改訂新版 世界大百科事典 「農村計画」の意味・わかりやすい解説
農村計画 (のうそんけいかく)
一定の農村地域の住民の所得と生活の安定的向上を目標として,地域の社会経済的・物的諸条件の改善・整備を図る計画をいう。農村計画の内容は大きく分けて,農林業を中心とし商工業などを含めた産業振興のための経済計画,集落その他の社会組織のあり方についての社会計画,生産関連および生活関連の物的諸施設(生産,交通,教育,文化,福利厚生などの公共施設と集落の住宅など)の整備計画,そしてこれらの計画を一定の地域空間に配置する空間計画(土地利用計画)の四つがある。農村計画には,開墾や干拓などによって新たに集落を計画的につくる新農村建設計画の場合と,既存農村を改善する農村再開発計画の二つがある。前者はアメリカ新大陸の開拓,オランダの浅海干拓などにおける農村建設が有名であり,日本でも古くは古代の条里制度,あるいは近世の新田村落などがあり,第2次大戦後では八郎潟干拓による水田農村,北海道根釧(こんせん)原野開発による酪農村の建設などが著名である。一方,計画的再開発は諸外国でもかなり古くから行われており,旧西ドイツをはじめとして近年ますます展開してきているが,日本でも近世末期の二宮尊徳や大原幽学による村づくり,明治期の町村是(町村計画),昭和初期の農村経済更生計画などの歴史があり,第2次大戦後は新農山漁村建設計画,農業構造改善事業計画,山村振興計画,農村総合整備計画など種々の計画がなされてきている。
第2次大戦前の日本の農村再開発計画は,主として自主的な社会経済計画(自力更生計画)が中心であったが,戦後とくに高度経済成長期以後は,農業と農村の急激な変貌に対応した生産および生活関連施設への大幅な公共投資が行われてきたため,物的計画や空間計画の比率が高まっている。現在の日本の農村は過疎化,混住化(農家と非農家の混在),都市化,高齢化などといった深刻な問題を抱え,都市計画とは異なった計画制度,計画理念,計画手法が要請されている。しかし都市計画は都市計画法のもとに計画制度や計画手法が展開してきているのに対し,農村計画法はまだ存在せず,農村計画は農林水産省,国土庁その他の制度や諸事業によって行われており,計画制度や計画手法の整備は十分ではない。農村計画の学問的研究は,1982年に農村計画学会が設立されて以降,かなり進んでいる。
執筆者:和田 照男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報