江戸後期の戯作者(げさくしゃ)、浮世絵師。本名倉橋格、通称寿平。狂名を酒上不埒(さけのうえのふらち)、別に寿山人と号した。駿河(するが)小島(おじま)藩士で、江戸・小石川春日(かすが)町の藩邸に住み、留守居役、重役加判などの要職を歴任、そのかたわら浮世絵師を志して鳥山石燕(せきえん)に学び、勝川春章(かつかわしゅんしょう)に私淑した。1773年(安永2)洒落本(しゃれぼん)『当世風俗通』の挿絵(文も春町か)を描いて文壇に登場、1775年には洒落本を草双紙(くさぞうし)化した『金々先生栄花夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)』を自画作で発表し、黄表紙の祖と目されるに至った。知的で軽妙洒脱な話の展開と写実的な挿絵で現実世界を戯画化し、当代第一級の作者として『無益委記(むだいき)』など約30編の黄表紙を残すほか、朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)らの黄表紙に挿絵を描き、洒落本、狂歌などの作もある。1789年(寛政1)『鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)』で松平定信(さだのぶ)の改革政治を揶揄(やゆ)して、当局の召喚を受けたが応ぜず、ほどなく没した。この突然の死は、藩公へ迷惑の及ばぬようにとの配慮と、実直な能吏であった養父との折り合いの悪さに原因すると考えられ、自殺とみてよい。
[宇田敏彦]
『水野稔校注『日本古典文学大系59 黄表紙・洒落本集』(1958・岩波書店)』▽『浜田義一郎他校注・訳『日本古典文学全集46 黄表紙・川柳・狂歌』(1971・小学館)』▽『小池正胤・宇田敏彦他編『江戸の戯作絵本』1~3・続編1(社会思想社・現代教養文庫)』
江戸後期の黄表紙作者,浮世絵師,狂歌師。本名は倉橋格,通称は寿平,別号は寿山人。狂歌名は酒上不埒(さけのうえのふらち)。駿河小島藩の江戸詰用人。江戸小石川春日町に住したので恋川春町と号した。画を鳥山石燕・勝川春章に学び自他の作の挿絵を描いた。1775年(安永4)《金々先生栄花夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)》,翌年《高慢斎行脚日記》によって当世風俗をうがち,従来の草双紙の作風を一変せしめた。以後安永・天明にかけて活躍,20余部の作があり,89年の《鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)》は寛政改革を風刺して大当りをとったが,当局の忌諱(きい)に触れてまもなく没し,当時自殺説も流れた。著作はほかに《化物大江山》《三幅対紫曾我》《辞闘戦新根(ことばたたかいあたらしいのね)》《無益委記(むだいき)》等。酒上不埒の名で狂歌もよくし《狂歌師細見》にも社中ともども名が見える。親友朋誠堂喜三二の媒介で妻をめとり〈婚礼も作者の世話で出来ぬるはこれ草本(くさほん)のゑにしなるらん〉と詠んだ。
執筆者:森川 昭
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(園田豊)
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1744~89.7.7
江戸中期の戯作者。本名は倉橋格(いたる)。狂歌名は酒上不埒(さけのうえのふらち)。駿河国小島藩の留守居役。鳥山石燕のもとで絵を学び,謡曲「邯鄲(かんたん)」の筋に当世の遊里風俗を盛り込んだ「金々先生栄花夢」(1775)を画作。青本の概念を一変させて黄表紙の祖となる。以後,田沼意次と蝦夷貿易を題材とした「悦贔屓蝦夷押領(よろこんぶひいきのえぞおし)」や寛政の改革を風刺した「鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)」を発表するが,後者により筆禍をえて退役後に死去。自殺説もある。
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…2冊。朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)作,恋川春町画,1777年(安永6)刊。〈かちかち山〉の後日譚で,子狸に親の敵とねらわれた兎が義理に迫られて切腹し,狸はまた猟人を導いて討たせた狐の子狐に,猟人とともに討たれる。…
…江戸時代中期以後数多く出版された,絵を主とする小説である〈草双紙(くさぞうし)〉の一様式をいう。草双紙の〈黒本・青本〉のあとを受けて,外形は青本と同じく黄色表紙であるが,内容は当世の世相,風俗,事件などを流行語をまじえて写実的に描写するとともに,ことさらに常識に反し理屈を排除して,荒唐無稽な構想・表現による滑稽をもっぱらねらったもので,1775年(安永4)刊の恋川春町(こいかわはるまち)画作《金々先生栄花夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)》から始まるとされる。春町の友人朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)も《親敵討腹鞁(おやのかたきうてやはらつづみ)》(1777)を出し,以後両人の多くの名作によって,“通(つう)”と“むだ”すなわち洒落と機知によるおかしさをねらった成人の漫画ともいうべき作風がうち立てられた。…
…2冊。恋川春町画作。1775年(安永4)刊。…
…黄表紙。恋川春町作画。1781年(天明1)刊か。…
※「恋川春町」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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