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心中物 しんじゅうもの

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

心中物
しんじゅうもの

歌舞伎劇,人形劇浄瑠璃,その他三味線音楽の曲の分類用語。現実に起った情死事件を題材として脚色された作品の総称。天和3 (1683) 年に大坂で起きた遊女大和屋市之丞とごせの長右衛門との心中事件を,同地の嵐三右衛門座で歌舞伎劇に脚色上演したのが最初の作品。人形劇では,元禄 16 (1703) 年大坂竹本座の近松門左衛門作『曾根崎心中』の大当り以来大いに流行した。劇的構成としては,情死にいたるまでの経過,すなわち,いわゆる義理と人情の板ばさみによって主人公が情死に追込まれるありさまを描き,最後に男女2人が情死に向う場面「道行場 (みちゆきば) 」で終るのが普通である。道行の結果としての心中そのものは必ずしも描かれない。特に,心中物の流行のために現実の心中が誘発されるようになったため,享保7 (22) 年心中物禁止令が出されたのちは,その禁令に触れることを避けて,土壇場で事件が解決して主人公男女が助かるという型が圧倒的に多くなり,人形浄瑠璃では新素材を求めたため,かえって『菅原伝授手習鑑』 (46) ,『仮名手本忠臣蔵』 (48) 以下の名作を生む結果となった。道行場は舞踊劇の形式で,義太夫節を用いる人形劇は別として,歌舞伎劇では豊後系の浄瑠璃 (常磐津,富本,清元) を用いるのが原則 (まれに長唄を用いたものもある) であった。これらの道行場の浄瑠璃は,それぞれの流派の浄瑠璃の曲として独立して伝承される。同一の事件を原拠とする作品が,人形劇と歌舞伎劇の間で,あるいは歌舞伎劇のなかでも浄瑠璃を変えて,先行作品の書替えとして繰返し再脚色され,また,歌舞伎と関係なく他の浄瑠璃や三味線音楽に移曲されるなどして,数多くの系統の心中物の曲ができた。それらは,本名題はそれぞれ独自であるが,通称としては,多くの場合男女2人の主人公の名前で呼ばれる。代表的作品『曾根崎心中』『三勝半七』 (→三勝物 ) ,『小春治兵衛』 (→紙治物 ) ,『お半長右衛門』 (宮薗節,義太夫節,常磐津節,清元節) ,『小いな半兵衛』 (義太夫節,富本節,常磐津節) ,『お染久松』 (義太夫節,常磐津節,富本節) ,『お房徳兵衛』 (義太夫節,常磐津節) ,『お園六三』 (義太夫節,常磐津節) ,『浦里時次郎』 (新内節,清元節,常磐津節) 。

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デジタル大辞泉の解説

しんじゅう‐もの〔シンヂユウ‐〕【心中物】

浄瑠璃歌舞伎歌謡などの一系統で、心中を題材としたもの。天和3年(1683)に大坂であった情死事件を歌舞伎化したのが最初とされる。以後、幕末まで多くの作品が作られた。

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世界大百科事典 第2版の解説

しんじゅうもの【心中物】

人形浄瑠璃,歌舞伎,歌謡などで心中(情死)を題材とした作品の一系統。心中を舞台化することは歌舞伎が早く,1683年(天和3),大坂の生玉で新町の遊女大和屋市之丞と呉服屋の御所(ごせ)の長右衛門が心中をとげた事件をすぐに大坂の嵐,荒木,大和屋の3座で舞台化,競演したのが最初とされている。以後,歌舞伎では,すくなくとも15種以上の心中物が,元禄時代(1688‐1704)に上方を中心に上演されている。これらの心中事件は同時に歌謡にもうたわれ,《松の葉》(1703),《松の落葉》(1710)などに収められている。

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大辞林 第三版の解説

しんじゅうもの【心中物】

情死を主題にした浄瑠璃・歌舞伎狂言。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

心中物
しんじゅうもの

浄瑠璃(じょうるり)・歌舞伎(かぶき)脚本の題材上の一大系統。世話物のなかで、心中、すなわち男女の情死事件に取材した作品をいう。1683年(天和3)5月17日、大坂の生玉(いくたま)で新町の遊女大和屋市之丞(やまとやいちのじょう)と呉服屋の御所(ごせ)の長右衛門が心中を遂げた事件を、大坂の嵐(あらし)三右衛門、荒木与次兵衛、大和屋甚兵衛の3座で脚色競演したのが最初とされる。以後、情死事件のたびに歌舞伎で脚色、歌謡にも歌われたが、人形浄瑠璃では1703年(元禄16)5月、竹本座で、お初徳兵衛の心中を扱った近松門左衛門の『曽根崎(そねざき)心中』が大好評を博して以来、大いに流行した。浄瑠璃から歌舞伎に書き換えられた作品も多く生まれたが、こうした流行は情死賛美の思想を誘う傾向もあり、享保(きょうほう)期(1716~36)には幕府が一時心中物の禁止令を発したため、のちには主人公が情死のまぎわに救われるという筋がつくられた。豊後節(ぶんごぶし)が流行してからは、その好題材になり、ことに新内(しんない)節には多く取り上げられた。歌舞伎の世話物には、情死に向かう最後の場を「道行(みちゆき)」として、浄瑠璃を使った舞踊劇に仕立てた脚本も多い。演劇・音曲を通じ心中物の題材で有名なのは、「お染久松」「小春治兵衛」「お千代半兵衛」「三勝半七(さんかつはんしち)」「お花半七」「お園六三(ろくさ)」「お半長右衛門」「浦里時次郎」など。一般に心中物の流行は、封建制度下の男女が社会の制約を死によって破り愛を貫くという構成に、当時の民衆が共感したからと考えられる。[松井俊諭]

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