中国,後漢末に蜂起した黄巾(こうきん)の乱の首領で,道教の源流の一つ〈太平道〉の唱導者。鉅鹿(きよろく)(河北省中部)の人。その教法は五斗米道(ごとべいどう)と似て,病気の治癒を中心とした。張角は大賢良師または大賢と自称し,また黄天泰平あるいは大医にして善道を事とす,とも称して,弟子を四方に派遣し,治病に従事させた。各地で師とよばれたこれらの弟子は病人に罪を反省させて神前に懺悔告白させ,おふだと霊水を飲ませて神の許しを請うための祈りを唱える。それで病気が治るとされたが,この発想は,万人を照覧する神の前で個人個人が善行を積み,それによって神の賞福と救済を得ようという考え方からくる。169年(建寧2)の党錮(とうこ)の禁以後,後漢帝国では古い農村共同体の秩序が急速に崩壊し,寄るべない流民の数は激増していた。張角とその弟子たちが,個人救済と公平な新しい宗教的・政治的共同体建設を示す太平道の宣伝に努めた結果,十数年にして数十万の信徒を獲得し,これを36方(方は1万ないし6000~7000人から成る軍管区=司教区で,師が統率する)に組織した。張角は天公将軍と自称し,2人の弟は地公将軍と人公将軍と称して36方の頂点に立ち,60年周期の改まる甲子の年,184年2月,〈蒼天すでに死す,黄天まさに立つべし〉という漢帝国打倒の明確なスローガンのもとに黄色の頭巾をつけて一斉に蜂起した。しかし同年11月には皇甫嵩(こうほすう)(?-195)らの率いる帝国軍隊に主力を撃滅され,張角もその間に病死して,乱は一応鎮圧されたが,各地の残党は頑強に抵抗し,結局,後漢帝国崩壊の直接原因となった。
執筆者:川勝 義雄
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中国、後漢霊帝(ごかんれいてい)(在位168~189)の世、太平道を唱え、黄巾(こうきん)の乱を起こした宗教家。鉅鹿(きょろく)(河北省)の人。干吉(かんきつ)神人から授けられたと称する太平清領(せいりょう)書(いまの太平経の原本)の説に接し、黄老道(善道)を奉ずる大賢良師(大医)と自称し、符水呪文(ふすいじゅもん)により治病できるといい多数の信者を得た。十余年間、華北大平野など8州で数十万の衆を集め大小の「方」に編成、渠帥(きょすい)の下で軍隊化した。悪政・災害に苦しむ農民や一部宦官(かんがん)・官吏の支持で、184年(光和7)甲子(かっし)の年、新しい世がくると宣伝し決起を謀った。事件発覚し、信徒に黄色の頭巾(ずきん)を着けさせ(黄巾)、自ら天公将軍と称し、地公・人公将軍と称する二弟と指揮したが、同年陣中で病死した。彼は後世の道教教団においては尊ばれないが、宗教反乱の結社員にはひそかに崇敬され、劉天翁(りゅうてんおう)にかわった天翁張堅とか張天帝と称せられた形跡がみられる。
[宮川尚志 2018年6月19日]
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?~184
後漢末の黄巾(こうきん)の乱の首領。鉅鹿(きょろく)(河北)藁城(こうじょう)県の人。太平道を創始し,大賢良師と自称して農民層から信徒を集めた。184年反乱を起こしたが,曹操(そうそう)らに攻め殺された。
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…黄巾の乱はその最大規模のものである。黄巾というのは蜂起に参加した人が黄色の布で頭を包んだところからよばれた名で,その母体は鉅鹿(きよろく)(河北省)の張角がはじめた太平道という。後にはこれが道教に発展する新興宗教の教団であった。…
…時の政権は腐敗を極めて事態は悪化,これに抵抗した儒家・士大夫の運動も党錮の禁で挫折する。そのころ鉅鹿(河北省)の張角が〈太平道〉を創唱,罪のざんげによる療病と倫理的な生き方を説き,疫病の蔓延(まんえん)に苦しみ,村落社会から疎外された没落農民・流民を救済して,十数年間に数十万の信徒を得て各地に教団を組織した。184年(中平1)張角らは後漢王朝の滅亡と新たな社会〈黄天〉の樹立を叫んで一斉に蜂起,政府は党禁を解いて結束を固め,10ヵ月後に鎮圧した。…
…2世紀後半,後漢代に鉅鹿(きよろく)郡(河北省南部)の張角によって組織された中国最初の道教教団。西方の巴蜀および漢中の地域に発展した五斗米道(ごとべいどう)とほぼ時期を同じくする。…
※「張角」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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