大土地所有を基盤に村落社会を支配,伝統的な村落秩序は崩壊する。天災と飢饉も頻発し,窮迫した農民は豪族に隷属し,あるいは流亡化して華北には膨大な没落農民・流民が発生した。時の政権は腐敗を極めて事態は悪化,これに抵抗した儒家・士大夫の運動も党錮の禁で挫折する。そのころ鉅鹿(河北省)の張角が〈太平道〉を創唱,罪のざんげによる療病と倫理的な生き方を説き,疫病の蔓延(まんえん)に苦しみ,村落社会から疎外された没落農民・流民を救済して,十数年間に数十万の信徒を得て各地に教団を組織した。184年(中平1)張角らは後漢王朝の滅亡と新たな社会〈黄天〉の樹立を叫んで一斉に蜂起,政府は党禁を解いて結束を固め,10ヵ月後に鎮圧した。だが黄巾余党や五斗米道の宗教反乱,一般の民衆反乱が続発,地方秩序は解体して群雄の割拠を招来,後漢王朝は滅亡する。
執筆者:都築 晶子
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後漢末の農民反乱。生活に苦しむ農民が迷信に走り,支配に反抗する風潮を利用して張角の唱える太平道が民心をとらえ,信徒は10年間で山東,河北を中心に,河南,長江岸まで数十万に達した。張角は信徒を軍隊に編成して,184年河北で政府打倒の兵を起こしたため大乱となった。衆徒は目印に黄巾を着けた(黄色は五行思想で漢朝の交替を示す)。政府は地方豪族の協力を得て同年末に中心勢力を鎮定したが,その後残党,与党の反乱が各地で起こり,中央政府の威信は失われ,討伐の諸将も各地に割拠して,後漢王朝滅亡の一因となった。
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…かくして後漢王朝がもはや農民の保護者たり得なくなったときに,農民の不満が爆発した。それが黄巾の乱であった。
[党錮と黄巾の乱]
後漢も和帝の時代を過ぎると早くも衰退の色が濃くなった。…
…大方は1万余人,小方は6000~7000人を数えたこの組織を中心として,王朝末期の窮乏農民は,184年いっせいに蜂起した。すなわち〈黄巾(こうきん)の乱〉である。張角は天公将軍と称し,弟の地公将軍張宝,人公将軍張梁とともに反乱の指導者となった。…
※「黄巾の乱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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