改訂新版 世界大百科事典 「当事者尋問」の意味・わかりやすい解説
当事者尋問 (とうじしゃじんもん)
民事訴訟において,当事者本人またはその法定代理人を証拠方法の一種として見聞事実について尋問し,その供述を証拠資料とする証拠調べをいう(民事訴訟法207条以下)。これは当事者を意識的に取調べの客体とする点で,裁判所の釈明処分(釈明権)として出頭を命じられた当事者が訴訟関係を明瞭にするため訴訟の主体として陳述をする(151条1項)場合とは異なる。もっとも,裁判所の釈明処分として出頭した当事者の陳述等も〈弁論の全趣旨〉として証拠資料となることはある(247条)。当事者尋問は,他の証拠調べで心証を得られない場合にかぎって行うことができる補充的なものであった(旧民事訴訟法336条参照)が,1998年施行の新民事訴訟法207条は補充性を排除した。当事者尋問の補充性については,各国の立法例も分かれており,論議がある。利害関係の最も強い当事者に供述をしいるのは酷であり,その供述の価値も証人等と比べて低いことなどに,補充性のおもな根拠がある。これには,当事者の特質を生かすにはさきに尋問して事案の全体像を明らかにしたほうが合目的的であるとの批判がある。なお,職権探知主義のもとでは,証拠調べの順序は裁判所の裁量にゆだねることとし,とくに制限をおいていない(人事訴訟手続法12条等)。
当事者尋問の手続については,証人尋問の規定がおおむね適用になる(民事訴訟法210条)。しかし,当事者の主体的地位などを考慮して若干の特則がある。当事者尋問は(申立てによる場合だけでなく)職権でも実施することができ(207条),当事者は出頭を拒んでも制裁を受けたり勾引されることはなく,単に尋問事項に関する相手方の主張を真実であると認定されるおそれがあるにとどまる(208条)。宣誓を命じるか否かは裁判所の裁量にかかり(207条1項後段),宣誓のうえ虚偽の陳述をした場合にも,過料の制裁があるだけで,偽証罪で処罰されることはない(209条)。なお,刑事訴訟法は,旧法で認めていた被告人尋問を廃止している。
執筆者:小島 武司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報