家庭医学館 の解説
せいどういつせいしょうがいとせいてんかんしゅじゅつ【性同一性障害と性転換手術】
自分が男性か女性かをよく承知していながら、「人格のうえでは、自分は、本来は別の性に属している」と確信しています。現実の自分の性に違和感を抱き、別の性になりたいという強い願望を抱き、悩んでいます。
このような状態を性同一性障害(せいどういつせいしょうがい)といい、数万人に1人の割合でいるといわれています。
服装、ことばづかいなど、別の性として日常生活を営んでいる人もいますし、実際に外国へ出かけ、性転換手術を受けた人もいます(1998年まで、日本では、性転換手術が受けられなかったため)。
性同一性障害の原因はわかっていませんが、お母さんのおなかの中にいるころに加わったホルモンの影響と考えられています。
◎性同一性障害に治療は必要か
欧米では、かなり以前から、性同一性障害は病的な状態と認識され、性転換手術(せいてんかんしゅじゅつ)などの根本的な治療が積極的に行なわれてきました。
日本でも、性同一性障害は治療の必要な病的な状態という認識が一部にはあって、1969年に男性に対する性転換手術が行なわれたことがあるのですが、当時の優性保護法に抵触するという理由で有罪判決を受け、以後、性転換手術は行なわれてきませんでした。
それが、1998年、埼玉医科大学の倫理委員会が性転換手術を許可したのがきっかけとなって、日本精神神経医学会が性転換手術を行なうためのガイドラインを公表しました。
そして、同年10月に同大学で、日本で初めて学会指針にそった性転換手術が行なわれました。対象となったのは30代の女性で、幼いころから自分のからだの機能が女性であることに強い違和感を感じ、悩んでいました。手術は2段階に分けて行なわれ、子宮・卵巣の摘出および尿道をつくった後、皮膚移植などにより男性器をつくるというものです。
今後、性同一性障害に対する性転換手術が日本でも増えると思われますが、希望すれば、だれでも、いつでも受けられるというわけではありません。
男性には女性ホルモンを、女性には男性ホルモンを使用するホルモン療法などが、まず、行なわれます。それでも患者さんが自分の肉体に対する違和感を払拭できない場合は、病院内の倫理委員会などで審議され、最終的な治療法として性転換手術しかないという結論が出たときに実施されることになっています。
◎手術は、バラ色の治療法か
性転換手術は医療保険(健康保険)が適用とはならないので、すべてが自費負担となり、かなりの出費を覚悟しなければなりません。
また、手術で性を変えられるといっても、それは、からだの形のうえのことで、月経(げっけい)などの別の性の機能まで備わるというわけではありません。また、生殖能力は一生涯失なわれます。
社会的な最大の難関は、手術で性は変わっても、戸籍法では、性の変更を認めていないので「旧性」のままだということです。
このため、病院での診察、就職の際などに実際の性と、戸籍上の性とが一致しないため、不都合がおこる可能性があります。
手術を受けたために、かえって、社会的な偏見や差別を受ける危険もあります。
日本で性転換手術が社会的な合意を得て、定着するためには、越えなければならない数多くのハードルがあるのです。