改訂新版 世界大百科事典 「忌火」の意味・わかりやすい解説
忌(斎)火 (いみび)
〈いむび〉ともいう。新しく火鑽(ひきり)できった神聖な清い火。神事では,斎戒した神職が新しくきった火を神饌の煮炊きや照明などに用いる。伊勢神宮では,忌火屋殿で山ビワとヒノキの火鑽臼と杵を摩擦させておこした火で神饌が調理される。また平安時代に朝廷では忌火御膳といって忌火で炊いた飯が内膳司から6,11,12月朔日の早朝に天皇に献じられる儀式があったが,これは神今食(じんこんじき)や新嘗祭を前にして天皇が潔斎に入るための式であった。民間では,大晦日に斎火祭,鑽火祭などといって神前で火鑽できった清い火で祭典を行う所がある。京都八坂神社の白朮(おけら)参りではその火を参詣者がもらって帰り元旦の火にする。新年を迎えるに当たって火を改める風習は神社の祭礼ばかりでなく家々の年中行事としても行われる。別火や合火の風習にみられるように火はけがれやすいために慎重に取り扱われた。新しい火は新たな時間や秩序の創出とみられたから,不浄を払う際にも清い火を用いる風習がある。また出羽,羽黒山の荒沢寺,比叡山延暦寺の根本中堂などのように神聖な火を何百年もたきつづけている例もみられ,民間の風習の中にも大晦日に新しく火をきりなおす所と,火を絶やさずたきつづける所とがみられる。
執筆者:飯島 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報