地理学の知識と技術または理論と方法を,さまざまな社会経済的な諸問題の解決に応用しようとする学問の総称。各系統地理学における理論と方法の分野別応用をはかる部門,たとえば応用地形学,応用経済地理学などと,地域開発や都市計画,あるいは地域情報の収集と解析など,いわば地誌的知識と地図的技術の総合的応用部門とに二分され,狭義の応用地理学は後者をさす。行政的実務や工学的技術の観点から進められる地域開発,都市計画に対して,地域の自然および社会環境の総合的把握を基礎とした評価,批判を行い,整合性のある計画を提言する。その限りにおいて前述の系統地理学の応用部門も加えられる。
応用地理学の発想は第2次大戦後で,イギリスの土地利用計画を作ったL.D.スタンプ,フランス左翼の地方分権と地域計画政策を起案したフリッポノーM.Phlipponneauが,それぞれ1960年に《応用地理学》を公刊している。欧米の大学では〈地理学・地域計画学科〉で応用地理学を学ぶ例が多く,地域開発,都市計画の人文・社会科学的,非工学的側面を担当し,教育界以外には特に地域計画機関への人材供給が多い。一部の国では軍事・外交上の情報担当官の養成もみられる。日本では応用地理学の講座の設置されている大学はなく,遅れている。
執筆者:田辺 裕
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
地理学の一分科。地理学の応用的分野が成長して独立したもので、理論的研究を目標とする地理学に対し、社会の改善や環境の適正な利用などに、地理学的な見解を樹立することを目的としている。地理は人類の歴史の初期から、衣食住、交通などの必要にこたえ、古代より戸口(ここう)・産物の調査、地図作製、土地開発などが始まって、民生の充実や統治などに役だってきた。近代地理学の発達に伴って、地理学の思考と方法は広く各方面に応用されるようになった。応用地理学が独立したのは第二次世界大戦後で、研究分野は産業立地、資源開発、環境整備、都市計画、交通計画、人口問題、食糧問題、地域開発など多岐にわたるほか、災害防止、行政区画、国境問題、海洋の利用などについても役だっている。
公的事業においてはもとより私企業においても、商圏調査などは、事業所の立地を決める重要な資料となっている。地理学が提供する情報は、地域的変化を詳しく示すのみでなく、総合的観察を行って初めて正しい科学的判断に近づくことができる。とくに応用地理学は国土計画に主要な役割を演じている。なかでも1930年代には、アメリカでTVAの総合地域開発が始められ、スタンプ(イギリス)による土地利用調査、ルール地方の空間(地域)整備、ソ連の地域計画などに成果をあげた。わが国においても、土地利用、水資源、災害予防の基礎調査や、中央および地方の開発計画に応用地理学者が活躍している。
[木内信藏]
『朝倉地理学講座編集委員会編『応用地理学』(1969・朝倉書店)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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