江戸幕府の職名。1716年(享保1)徳川吉宗の8代将軍襲職のとき,紀州家から薬込役16人と馬口之者1人を幕府にともない,彼らを〈御庭番家筋〉と定めて隠密御用に用いたのがはじまりである。のち分家が生じて26家となり,その後22家となって幕末にいたった。御目見(おめみえ)以上に両番格御庭番(役高200俵)・小十人格御庭番(役高100俵持扶持),御目見以下に添番御庭番(役高100俵)・添番並御庭番(役高50俵持扶持)・休息御庭締戸番(役高50俵)・伊賀御庭番(役高不明)があった。御目見以上は御広敷用人,御目見以下は御広敷番頭の支配に所属した。ふだんは奥之番の指図のもとで,昼間は大奥の御広敷に詰めて雑役(文字どおりの庭番など)に服し,夜間は本丸天主台下の御庭御番所に宿直して非常の警戒にあたった。ときには将軍や御側御用取次の指図のもとで,隠密裏に遠国御用や地廻り(江戸)御用を務め,あるいは老中以下諸役人の風聞や世間の雑説などの情報収集にあたった。日比谷門外をはじめ虎の門・雉子橋門にも御用屋敷があった。また御庭番は表向き御広敷役人の身分であったので,そこからさまざまな役職に転出・昇進した。
執筆者:北原 章男
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江戸幕府の役職の一つ。8代将軍徳川吉宗(よしむね)の創設。若年寄支配。1716年(享保1)吉宗が紀州から連れてきた家臣のうち、村垣左太夫ら17人を御広敷伊賀者(おひろしきいがもの)に任命して、大奥の動向を探らせたのに始まる。19年これを改編して御庭番とし、番所を本丸天守台下に設け、また二の丸御休息(ごきゅうそく)、西の丸山里門に詰所を分置し、毎夕交替で宿直して各御殿の門庭の警備にあたることを日常の任務とし、また将軍直属の諜報(ちょうほう)機関として、ときに将軍の御直御用(おんじきごよう)、または御用取次、老中の内命を受けて、大名の動静や民政の実情などの探索にあたった。職掌上、17家の世襲とされたが、なかには絶家したもの、二男、三男で分家に取り立てられたものなどがあり、年代により家数、人員に増減がみられる。また御目見(おめみえ)以上の両番格(200俵高)、同以下の小十人(こじゅうにん)格(100俵高、持扶持(もちぶち))、添番並(そえばんなみ)(50俵高、持扶持)、御庭之者支配(役扶持七人扶持)などの階層があり、なかには梶野土佐守(かじのとさのかみ)、明楽飛騨守(ひだのかみ)、村垣淡路守(むらがきあわじのかみ)(定行)のように勘定奉行に昇進した者もある。
[渡邉一郎]
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…江戸時代に入ると,幕府,諸藩は隠密を用いて諸方面にわたる情報収集につとめたが,彼らはいずれも軽い身分の者であった。幕府には目付の指揮下に徒(かち)目付,小人(こびと)目付があって表裏の活動をし,また将軍以下老中,若年寄,側衆,大目付,目付などの命をうけて探索に従事した者に御庭番があった。このほかにも,江戸の町奉行配下には隠密廻りと称する同心があって,市中の動静を探索した。…
…それは一種の直訴(じきそ)制度で,奉行人,代官などを経ずに,直接,裁判権者(将軍,大名など)に訴える点に特徴があり,1458年(長禄2),〈無縁の仁に於ては庭中すべきの由〉ともいわれている。室町時代,天皇家,将軍家に直属して作庭,造園に携わり〈禁裏御庭者(庭者)〉〈仙洞御庭者〉〈公方御庭者〉といわれた河原者,江戸時代,将軍直属の密偵,隠密で,幕府の諸機関を通さず,後庭から出入りして直接将軍の命をうけた御庭番(おにわばん)のあり方も,こうした庭の特質と関係がある。 現在でも農作業を行う平らな場としての〈庭〉は,広く民俗語彙の中に残っており,脱穀,調整をする家の外の仕事場,家の中の土間を庭というが,なかには共同作業を行う組織そのものを意味している場合もある。…
…室町時代に活躍した河原者(かわらもの)の別称の一つ。また,江戸時代には徳川将軍家に仕え,白衣で江戸城の奥庭の清掃や将軍の身の警備に従事するとともに,秘密情報の収集・提供を行った〈御休息御庭之者(ごきゆうそくおにわのもの)〉(ふつうには庭番(にわばん),御庭番(おにわばん)といった)のことをさし,さらには〈猿楽師(能役者)〉に対する軽侮の念のこもった言葉として使われた語。別にまた,江戸時代に各地の農家に代々隷従奉仕した貧農をさす〈庭子(にわこ)〉の語とも同義に用いられた場合がある。…
※「御庭番」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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